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氷天の波導騎士  作者: 牡牛 ヤマメ
第九章〈学園祭〉編
130/132

9―(11)「スクール・デイズ③」

 

(冬道、どこ行ったんだ……?)


 柊詩織は壁に寄りかかって目の前のドンチャン騒ぎをぼうと見つめながら、この場にいない少年に思いを馳せていた。

 ここ数日間、柊は冬道とほとんど言葉を交わしていない。学園祭の準備のせいですれ違い、柊に余裕ができたかと思えば、今度は冬道が用事があるからと離れてく。

 冬道かしぎは校内に入ってきた不審者から女子生徒を守ったり学園のアイドルである少女と恋人宣言したりと、いまや桃園高校の一番の注目の的だ。その名声を利用して売り上げを伸ばさんと裏方から接客に回そうとしたがあえなく断られているため、当日以外でやることはない。その当日だって買い込んでおけば大した仕事ではない。

 冬道の性格を知る柊は、彼が接客などやるとは微塵も思ってなかった。なにせ興味のないことにはとことん無関心なのだ。自分に利がないことに感心を示すわけがない。ただ、仮にやっても見た瞬間に爆笑する自信がある。だから断るのは予想通りだった。

 予想外だったのは、冬道に本当に用事があったということだ。

 どうせ接客を断るための方便だろうと思った柊は、冬道のあとをつけたことがあった。『吸血鬼』としての、超越者としての力を持つ柊が気を抜く冬道に気配を悟られることなく追跡するなど造作もない。毎度わざわざ言い訳作りのために遠出してるのであれば、自分が言ってやると意気込んでの行動だったのだが、行き着いた先が風紀委員室だったことで、その考えは綺麗に吹き飛んだ。

 風紀委員室は能力者たちが集う場と言っても過言ではない。そこに冬道が足を踏み入れたというのは、なにか問題が起こったとしか思えなかった。

 冬道は『組織』の構成員ではない。しかしそれを言うのはいまさらだ。何度も関わっているし、『組織』のトップとは今後、義理の兄妹になるかもしれないのだ。ただでさえトラブルに首を突っ込んでいくのに、これでは否応なしに巻き込まれていくことだろう。

 柊が一つ疑問に思ったことと言えば、どうして自分に一声かけてくれないのかだった。

 夏休みでは力を合わせて戦い、窮地を乗り越えてきた。なにか問題が起こったなら、当然のこと頼ってくれるとばかり思っていた。

 しかし考えてみれば、そんなわけがなかった。

 柊も自身の問題の解決後、すぐに『九十九』――志乃騒動に関わることになり、いつしか能力者の対処に欠かせない存在になったと思っていたが、それはただの思い過ごしだった。

 柊が夏休みに関われたのは、当事者であることと単に数が足りなかったからだ。

『組織』にしてみれば柊は大切な友人で守るべき人なのだろうが、戦場を共に駆ける仲間ではない、ということなのだろう。声をかけなかったのは、必要なかったからなのだ。


(また、風紀委員室か)


 おそらく、冬道たちは明日――つまり学園祭でなにかが起こることを事前に知り、対応を練っていたのだろう。校外から来客を招くのだから、『組織』をよく思わなかったり能力を無差別に振るう能力者の侵入を許すことになる。そんな輩に好き勝手されないよう、時間をかけて作戦を立案してきた。

 とはいえ前夜祭くらいは参加すると思っていただけに、期待を裏切られたショックは大きい。話せてなかった分を一晩で補うのは難しくとも、多少は解消できたはずだ。

 命を最優先にしなければならないとはいえ、恨まずにはいられない。それがまた嫌で、落ち込んだ回数は二桁になったときに数えるのをやめた。


(はぁ……あたしって、いつからこんな寂しがりになったんだか。しかも冬道限定の。これが惚れた弱味ってことなのか)


 最初に冬道に話しかけたのは、まだ『吸血鬼』を御しきれなかった頃。いつも一人でいる彼なら『吸血鬼』のことがバレて失っても構わない繋がりだった。恐怖を和らげるだけの都合のいい相手だった。

 馴れ馴れしく話しかけ、ずっと無視されてるのに話し続けた。周りは危ないからやめろと忠告していたし、当時は柊も冬道のことは危ないやつだと思っていた。もっとも『吸血鬼』に比べれば大人と赤子の腕力ほどの差があったので、特に気にすることはなかった。

 それに話しかけ続けていくうちに、冬道が周りが言うほど悪いやつでないとわかった。ずっと無視されていたものの、嫌なら手を出すなり顔を出さないなり、やり方はあったはずだ。なのに冬道は聞き続けてくれた。

 都合のいい存在だったはずなのに、いつしかなくてはならない存在になっていた。

 冬道が気になりだしたのはその頃だ。


(いまじゃ冬道がいねぇと寂しすぎてそわそわしちまうし、一種の禁断症状じゃねぇか)


 だが、文字通り人生を変えてもらったのだ。未完成のまま放置された『吸血鬼』に振り回され、押し潰されるだけだったのに、冬道は手を差しのべてくれた。

 もう一人にしない。俺がずっとそばにいる。お前が困ってたらすぐに駆けつけてやる。

 冬道にそう言われたとき、いままでは抱きついても平気だったのに顔を見ることさえできなかった。心臓がばくばくと激しく脈を打ち、体温が急激に上昇していく。未知の体験であるがゆえに気づくのが遅くなってしまったが、冬道が好きなのだと理解したのはそのときだった。

 だけど、すでに手遅れだった。


(……真宵がいなかったらとか思うなんて、マジで最悪だな、あたし)


 柊が冬道を好きになったとき、冬道も藍霧真宵が好きだった。

 そして藍霧もまた、冬道が好きだった。

 それもそうだろう。異世界に召喚され、五年もの間、命を背負い合う関係にあったのだ。まるで家族のように生活し、自分たちの醜い部分をさらけ出し――その末に惹かれ合った。

 たった五年。しかしその五年は、一生を過ごした以上に濃密な時。都合のいい存在として近づいた柊では、太刀打ちできるはずもない。

 柊はそのことがわかっていた。だからだろう。何度も藍霧真宵なんていなくなればいい、この世から消えてしまえばいいと願った。

 翔無雪音は父親の殺人衝動を孕んで生まれた。殺すことに快楽を覚え、呼吸をするように人を殺そうとする、まさに殺人衝動の塊だった彼女。それに危機感を覚えた父親は彼女を殺し、偽りの人格を肉体に植え付けた。それがいまの翔無雪音だ。

 すべてが否定されたようだった。殺人衝動の『ゆきね』のために敷かれたレールを歩かされているようだった。ここに生きる翔無雪音はただの代理品。時期がくれば破棄される模造品。それゆえに、本物の輝きに見えた冬道を求めた。好きだった冬道を藍霧から奪おうとした。

 けれど彼は言った。共に過ごした時間も偽物だったのかと。

 あんたが自分を信じられないなら、あんたを信じる俺を信じろと。

 火鷹鏡は箱入り娘だった。お嬢様学校である白鱗学園しか知らなかった彼女はある日、外の世界に飛び出した。小さな箱庭に閉じ込められる彼女にとって外は憧れの世界だった。けれど彼女は、無秩序で腐りきった世界に絶望した。そして化物となった。

 そんなときに冬道に出会い、彼女は問いかける。

 化物である自分の味方でいてくれるのかと。彼は言う。

 そんなわけがない。だが、お前の手を引いて世界に抗うくらいはしてやると。

 翔無雪音と火鷹鏡。人生を変えてもらった二人も、藍霧がいなければと思ったことは何度もあるだろう。それなのに、彼女たちは気持ちをしまいこんだのだ。


(無理だよ……。あたしには、そんなの無理だ)


 だって冬道は真っ暗だった世界に手を差し伸べ、光のもとに引き上げてくれたのだ。隣に別の女の子があるだけの理由で諦められるはずがない。


(そういえば……)


 ちらりと教室の一角に目を向ける。そこには楽しそうにしている紗耶香と瀬名がいた。

 この二人は冬道を不良から学校一の有名人に押し上げることになった不審者撃退の際、襲われそうになっていたのだ。その日はまだ学園祭の準備は忙しくなく、柊はさっさと帰宅していたところ、担任からの電話で知ることになった。

 どうやってかは公表されていないが、不審者は二階の窓を割って入ってきたという。それだけで能力者の仕業だとわかった。翌日にこっそり立ち入り禁止になっていた学校に侵入して形跡を調べてみたところ、犯人は『吸血鬼』の眷属であることも判明した。だとすれば話があってもおかしくないはずだが、『組織』のメンバーからそんな話は一切ない。むしろ避けられているようにも感じている。

 また『吸血鬼』が暴走したのかと思ったが、眷属が現れた時間の記憶ははっきりしてる。それにきっと冬道が黙っているとは思えない。

 ならばなぜ? 考えれば考えるほどわからなかった。

 ほかにも変化があった。

 紗耶香と瀬名が冬道と一緒に登校するようになったのだ。柊は二人の家に遊びに行ったことがあり、冬道と一緒に登校するにはひどく遠回りしなくてはならない。一日二日はお礼を兼ねて迎えに行ったとしても、それからずっとはおかしい。

 なにかあったのかと訊いてみたが、はぐらかされた。あれは超能力を知らない人間に教えられないという反応だった。つまり二人に柊が能力者だと教えていないのだろう。そしていま起きていることを柊を差し置いて伝えているいうことでもある。


「なんだかあたし、みんなにハブられてんなぁ……」


 気軽に呟いてみるが、声は沈んでいる。


(あたし、一人だ)


 後ろを歩いていた彼はいつの間にか肩を並べて、手を繋いで歩いてくれるようになった。優しい温もりの大きな手は安心でき、いつも笑顔でいれた。いつしか前に出て手を引いてくれるようになり、振り返っては歩幅を合わせてくれた。

 でもいまはその手も離れ、背中が遠くに見える。

 どれだけ走っても追いつけないほど、果てしない。


(冬道……)


 膝を抱えて顔を埋め、泣きそうに表情を歪ませる柊。普段の勝ち気で男勝りの柊を知っている人たちがいまの彼女を見てどんな反応をするだろう。驚きのあまり明日は槍でも降るのかと心配するかもしれない。

 だが夜も遅く、周りはそんな体勢の柊を見ても眠いだけなのだろうと声をかけない。クラスメートの一人がタオルケットを羽織らせたくらいか。

 そんなときだった。

 教室のドアがノックされ、一人の男が顔を覗かせた。


「詩織さんは、いるかな?」


 いかにも申し訳なさそうにする彼に、柊は視線を傾ける。


「ちょっと話があるんだ」


     ◇◆◇


 重い腰を持ち上げてやってきたのは屋上だった。学園祭中は立ち入り禁止になっている屋上も開放されるが夜は視界も悪く、落下防止のフェンスがあってもやはり危険なので鍵が掛けられている。

 冬道たちが入れたのはそこに立ち入る生徒がしばらくいなかったため、開けっぱなしにしていたところに偶然入ってしまったのである。それからは風紀委員に渡されているスペアキーを借りて出入りしている。マスターキーは職員室で管理しているのだが、どうやら前夜祭で浮かれているのは生徒だけではないらしく警戒が緩くなっているらしい。

 学園祭の三日目。生徒だけで行う学園祭の最終日に美少女コンテストなるものが開催される。年始めにあるアンケートは一応秘密裏にとなっており、しかも異性だけのものだ。こうして大っぴらに一番の美少女を決めるのも毎年恒例だ。しかし参加は有志なので、アンケートより正しい――というより、確実な結果とは言えないのかもしれない。

 柊はそんなことを思いながら、鍵を束ねるリングを指に引っ掻けてくるくると回している姿を睨みつける。


「うん。きれいな星空だね。明日はきっといいてん気になるよ」


 鍵を真上に放り投げて落下してきたそれをキャッチしながら、桐代春臣は言う。

 正直、柊は桐代が苦手だった。あるとき急に話しかけてきたかと思えば妙に馴れ馴れしく、さりげなく腕なり肩なりと、体のどこかに触れようとしてくるのだ。その動きは滑らかで、油断すれば触られている。ルックスはよく、周りから聞いた限りでは性格もいいらしい。先輩後輩、同級生問わず人気があるようで、嫌でも誰それが告白したと耳に入ってくる。

 いつも笑顔でムードメーカーだとわかるが、柊の目にはそれが作り物に見えてしまうのだ。仮面の下にどす黒い感情が渦巻いているように思えてどうも近づきがたい。

 いまだって会話に応じたくなかったが、しつこく頼み込まれてしまい、断るより早いと判断した。


「あたしになんの用だよ。そんなこと言うために呼び出したわけじゃねぇだろ」


 不機嫌さを窺える低い声に、桐代は肩をすくめた。


「怖い顔をしていたから和ませようかと思ってさ」

「…………」


 余計なお世話だ、とは返さない。


「余計なお世話だって言いたそうだね」

「…………」

「はぁ……俺、詩織さんに警戒されるようなことした?」

「てめぇの胸に手ェあてて考えろ。いま何時だと思ってんだ。ほかのやつはどうか知らねぇけど、あたしはわざわざ呼び出されてイライラしてんだよ」

「あはは……ま、参ったな」


 整った顔立ちに苦笑を貼り付けて桐代は頬を掻く。


「嫌われてるとは思ってたけど、ここまでなんてね。俺、あんまり女の子に嫌われたことないから実はショックでさ」

「へらへらしてんのが気に入らねェんだよ」


 なるべく会話を打ち切る言葉を選び、さっさと本題に入れと遠回しに促す。


「でもこれは元からだからなぁ。治そうと思って治せるわけじゃないから、少しでも俺のことを知ってもらって好きになってほしいな」


 月明かりに照らされた桐代の微笑みにわずかながら視線を奪われた。さすが全校生徒がトップを認めるだけのことはある。このオーラを向けれれば、たしかに気を許してしまうかもしれない。

 柊は小さく舌を打つ。


「やっぱり詩織さんは、冬道の方がいいのかな?」

「あ?」

「はははっ、わかりやすいな、詩織さんは。そんなにあいつがいいのか?」


 反射的に殴りかかっていた。牙を剥き出しにして勢いよく踏み出し、無防備に突っ立っている桐代の横っ面に拳を振り抜く。軌道は単調だから見切るのは難しくないだろう。だが一般人である桐代が目で追えない速度に達している。


「ほんっとうにわかりやすいな、あんた。脆すぎだろ」


 だというのに、桐代は拳を受け止めていた。


「もっと賢い女だと思ってたんだが、俺の思い過ごしだったか。あんなやつの名前を出しただけでこの様だ。ははっ、ハズレくじでももっとマシなのあんだろ」


 真紅に染まる瞳で桐代は柊を見下す。


「なっ……!」

「驚くことねぇだろ? あんたが俺の力を奪っていったんだ。つってもいつの間にか戻ってきてるしむしろ強大になってんだ。感謝してるよ」


 柊は腕を振り払って桐代との距離を開ける。


「にしても詩織・・みたいないい女があんなやつが好きだって? はっ、理解できねぇな。あんなやつのどこがいいってんだ」

「呼び捨てにしてんじゃねぇ。てめぇなんか比べ物になれねぇくらい、冬道はいいやつだ」

「でもさ、お前」


 桐代はにやにやと粘っこい、ともすれば下卑たという表現がぴったりな笑みを作る。


「冬道に捨てれられてんじゃん」

「……っ!」

「だってそうだろ? あいつはお前じゃなくて藍霧さんを無理やり従わせてるんだからさ。あーあ、お前でも冬道には勿体なかったけど、少なくとも純粋な付き合いができたってのに、馬鹿なことしてよ」


 冬道と桐代が揉めた現場に柊は居合わせていなかった。聞いたところ、藍霧が冬道にお弁当を届けに来たのは無理やり従わせてるといちゃもんをつけたらしい。周りもまだ勘違いしていて、場を納められそうな桐代を連れてきたのも原因の一つではある。

 そこに翔無が割って入り、二人の関係は清いものだと証言したとも聞く。それでも半信半疑だった各々は、しかし今日までの彼らを見て真実なのだと理解した。

 桐代はそれさえも虚実だと思っているらしい。

 いつもの柊なら毒の一つでも吐きかけていただろう。だが、いまは桐代の言った捨てられたの言葉に動揺していた。


「まさか、いままでと同じでいられると思ってたのか? 甘ぇよ! お前は冬道に捨てられたんだ!!」

「んなわけねぇだろ! あいつは、ずっとあたしのそばにいるって……」

「じゃあなんで避けられてんだ? 冬道はさ、お前が鬱陶しいんだよ」

「そ、んなわけ……」


 ない、と言い切れなかった。思い当たる節があったのだ。

 こうして桐代が『吸血鬼』の眷属であることさえ教えてもらえなかった。

 紗耶香や瀬名のことも隠している。

 なにより、冬道から拒絶の色を感じていた。


「だからわかりやすいって言ってんだろ? あんまり隙見せんなよ。――殺すぞ?」


 とっさに腕を交錯して防御の体勢を整える。次の瞬間、巨大な鉄球に殴られたような衝撃に全身を叩かれ、足が地面から切り離された。背中から引っ張られるように弾かれ、砲弾となって飛んでいく。落下防止のフェンスを大きく変形させてようやく停止した。

 掌底を打ち込まれたのだと理解したのは、ずるりと落ちて尻餅をついてからだった。遅れて訪れた痛みに顔をしかめるも、すぐに霧散する。腕に違和感が残るのは骨が折れていたからだろう。


「あの柊詩織がこの様かよ。一年前のあんただったら俺が勝つどころか、一撃与えることだってできなかったっつうのによ。男に溺れて落ちぶれやがって」

「うる、せぇ。あんま調子乗んじゃねぇぞ。――死にてぇのか」


 刺すような殺気の篭められた低い声。

 あまり知り合いには聞かせたくない声だ。

 桐代は口角を吊り上げる。


「できんのかよ、あんたみたいな甘ちゃんによぉ? それに『死』なんて俺たちには無縁になっちまった言葉じゃねぇか。――ああ、だから冬道に捨てられたのか」

「うるせぇって言ってんだろ! あたしは! あたしは……」


 ――冬道に見捨てられたのか?

 いや、そんなわけがない。見捨てるつもりだったら、二度も助けに来るわけがない。

『吸血鬼』の暴走で怯えていたときと志乃に捕まったとき。

 冬道は見捨てようと思えばいつでも見捨てられたのだ。


「そもそも俺たちは同族以外とは相容れなくなっちまったんだよ。お前のせいでな」

「あたしの……」

「そうだお前のせいで! お前のせいで俺たちは死ねなくなったんだ! 冬道だけじゃねぇ、ほかのやつら全員に捨てられて当然なんだよ!!」

「うるせぇ!!」

「事実だろ? じゃあなんで避けられるんだ? お前が不老不死の化物だからだろ」


 桐代の刃が柊詩織を切り裂いていく。

 薄々わかってはいた。いくら暴走していたとはいえ、柊のスキルドレインに遭い、眷属となった彼らは死ぬことのない永遠に続く苦痛を味わうことになる。それは全部、自分のせいだ。


「そんなお前にいいことを教えてやろうか? お前が冬道と一緒にいられる方法だよ」


 ぴくりと柊の肩が震える。


「いいか? 冬道がお前を避けるようになったのは、お前が不老不死の化物だからだ。どんなやつだって化物の近くになんていたくねぇからな。だが裏を返せば同じ化物なら近くにいてもいいってことだ。――だったら、冬道も同じ化物にしちまえばいいんだよ」


 それは悪魔の囁きか、神の慈悲か。


「でもあいつの隣には藍霧さんがいる。お前にとっちゃ邪魔な相手だろ? 俺も藍霧さんの隣にいるあいつが邪魔で邪魔で仕方ねぇんだ。だから協力しようぜ?」

「……協、力……?」

「ああ。俺もお前も、あの二人が一緒なのが納得できない。それだけで協力するには十分な理由だと思うけどな」


 柊は考える。

 きっとこのままでは、完全に冬道との繋がりを失ってしまうだろう。自分が化物だから。――だったら桐代の言うように、冬道を『吸血鬼』にすればいいのではないか。


「なにを悩んでるんだ? お前に断る理由なんてないだろ。同じ眷属同士、仲良くしていこうぜ?」


 桐代はそう言って握手を求めてくる。

 ――ああ、そうだな。

 柊は俯き加減で立ち上がる。


「よろしく頼むぜ? 詩織」


     ◇◆◇

 

 

 次はいちおうの総括になります。

 そのあとはリメイク版の一章が書き上がり次第、ゆっくりと更新していきます。

 人気投票は登場人物全員が対象ですが、もはや忘れられてるキャラもいると思いますので、次の投稿でキャラ紹介も混ぜておきます。

 もう決まってる方はどしどしお願い致します!

 七月終わり、あるいは八月頭にはリメイク版を投稿します。


 2014年七月六日

 リメイク版・episode2―3まで執筆完了(episode2は4まで。全四話プロローグとエピローグの予定)

 

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