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月が人質です

作者: 雉白書屋

 突如として国を、いや世界を揺るがす大事件が発生し、総理大臣、副総理、官房長官その他、総理の派閥の大臣らは首相官邸、大会議室に集まった。重々しい空気が漂う中、口火を切ったのは当然、我らが総理である。


「……では、宇宙人による月の不法占拠および、身代金の支払いについて議論していきましょう」


 一同、顔を見合わせてニヤリと笑ったが、総理が冗談を言ったわけではない。非現実過ぎて、もはや笑うしかないのだ。


「いやぁ、驚きましたなぁ総理。いやね、私、ちょうど自宅の縁側でテレビの音に耳を傾けながら月を眺めていたんですよ。あの時間はなんだったかなぁ。あ、そうだ、クラシック番組がやっていましてね。私、よく見るんですけど、ええ。で、それが突然番組変更したかと思えば宇宙人が月を占拠したって言うじゃないですか。公共放送が何をふざけたことをやっているんだと思ったのですが、まさかの宇宙人による電波ジャックで、本当の出来事とはねぇ。ええと、何でしたっけ彼ら」

「ドトイト星人だ」

「いや、ドロトトじゃなかったか?」

「全世界同時放送と題していたが、どうも連中の翻訳機が不完全らしく、聞き取りにくいところがあったよなぁ」

「名前なんてどうでもいいことだ。重要なのは連中が本気か否かだ」

「本気に決まっているだろう。もう、そんなことを議論する段階にはない。ねえ、総理?」


「ええ。いま話し合うべきは冒頭に申し上げたように、身代金の支払いをどうするかです」


「アメリカはなんと?」


「まだ何も」総理は首を横に振った。


「どうせ我々に払わせるつもりだ!」

「まあまあ、座れよ。我々だけに払える金額じゃないだろう。他の国の動きはどうなんだ?」

「とりあえず主要国以外は静観、もとい人任せのようだ」

「だろうな。そもそも金がない。一部の国はすでに支払うとの声明を発表しているようだが」

「それも連中の要求の一部。微々たるものでしょう」

「なにせあの金額だ。まあ、月だからな。当然と言えばそうかもしれないが……」


「大体、宇宙人はその金をどう使うんだ」

「地球の土地を買うとか?」

「国を丸ごと買えそうな金額だぞ」

「故郷の星が住めなくなり、移住先を求めてか? はっ、泣かせてくれるね」

「侵略前に国力を削ごうと考えたのではないでしょうか……」

「少し回りくどくないか? いずれにせよ、払うか払わないか、どうしたものか……」

「ドーン! と支払い、国力と懐の大きさを示す! と、いう風潮にそのうちなるのでは? 時間を置きましょう」

「なったとしても、国民からはまたグチグチ言われるでしょうなぁ」

「そうか? まあ、そんなのは無視すればいい」

「すでに野党各党首は動き出しているようです。街頭で月への想いを人々に訴えかけていると。募金活動もしているそうです」


「では野党は支払うことには賛成しているということか」

「いや、支払えば、国民の生活が苦しくなっているのに、と言い出しますよ」

「だろうな。月よりも身近な人の救済をとかな」

「しかし、支払わなければ風情もない、ケチな連中呼ばわりされるだろう」

「そう。どのみち批判が飛ぶ。連中は無視でいい。いつものパフォーマンスだ。募金も懐に入れるだろうよ」


「それで、他の主要国は?」

「様子見、というか我々のように会議しているのでしょう。あの放送から、まだ二十四時間と経っていないですからね」

「しかし、そう時間もない……」

「我々に考える猶予を与えないというのは、まさに詐欺師の手口では?」

「しかし、観測の結果、宇宙船が月付近にいるのはわかってい――」

「月に自衛隊を派遣すべきだ! 連中を殲滅するんだ!」

「大抵、一人はこういう血の気が多い奴がいるよなぁ。やるにしても、アメリカに任せればいいだろう」

「無理でしょうね。いかなる兵器も連中の宇宙船には届かないでしょう。こういった事態を想定し、秘密裏に開発してあった新型兵器が登場なんて、そんな映画みたいなことはないでしょうなぁ」


「身代金を支払う以外に打つ手なし、か……」

「いや、そもそも月を破壊するなど本当に可能なのでしょうか?」

「確かに。いくら連中の軍事技術が未知とはいえ、月を粉々にするのに、どれほどの威力の爆弾が必要になるんだ?」

「爆弾とも限りませんが、どんな兵器にせよ、核ミサイルですら比較の対象にはならないでしょうなぁ」

「そんなものが地球に使われたら……」

「そうやって脅してこないのはなぜだ? そもそもどうして月を人質に?」


「どこを狙うというんです? もし一発しか使えないとしたら脅せるのは国の一つ、二つ程度でしょう」

「狙っている国の名を伏せればいい」

「それだと危機感が薄い。やはり誰もが知り、それなりに大事に思っている月を狙うのがいいのだろう」

「話が逸れているぞ。それで我々は要求額の何割を支払うんだ」

「中国政府は、月を題材とした創作物が多い国が多く支払うべきだという声明をすでに出しているそうです。『竹取物語』のような」

「ほぼほぼ名指しじゃないか。いや、中国こそ、そういう物語は多いだろう」

「もう破棄しているんじゃないですか? はははっ」

「トルコはどうです? あそこの国旗は月をモチーフにしているでしょう」

「パラオは満月。うちは太陽でよかったなぁ」

「難癖をつけられるかもしれませんよ。それは満月だろ、と」

「旭日旗を見せてやればいい」

「怒り狂う国が出ますよ」

「吸血鬼め」


「また話が逸れていますよ。それで、現実的に月を破壊することが可能なのかどうか。破片が我が国に落ちてきたら事ですが、詐欺なら後々、支払った分だけ間抜けに思われるし、国民の怒りも買うことになる。まあ、すぐに忘れるでしょうが」


 と、総理が言って笑うと、他の議員たちも笑った。


「ええ、大丈夫。それでもうちが選挙で負けることはない」

「我々も真に遺憾です。今後の動きに注視していく所存です。これで、国民は収まりますよ」

「ははは、問題ないな」

「それで月の破壊方法ですが、ほら、岩に杭を打って割る技法があるじゃないですか。あんな感じでやるのではないでしょうか」

「馬鹿な。そんなデカい杭があるか」

「ドリルはどうでしょうか?」

「いや、レーザー兵器とか」

「その辺は話しても仕方がないでしょう。相手は宇宙人ですよ」


「専門家の意見は?」

「月の? 宇宙人の?」

「月愛護団体が声明を発表したそうだが」

「月愛護団体って何だよ」

「他にも月文化愛好協会などNPO法人にいくつか団体が」

「そいつらも募金活動してるんだろ」


「我々も募金活動を始めてはどうでしょう? まずは団体を立ち上げ、そこに資金が集まるようにしましょう」

「では、私の友人に頼みましょう」

「各企業にも資金提供を呼びかけましょう」

「月をテーマにしたイベントを開催してはどうでしょう?」

「それは事が済んでから大規模にやるとしよう。万博や五輪のように準備に時間をかけてな」

「一度ではなく、何回か開催しましょう」

「いっそのこと、毎年やろう。新たに税金も取ってな」

「ああ、また潤いますなぁ」

「我々の懐が」


「はははははははは!」「はははははははは!」「はははははははは!」「はははははははは!」


 各種団体からの募金や政府が捻出した資金は一纏めにされ、そのうちの一部が中抜きされた後、金塊に換えられた。その金塊は、地球に降りてきた宇宙人の手に渡り、彼らは姿を消した。

 結局、どの国もテロリストに屈してはならないといった理由をつけて、支払った身代金は宇宙人の要求額に遠く及ばなかった。しかし、宇宙人たちが文句を言わなかったことから考えて、あれはやはりブラフで、月を破壊することなど土台無理な話だったのだ、と例のごとく活動家や野党らの政権批判が始まったが、無事に破壊を免れたことを祝い、各国合同で月をテーマにした大規模なイベントの開催が決定した。


 しかし、そのメインイベントとして打ち上げられた無人探査機が送信した月の裏側の映像を見た人々は驚いた。

 月の裏側に、いつの間にかシンボルマークの類とメッセージが彫られていたのだ。

 何が書かれているかは宇宙人たちの言語であるため読むことができないが、最初に宇宙人たちが出した声明文を思い返し、おそらく彼らは宇宙の環境保護団体の類で、月はそのパフォーマンスに利用されたのではないか、と地球人類は推察した。

 そして、知らず知らずのうちに今度は地球が人質になっているのではないかとも……。

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