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闇に包まれている。
身体は重く、動かそうという命令すら何処かに忘れてしまったかのような感覚。
そんな中
浮かび上がるのは思い出
夏の森で走りまわっていた頃
蝶の蛹を毎日観察して
羽化する瞬間を見たときの心の高まり
乾いた小さい蛹の上部を割り
這い上がる蝶は
その変わり果てた姿を少しずつ見せる
押し込まれていた窮屈そうな場所を捨て
這い出た彼等は
まるで最初からそこには居なかったかのように
大きく鮮やかな模様の翅を
少しずつ
少しずつ
時間をかけて
ひろげ
のばし
長い時間をかけて
その場に留まり
やがて
確認するかのように
パタパタと翅を動かしはじめる
準備が出来たのかと待ち構えるが
それは私の勝手な考えで
またしばらく彼等はじっくりと
静止と羽ばたきを繰り返し
私の膝が少し痛くなった頃
一瞬目を離した隙きに
風にのって
あっという間に
青い空へ
飛んで行ってしまった
大きく見えていた姿は
空の青の中にあっという間に溶けてしまい
あまりの速さと風のいたずらで
見失ってしまう
それは
小さな卵の頃から
毎日
毎日
見守っていた時間を
簡単に裏切られたような
悲しいような
嬉しいような
でも祈るような
私の中で
それは
ずっと
ずっと
刺さったままの
小さな
小さな
棘のような
初恋のような
傷痕で
だから
どこかで
いつからか
私の世界では
私は蝶ではなく
傍観する愚かな人間にしかなれないのではないか
そんな考えで頭が埋め尽くされていった
だから
簡単に騙され
欺かれ
殺されることを
簡単に受け入れる
そんな人間として
この世を去る
その時が
ちゃんと訪れているなら
抗う事は
ないと
そう考えて
ゆっくりと息を吐き
意識を浮上させた