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Last reverse  作者: 螺鈿
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Episode 8 All stories begin【3】

《実は、グロウスなんだよ!ほら、さっきのイヴの中の神様は少し小さかっただろう?あれは無茶をしすぎたせいなんだよねえ……そして、その時のデータを元に組み込んだのがグロウス!こっちはいいよ!外見的な変化はイヴと比べ物にならないレベルだけど、安定率は凄まじいことになってる!》


 その安定率というのが何を指しているのか、スラヴァカも完全に把握できていないが予測できるのは“能力”だ。神について話した時ちらりと言っていた、神は能力と呼称する神秘の力を持ち、人が使うことでそれは発揮されると。


 単純に人の中に埋め込まれた特大の異物である神との融合の安定率とも取れるが、続くセイナーの言葉でその安定率というのが能力のことだとすぐにわかった。


《イヴの能力は“生誕”!任意の性格、身体能力等々を持つ新たな生命を作ることができる能力さ!しかし不完全でねえ……今の彼女ではざっと百人ほどが限界なのさ……それに、細かい調整はできないみたいだ。残念残念。ほら、その証拠に神様も小さくなってしまっているだろう?》


 肉塊の中心で小さく輝く神の欠片を指さしながらこれ以上ないほど残念そうにそう言うが、二番目の無菌室を見てすぐにいつもの調子を取り戻し手を広げる。狼……グロウスを指さして興奮気味に声を荒らげた。


《彼の能力は無限!外部からの刺激、内部の成長により無限の可能性を掴み取る!まさに神に等しい能力だ!》


 グロウスに機械の触手が伸びるが、目にも止まらぬ速さで叩き落とされる。そしてグロウスの全身を覆う銀色の毛が同じように伸びて機械群を破壊し尽くした。


 機械の触手による外部からの刺激で成長したのだ。肉体をここまで変貌させ、更に変化をさせ続けるというのか。


「何が、神だ……あんなもの、悪魔か何かだろうが!」


《さー次々、これはもっっっと凄いよお!》


 そして指さされた最後の無菌室。何重にも鍵をかけられた鎖で全身をぐるぐる巻きにされ、その上で黒色の布を被せられて赤色の氷でガチガチに凍らされた聖書の中に出てくる悪魔のような生命体がそこにはいた。


 何故か、見ているだけで体が震える。骨の髄から、この存在を恐怖しているのだとわかった。これは、なんだ。


《これは、フォフト!能力は恐慌だ!そこにあるだけで相手に恐怖を与えるのさ……怖いねえ!怖い怖い!》


 見るに堪えないとは正にこのことだろうか。恐怖と絶望で涙が止まらない。このタイミングでこうされたことは、きっと偶然ではないのだろう。今、確信できた。


 神の欠片などという計画の中心を子供たちに預けて、四六時中監視しない方がおかしい。盗聴器か何かも仕掛けられていたのだろう。スラヴァカの逃亡計画は最初からバレていたということか……


《僕はね、神の欠片を埋め込んだ君たちのことを星と呼ぶことにしたよ!僕たちのために僕たちが築き上げる理想郷、その前の姿である地球の最後を着飾るんだ、同等の名をあげなきゃいけない!》


 バンドラの蓋は開かれた。


 部屋のあらゆる場所からガスのような何かが噴出され、急激な眠気に襲われる。手足の感覚が痺れ、視界が霞む。


 最後の力を振り絞って女子二人を部屋の外に出す。顔面を覆われていた彼女たちはガスの効きが薄いようで、スラヴァカの視線を受けながら訳も分からず走り出した。


 だが、遠のく意識の向こう側でバヂリ、という電気か何かの音が聞こえ、誰かの倒れ伏す音も聞こえた。部屋の外にいたムーナがスタンガンか何かを使ったのか。


 全身の感覚が薄れ、絶望を包まれながら意識が闇に落ちていった。嗚呼、とんだ地獄で生きていたものだ。


 ――――――


 グロウスで行われた実験は、イヴによって得られた情報を元にしたより深い部分での神と人の接続だ。イヴは外見的な変化がほぼ0に等しく、また能力も不完全だった。


 それを踏まえて、グロウスは人を遠ざけて神に近付かせることを目的に作られた。結果的に彼は外見が狼に酷似した獣になり、能力もほぼ原型と同じ規模、強さで扱うことができる。ただその代償として人としての自我を失っているが。


 フォフトで行われたのは人と神の中間を作る実験だ。完全に自我を失ったグロウスの結果を反省し、ある程度は人としての自我を残せるようにして神の欠片と融合させた。


 この実験が成功か失敗かの判断は難しいだろう。何故なら融合後の彼の人格は元々のものとは似ても似つかない血と殺戮を求めるものになっており、鎖と感覚を閉ざす布、全身を覆う拘束性に重きを置いた氷を用いてようやく無菌室に閉じ込めることができるほどの凶暴性があるのだから。


 言葉を介すことはできても意思の疎通が困難で、常に戦闘を求める凶暴性がある。だが、当初の目的である“神と人の中間”を作ることには成功している。大きな一歩だ。


「……ソシテソノ次ヲグラーヒデ行ッタトイウコトカ」


 目が覚めると、そこはイヴたちの閉じ込められている無菌室と同じ広さの真っ白な部屋だった。随分と視点が低くなっていて、天井の遠さが無限のように感じられる。


 何故なのか。その疑問は、すぐに解消された。部屋の中にあった鏡に映っている姿は、全身を黒い甲殻で覆われた小さな蜘蛛だったのだ。眠らせれた後、同じような実験をされたのだろう。体の内側で渦巻く異常なまでの“力”が、神はここにいると主張している。諦めのような感情が湧いて出た。


 セイナーは、蜘蛛と化したスラヴァカの意識が覚醒すると同時に部屋の中に入ってきた。相も変わらず狂気的な笑みを浮かべて、愉悦と恍惚に満ちたその男が。


 彼は挨拶もなしに実験の経緯とその結果を語り始めた。どこか自慢するように、誇るように。


「おや、よくわかったね、君じゃないって」


「オ前ノ実験ハ順番ナンダヨ。ココニキタ順番二実験シテイッテル。突然順次ヲ変エルナド……有リ得ナクハナイガ、今回ハソウデハナイト判断シタマデダ」


「やっぱり頭がいいねえ君は……」


 セイナーが一息ついてから続きを話し出す。


 グラーヒではフォフトの実験を踏まえてより強く人間の部分を残し、能力は同じ程度扱えるように調整した。簡単ではなかったが、セイナーとムーナという天才が二人もいれば必要なのは時間のみ。結果は完璧だった。


 ただ、肉体の変化は弄れないということが判明した。グラーヒは現在凄まじい大きさに変貌し、研究棟の地下に眠らされているという。命に別状はないそうだ。


 性格もそこまでの変貌は見られない。ただ、どこか子供っぽさが消えて大人らしさが顔を出したという。落ち着きが見られるようになり、静かさがぐっと増したそう。


 スラヴァカで行った実験は大詰め用の実験だ。それは、狙った能力を定着させる実験。神と人の融合は成功、元の人格を残すことも成功。ならば後に必要なのは楽園を築き上げるための、現在の地球を排他するための能力。


 だが。


「後回しにしていた問題が……ここで牙を剥いたんだよ」


 セイナー曰く、神と人には相性があるという。子供たちは神と融合する適性がある者を選んで集めたのだが、セイナーたちはその限りではない。彼の体細胞を使って神との融合実験を行ったところ、尽く失敗に終わったそうだ。


「ハ……ハハッハハハハハ!神二見放サレタナァセイナー!天罰ガ下ッタンダロウサ!ハハハハハ!」


 全力で嘲りながら笑う。なんてお笑いだ、こんなにも子供たちをめちゃくちゃにしておいて結局何もできないというのか。人類史最大の喜劇だ、はははははははははははははは。


 だが、セイナーの様子を見るにそうではないのだろう。何か打開策を見つけたような顔をしている。


「まあ、元々僕らがやらなきゃいけない訳じゃない。君を使った実験のお陰で狙った能力の定着には成功したんだ。後は残りの二人で何とかすればいい」


「ドウイウ……ドウイウコトダ、ソレハ!」


「なに、そう難しいことじゃないさ。僕とムーナ以外の全てを排他、滅ぼし神の力により永遠を手に入れる。極論僕たちに必要なのは神による永遠だけなのさ」


「ダガ、貴様タチハ神トノ相性ガ悪ク、神トノ融合ハ不可能ナハズデハナイノカ。矛盾ガアルゾ、セイナー!」


 セイナーがゆっくりと立ち上がり、腕を大きく広げる。恍惚に満ちたその顔、その瞳の中に映る景色は、きっとスラヴァカのそれとは違うのだろう。


 白衣の内側から何かの装置を取り出し、備え付けられたボタンを押した。するとマジックミラーが外れ、研究棟の外が見えるようになった。そこに広がる景色は……


「ァ、アア……アアアアアア!!!!」


 正に、正義。純白の甲冑を身に纏い、いっぺんの曇りもなく力を振るうその姿は正義と言う他ないだろう。拳を震えば大気が裂け、脚を震えば大地が崩れる。ただただ純粋で圧倒的な力が形を得た存在がそこにはいた。


「アレハ……アア、アレハ!」


「そう、アヴルト。彼には絶対の名をあげたよ。絶対星。あ、君の名前は隷属星ね……彼は今感情のストッパーを外してある。力尽きるまで世界を壊すよ」


 どこか美しいと思ってしまっているのが恐ろしい。躊躇いも容赦もなく、滅びのために振るわれる力。見たことのない神の如き力……否、真なる神の力。それがこんなにも美しいものだなんて、知らなかった。知りたくなかった。


 崩れる音がした。全てが崩れ去る。アヴルトだったものが力を振るう度、心の中の何かが音を立てて崩れ去る。


「最後の仕上げはデゥストラがしてくれるよ。彼の仕事はもうすぐ終わり……破滅の序章はもう告げた」


 この日、世界中で同じニュースが報じられた。不可解な自然現象の発生により、世界各地に異常が発生。修復の目処は立たず、神の裁きか何かが下されたようだ、と。


 それは正しい。デゥストラの力をもって世界を破壊するために、絶対星という名の神が裁きを下した。一度ひびの入ったガラス細工が簡単に壊れるように、世界に一度亀裂を入れる。楽園のために、一切の油断をしてはならない。


「僕とムーナは、残された五つの神の欠片によって永遠を手にする。加工可能段階にはなっているんだ……先に融合させた人を取り込むだけなら、相性なんて関係ないんだよ」


 そう言って装置のボタンをもう一度押し、マジックミラーが張られた。外の様子はもう、見えない。音も聞こえない。絶対星がどんな滅びをもたらすのか、わからない。


 セイナーが部屋から出ていった。後に取り残されたスラヴァカ……隷属星はただ沈黙している。


 もう、希望はない。絶対星により滅びが訪れ、デゥストラにより仕上げが行われる。実験台たちはどうなるのだろうか。楽園に不要な存在は全て死に絶えるのだろうか。家族だと信じた彼らは、ただの狂気に囚われた愚者だったのか。


 もはや何もする気も起きない。運命をただ受け入れ……


「イイヤ」


 そんなこと、できない。


 ただの孤児だった少年は、今正しく人を知った。そして思う、考える。真にこの悲しみを、やりきれない憎悪を知る我々こそが幸福に生きるべきではないのかと。


「諦メテ、タマルモノカ。ボクハ諦メン、セイナートムーナハ必ズ殺ス。残サレタ人類モ殺ス。人ガコンナニモ残酷ナラバ世界二必要ナイ。コノ憎悪ヲ思イ知ルガイイ……!」


 こうして、彼は心に炎を宿す。


 その頃、もう一人蠢く者が。第一の少女は何を思うのか。星たちは歪に煌めきだす。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 神の欠片により彼らは人を逸脱した。

 最愛の家族に裏切られ、愛すべき兄妹たちはその全てが弄ばれ使い捨てられ、残ったのは絶望だけだ。

 これは、正しい世界の最後の一幕。これは、既に通り過ぎたはずの過去の一幕。愚かで哀れな悲劇の一幕。

 次回、『Last chapter of the past』。

 全ての根源、物語のピースがはまる。

ご拝読いただきありがとうございました。

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