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Last reverse  作者: 螺鈿
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Episode 4 When disaster strikes【3】

「それは……なんだ、染黒……知らない、そんな力は……!」


「全能権限、一時解放!対神器侵食構造、能力変質!」


 光が溢れた。同時に染黒が召喚した三体の化け物もどこか別の違う世界に飲み込まれるようにして消えていった。召喚を取り消されたのではなく、元から召喚などなかったかのように。


 その時、ウタマの顔の横を光が通り過ぎた。その先にある並行世界との繋ぎ目に無理やり割って入るようにして伸びたその光は、腕輪の神器を経由して並行世界に吸い込まれた。


 ウタマの全身に激痛が走る。彼女にとってその並行世界は自分の体と同義だ。誰だって己の臓腑に異物が入り込めば耐え難い激痛に襲われるというものだ。


「があ……何をするつもり、だ!?」


「これはなんと名乗ろうか……そうだな、介入の神器とでも名乗ろうかな?それとも同調の神器?」


「お前の神器、は、杖の神器……ではなかったのか……!」


「杖の神器?なんだそれは……ワシの神器は今も昔も一つだけよ。その能力は正に全能!望む形に姿を変え、望む能力を使うことができる!認識まで変えられるのが欠点だがな」


 それは、ウタマの知らぬ名だ。


 ウタマはただ染黒に焦がれた者。ただその力を望み隣に立とうとした者。その名を知るはずもない。


 なぜならばそれは、世界の崩壊と共にある名だ。


「五柱、全能神器!我が手の内にある!」


 剛腕、戦蓄に次ぐ第三の五柱。染黒の手中にある。


 光を放つ黒い球形の物体とウタマの背後にある並行世界を繋ぐ門が完全に繋がった。異物が入り込んだウタマの肉体が悲鳴をあげ、全身の穴という穴から血を流し倒れた。腕輪の神器の能力を停止しようとするが、遅い。もはや支配権限は染黒にあり、彼女では止めることはできない。


「さあ!使わせてもらうぞ、ウタマ・イン・ケルパ!門は開かれたな、後は喚ぶだけだ!お前の体は儂の召喚についてくることができるか!?耐えられるか!?」


「がっ……くおあ、ああ……!」


「お前の命、我が計りに乗せられているぞ!」


 あの時と同じ、地獄の釜の蓋が開く。冥滅之帝を召喚するために開かれるはずの扉は、今。似ても似つかぬ異界の悪鬼羅刹を召喚するためにその重厚な枷を外した。


 黒の戦士よりは、弱い。だが、最上第九席に迫るほどの力を保有したウタマの空想した並行世界の存在が呼び出されようとしている。彼女の切り札たるその存在たち、黒の戦士を頂点とした兵団の騎士たち。それを今、その主でもない、支配者でもない、部外者が喚ぼうとしている。


「やめろ、染黒……!それはダメだ……!ダメなんだ……!黒の戦士だけは、完全顕現は私にしかできない!彼がいないというのに、その兵団は統率できない!やめろ、染黒!」


「やめぬ、やめぬよ。全てぶち壊すために、必要だ。さあ謳え、異なる世界に闊歩する死を招く兵団よ!」


 それは等しく滅びの形をしている。ウタマの中の空想、滅びという概念そのものが姿をとったそれらは悪とはかけ離れた黒の戦士を頂点に据える矛盾した存在たち。本来の逸話とはかけ離れた真なる厄災である。


 ウタマは史実が好きだった。数少ないこの地平に残る文献を漁りかつての人の生き様を、為した偉業を、残した言葉を読み取り己のものにする。それが好きだったのだ。だからなのか、それらはかつての偉人の姿を模する。形なき滅びを具現化した存在でありながら確かな過去を持っているのだ。


「さあ、召喚は為された!今この戦場に蘇るがいい!黒の戦士を失った滅びをなるがままとする者共よ!」


 その数は十。ウタマの背後に開かれた門から這い出るようにして彼らは現れた。各々の理想とする滅びを携え、それを為すために必要な悪意と武器を持って。過去はあれど光に塗れた確実な姿形を持つことはなく。


 高らかに笑う染黒の願いに応えるように、それらは滅びをもたらすために戦場全体に走り去った。その悪意の奔流は留まることはなく戦場を覆い尽くすのだろう。


 だが。


「む……そうか、それはそうよな」


 即座に一人目が死んだ。姿の見えない何かに呑み込まれるようにして突然姿を失い、後には断面が噛み抉られたかのような傷跡だけがある。足だけ残ったそれはやがて汚れが拭き取られるように、間違いが正されるように消えていった。


「シナリオに発生した例外。奴らの対処はゼロがしているが他の例外にも対処する者がいるのは当然よの……」


 中々思いどおりにはいかぬものだ、とため息を吐いてまた力を込める。黒色の球形が更に深く並行世界を侵食する。


 だが、その繋がりは突如として切れた。ウタマが腕輪の神器と共に逃亡したのだ。染黒の意識が兵団に割かれた僅かな隙に全速力で逃げ出したのだろう。


 彼女は染黒を討伐するよりもこれ以上力を使われないことを選んだ。並行世界の中で頂点の力を持つのは黒の戦士とあの兵団だが、それ以外にも強い力を持つ者はいる。それらまで召喚されてしまえば、エスティオンを滅ぼすよりも先にこちら側が滅ぼされてしまう可能性までできてしまう。


「なんとまあ逃げ足の速い。くく……しかし、杖の神器か。ワシも歳かな。そんなものを選ぶとは……だが、いや。そうか……もう一度会いたいと願ったが故かな……」


 染黒が黒色の球形と共に歩き始めた。宙に浮くそれはゴボリゴボリと泡のように沸き立っている。


 ははははは、と魔女の笑みが響き渡る。もはや目的の定まらぬその存在がこの戦争に何をもたらすのか。それはもう誰にも分からない。予測すらできない存在と化した。


 ――――――


 一人減った兵団の他の九人は戦場全体に散らばった。だが本能として闘争を、更なる悪を求める彼らは惹かれるように強者の元に集い、結果として三箇所に辿り着いた。


 第一の地点。


「雖後>縲∝ォ後>!豸医∴縺。繧?∴!」


「何言ってるのかわかんないな、君!狂ったかい!?」


 恐慌星は不可視の捕食攻撃から必死に逃げるように神梅雨の周囲を跳び回っていた。なんとか反撃の糸口を見つけたいところだが、神梅雨は手を振るだけで軌道上を喰い尽くす。近付くだけでも至難の業、光輪の魔神器を使用した行動延長による攻撃すら届く前に喰われてしまう。


 手詰まりだ。このままでは喰われるのも時間の問題。撤退する他道はないが、恐慌星は自分から思考し行動するのが苦手だ。隷属星から神梅雨の相手を頼まれたのなら逃げろと言われない限り逃げることはない。


 せめてレベル4の神器を持っている人間が誰か数人来てくれれば一瞬の隙も生まれるのかもしれないが……


「……ん?おっと」


 瞬間、背後から新たな気配。闇で構成された人間の影のような何かが武器を振るって恐慌星を襲った。


「おいおい、嘘だろう?新手かよ……と?」


 しかし神梅雨にも影が襲いかかった。が、神梅雨が足を振った軌道の先にあったそれは不運にも何もなすことなく飲み込まれて消えていった。


 続けて二つ新たな影。先程恐慌星に襲いかかった影も神梅雨に襲いかかった。どうやら神梅雨の方が強い力を持つと判断したようで、もはや恐慌星など眼中にない。


 予想外の好機だ。正体もよくわからない連中だが神梅雨の気を引いてくれるなら助かることこの上ない。


「ちょっとだけ、勝機が見えたぞ」


 そして第二の地点。


 彼女は変わらず立っていた。戦場全体を見つめることができる高台の上で、口角を上げたその表情を変えることなく。


 兵団の数は、三つ。高台の麓からゆっくりと死を告げるように彼女に向けて歩いた。


 言葉を発することなく影で構成された矢を放った。が、彼女は視線を向けることさえなく右脚の蹴りにより叩き落とした。矢が跡形もなく砕け散る。


 彼女が振り返る。視線だけで射殺せるような殺気を込めた影をも塗りつぶす黒色の瞳が兵団を見据えた。もう片方の目は長く伸びた前髪で隠されてしまっている。


 たじろぐ兵団。悪意の権化である彼らが、恐れた。


 全身の関節を一度外し、強引すぎるストレッチとする。表情は変わらないながら溢れ出る殺気は比べ物にならない。


 彼女に攻撃することは即ち死を意味する。かつて地平に絶望として知れ渡り尽くを恐怖させたあの存在と変わりないのだから。


『継師』カンレス・ヴァルヴォドム。


 第三の地点。


「おやおや……あちらでは、なくて?」


 サファイアが指し示した方角では妖姫星と隷属星がゼロと戦っている。最大基地外戦力として普段は基地にいないサファイアだがこれだけはわかる。ゼロは最強だ。


 この影に意思があるのかはわからないが、これほどの力と殺気。恐らくは闘争を求めるタイプの何かだろう。


 《やあサファイア。連絡だ。染黒君が何カしたみたいでねエ、手当り次第強いやツに喧嘩売ってる黒いのガいる。黒い兵団とでも言おウか?君、選ばれたみタいじゃん。おめでトう!精々頑張ってクれ!イッヒヒヒヒヒ!》


「……嬉しくないですわね」


 予想は確信に変わった。だが、更なる疑問だ。強いやつのとこに行くなら、なぜその強さの頂点に立っているゼロのところに行かない?逃す手はないはずだが。


 兵団は答えない。ただサファイアと桃月に向かって武器を構え、殺気を放つ。凄まじい殺気だが……


「その程度ですの。ねえ、桃月」


「……………………ん」


 この二人の放つ殺気の方が、強い。


 悪魔と契約する。腕が変貌し、攻撃的な外見に変わった。込められた力は計り知れない。桃月も契約を執行した。寿命が削れ、代わりとして四肢が変貌する。瞬間的な爆発力ではゼロに勝るとも劣らないと言われた桃月の力。解放するのは久々だ。なにせこれは寿命を数年使う。


「もしかしてあなた方が求めるのはこれ……?ああ、いや……なるほど!理解しましたわ!」


 嘲るようにサファイアが笑った。当然といえば当然のことだが、あまりにも情けない連中だ。


「ゼロが怖いんですわね!?」


 兵団が攻撃を開始した。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 染黒によるウタマの神器の侵食。それによって彼女の空想した並行世界の怪物たちが世に放たれた。

 だが彼らはすぐにでも滅ぼされようとしている。圧倒的な強者の元に自ら向かい、そのせいで死にかけているのだ。だがそれが愚かさ故の行動なのか、勝算あっての行動なのかは誰も知らない。言えることはただ一つ、彼らを喚んだのは他でもない染黒悔怨だということだ。

 次回、『last clash』。

 戦場はようやく全ての準備を終える。

ご拝読いただきありがとうございました。

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