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Last reverse  作者: 螺鈿
last reverse〜actors are arranged〜
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Episode 0 Prologue【3】

かくして第一次衝突における第一の戦場は終結し、結果は引き分けに終わった。


 グレイディは涙を拭きながらアンタレスの欠片を取り出す。パルアプ・テンマティナを逃がしたことの報告、現在地の通達、応援要請をすぐにでもしなければならない。


「天道、パルアプを逃がした。G地区三番。至急応援を寄越してくれ。奴とは必ず決着を付けねばならない!」


『了解、こちらもゼロの命令で戦闘準備を整えた所だ。パルアプは難敵だと聞いている……少々荷が重いかもしれないが、君もいることだ。フリシュ君の部隊を向かわせよう』


「皐月春馬のいる部隊か……いや、それに加えて最上第九席を一人以上寄越してくれ」


『そんなにも、パルアプ・テンマティナは強いのか!?』


「万全を期すためだ。というかそんな新参部隊を寄越された所でほぼ使い物にならんだろうが!」


『いや、それが……君の方では確認出来ていないのか?』


「何がだ」


『旧東京中心地で、謎の超巨大生物が出現した。ほとんどの部隊はそちらの対処に回していて、余裕がない』


「……なんだと?」


 旧東京中心地がある方を見る。


 パルアプとの戦闘に集中していて認識できなかったが、確かにそこにはいた。天を衝く巨体、ムカデのような蛇のような醜い肉体をうねらせ天に吼えている。


「……あれは、なんだ」


 ――――――


「爆音、四分休符!」


 時は少し遡り、第二の戦場。そこで行われている戦闘は苛烈を極め、彼らがいくつもの死線を潜った強者でなくては視覚から得られる情報だけで混乱してしまいそうな状況になっている。


 エスティオン所属者二名、アスモデウス所属者一名、その他二名。一見するとアスモデウスが圧倒的に負けているように見えるが、その実最も劣勢なのはエスティオンだった。


 その理由は、エスティオン所属者二名は一人が遠距離狙撃手、一人が後方支援者であるからだ。ゴリッゴリに近接で戦う敵しかいないこの戦場において圧倒的に不利なのだ。


「こっちは慣れてないんだけどなぁ!」


 狙撃銃の神器を盾にしながら分解する。影咲の神器である狙撃銃の神器には、ある隠された機構があった。


 長い銃身を取り外し、持ち手を分解。銃身と接続し肩にかけるように銃弾の束を背負う。その形状は狙撃銃とは似ても似つかず、近距離又は中距離攻撃のための形状をしていた。


 ガトリングガン。


 本来地面に固定して使用するはずのそれを、影咲は両手に抱えて持って使用している。狙撃銃の神器は分解することでガトリングガンにもなる。


「コイツハ……アホナノカ!?両手二ガトリングガンナド……!」


「ロマンがあってかっこいい……絶対星が好きそうだね」


「ソンナ話ハシテイナイ!」


 影咲と漆が視線を合わせて同時に攻撃を開始する。


 漆の楽器の神器が壮絶な激しいメロディを奏でる。聞いているだけで精神が昂り、力が漲る。影咲が銃口を隷属星とカマスティナスに向け、引き金を引いた。


「ク……厄介ナァ……!」


 隷属星は必死に銃弾を回避し、隙を見ては遠心力により凄まじい加速力を得た疑似魔神獣の死骸しがい投擲とうてきし攻撃する。が、漆の演奏の中に含まれた音波がそれを弾く。


 しかし隷属星とは対極的に、カマスティナスは寧ろ気持ち悪すぎる笑みを持って銃弾を受け入れた。


「クカカカカカカカ!お前……大馬鹿だなァ!」


 カマスティナスに向けて放たれた銃弾は全て空中で不自然に停止した。彼の神器、磁力の神器により無理やり止められたのだ。彼に対して数で攻めれば逆に不利になりかねない。


 妖姫星の巨体にガトリングガンなど無意味だと判断しカマスティナスを攻撃したが、裏目に出た。


『Caretaker ver.――――』


 カマスティナスが銃弾の嵐で漆たちを襲おうとしたその時、壊れかけの機械のような不気味な音声が響き渡った。それはいつの間にか外見が少し攻撃的ではなくなった妖姫星から聞こえた声で、長年の戦闘経験から三人は理解した。


 (((ヤバいのが来る!)))


 即座に身構える。音波やガトリングガンによる攻撃は続行しながら、何が来てもいいように。


 妖姫星が両腕を高く振り上げ、一気に振り下ろす。両腕が地面に埋まった。


 (気でも狂いやがったか……!?)


 否。それは“その場に留まるための行動”だ。


 妖姫星の胸部装甲が左右に開く。内側から、耳を削ぎ落としたくなるような生理的嫌悪感を感じる音がした。


 三人とも、攻撃をそこに集中させる。何が来るかわからないが、絶対にやらせてはならない。


 だが。


「愚カナ人間共。黙ッテ受ケ入レロ……」


 隷属星が大量の糸の障壁を妖姫星と三人の間に貼り、更に疑似魔神獣の死骸を壁のようにして挟んだ。音も銃弾も何もかも、その障壁に防がれる。


 妖姫星の胸部から、一つ一つが成人男性ほどの大きさをした銃弾のような何かが放たれる。音速以上の速度で射出され続けるそれは、妖姫星の巨躯を持ってしてもその場に留まるのに精一杯で、それだけでどれだけの威力を持つかわかる。


 攻撃による妨害は失敗した。が、即座に思考を切り替えて回避、又は撃ち落とすことに全力を注ぐ。当たれば即死だということぐらい、見なくともわかる。


 一発一発が地面に埋まりきるほどの威力。更に追尾性能もあるのか、乱雑に撃っているように見えて的確にこちらを狙ってくる。何とも嫌らしい。


 最後の一発を射出し、妖姫星はようやく言葉を発した。


『――ラグナロク』


 漆と影咲は同時にその場から飛び退き、下方へ防御を展開した。妖姫星によって撃ち込まれた銃弾から、何かの気配を感じる。まだ終わりではない。


 だが、カマスティナスは悠長に影咲の撃った弾丸を妖姫星の胸部に叩き込もうとしている。


「……クカッ!ビビらせやがって……大したことな」


 カマスティナスの全身を、小さな針のような何かが貫いた。防御していたため刺さらなかったが、それは漆と影咲にも伸びていた。


 急激に体中の水分が失われ、カマスティナスが干からびていく。その針は触手と共に妖姫星の放った弾丸から伸びていた。白黒の縞模様のそれは、どことなく不快だ。


 カマスティナスの水分を奪い尽くし、弾丸のような何かはその姿を現した。大型の蚊の如き生命体。


「マズハ一人……カナ?人間」


「ド畜生が……!」


 状況は絶望的だ。戦闘能力は相手の方が上、囮になってくれるやつは死んで更に敵は増えている。そしてこちらには近距離戦闘を苦手とするやつが二人。勝機は、ない。


 だが、諦めはしない。苦手といっても戦えない訳ではない!

 ガトリングの一斉掃射と大合奏による音波の多重攻撃を開始する。大して生命力が高い訳ではない蚊のような生命体は数発の弾丸と音による追い討ちで死んでいく。


 しかし本体である妖姫星と隷属星はノーダメージだ。やはり近接に特化していなければ傷を付けることさえ難しい。


 妖姫星はただその巨躯を動かすだけでも厄介だ。更に隷属星が死骸の山をぶん回してくる。当たれば即死はしなくとも致命傷であるのは間違いないだろう。


「ちょ、ちょわちょ!手加減しろよおい!」


 影咲も漆も普段から自分の体を動かすことはしない。基本的にその場から動かず敵を殲滅する。そのため、こんな近接戦闘はしたことがなく、そんな情けないことを言ってしまうほどに追い詰められていた。


 妖姫星の鎌が背後に突き刺さる。ギリギリで避けるが、疑似魔神獣の死骸が凄まじい速度で飛来した。銃弾で、音で迎撃するが肉片が少しかする。それだけで重心を持っていかれた。単純な慣れ不足。近接戦闘を普段からしている者ならば考えずともできる『受け流し』ができない。


 影咲の体勢が崩れ、片手を地面につく。振り下ろされた鎌を転がるように回避した。


 が、直上。無数に生えた妖姫星の脚の一本が迫っている。しかも前方からはまだ生きている蚊のような生命体。


 ガトリングを放ち迎撃を……


「は?」


 しかし、見えない何かに引っ張られるようにガトリングは自分の両脚を撃ち抜いた。まるで、磁力に引っ張られる金属のように……


「俺様、が……ただ……で、死ぬか、よ……クカカ……」


 もう、間に合わない。妖姫星の脚が影咲の体を貫き、蚊の如き生命体が心臓を抉った。


「ご……ぅお……」


「影咲ぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!」


 悲痛な叫びが響き渡り、影咲の体が倒れる。カマスティナスも笑いながら死に、そして……


 同時に立ち上がった。


「貴様ラ人間ハ……コウイウノガ、好キナノダロウ?ドコデ知ッタカ覚エテイナイガ……」


 隷属星はその名が冠するように、あらゆる生命体を隷属として操ることができる。あまり強すぎるとそうすることは出来ないが、死ねば別だ。


 影咲がガトリングを構え、カマスティナスが磁力の渦を作りながら漆に襲いかかる。終わりだ。


「なあ影咲……なあ、おい……」


 演奏をやめる。死んでいても、仲間に攻撃などできない。自分の最期を自覚しながら、その涙は恐怖のためには流れない。


『お前、なんかあったか?』


『お前らしいよ、漆』


 そんな会話をしていたのだ。愛する息子の話をして、父親と呼んでもらうために頑張るって。たまの休日は鬼路と一緒に酒を飲んで、普通に暮らすのが夢だって。


 確か明日はなんもなかったはずだ。久々にフリシュに音楽でも聞かせてやろうか。好きだったはずだ。あーでも、春馬たちと遊んだりするのかな。だったらだめだな……。


 影咲はどうするんだろうか。鬼路が休みだったら酒飲んで、違ったら一人酒かな?寂しいな。ははは。


 遺書とか、書いとけば良かった。愛する息子へ、なんて……虫が良すぎるかな……


 無慈悲な銃声が響き渡った。

ご拝読いただきありがとうございました。

ブックマーク、星五評価、いいね等よろしくお願い致します。まだまだ新米の身、ご意見等ございましたら遠慮なくお申し付けください。ではでは。

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