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Last reverse  作者: 螺鈿
last reverse〜actors are arranged〜
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第八話 記憶【3】

エスティオン基地周辺で壮絶な戦闘が繰り広げられている中、春馬たちの試験の終わりは早かった。所詮レベル2神器使いとレベル4神器の使い手の戦闘。組織長に勝ち目などなかった。


 組織長は部屋に突入してきた春馬に先手必勝と言わんばかりにメスを投げたが剛腕神器で容易く防がれ、目視不可能な速度で踏み込まれて鳩尾みぞおちに一発。血を吐きながら倒れた。


「ごぶ」


「なんだもう終わりか」


 正に拍子抜けといった様子で春馬が呟き、足元で悶える組織長を心配そうに眺めた。既に血の海は広がっている。


 まあ死ぬことはないだろうし、しばらくは起き上がれないだろうから放置でいいだろう。にしても少し怖くなるぐらい悶えている。


 予想外の速度で終わったし、なんだか気分が悪くなってきた。気晴らしに少し他のメンバーの戦闘でも見に行こう。そう思って部屋の外に出た。


「確か……お、いたいた」


 部屋を出てすぐの通路で盲全が戦っていた。彼女の能力がどんなものか、実際に見ておきたい。


「突如宙に浮いた隕石の大群がトニーたちを乗せた宇宙船を撃ち抜いたのだ」


 本を片手で開き敵の攻撃を防ぎながら盲全は文面を音読している。敵は棍の神器で突き、払い、斬り、盲全を攻撃するがレベル1の差が大きい。全て防がれていた。


「榴弾が政義の眼前で炸裂した!煙が巻き起こり」


 ページを捲る音が随分と大きく聞こえた。


「死神ちゃん!あいつを貫いて!」


「さっきから何言ってぶぼぉぉぉおっふぉおおお!?」


 意味不明な発言を続けていた盲全にブチ切れた棍の神器使いが荒々しく突いた。が、容易く本に挟まれて防がれる。レベル1の差はあまりに大きい。


 動きが止まった敵の腹に無数の灼熱の岩の塊……隕石が突き刺さり爆発した。四肢の付け根を何発かの隕石が爆発しながら貫通し、治療困難な傷を残した。


「出典、『バイアーツ宇宙漂流記』、『北部戦争』、『死神ちゃんと香苗の三年間!〜恋の旅路は冥土への道!?〜』」


 確かに凄まじい能力だ。レベル2でこれなのだから、更にレベルが上がった時にどれほどになるのか想像すると仲間ながら恐ろしくなる。だが……


「照れてんじゃん……」


 盲全の頬は赤く染まっていた。『死神ちゃんと香苗の三年間!〜恋の旅路は冥土への道!?〜』とやらを口にした瞬間茹で上がるように赤くなったのだ。


 なんだか陰から見続けているのも失礼な気がして、次の戦場に行くことにした。


 気付かれないよう高速で走り、恐らくフリシュが戦っているであろう廃墟に入ってすぐの部屋をちらりと覗く。途中天爛が「拙者来る意味なかったのではござろうか。いや何もしなくてレギンレイヴに帰れるのだから喜ぶべきか。イヤフィィィィイイイイイイ!!!フォォオオオオ!!!マンマミーアァァァァアアア〜〜〜!!!」とか何とか発狂していた気がしたが努めて無視した。関わってはいけない存在だ、あれは。


 フリシュの戦闘は豪快だった。部屋ではネックレスほどに小さかった槌が彼の身長以上に大きくなり、部屋を壊しながら振るわれていた。床が盛り上がり大地が剥き出しになっている。それは意思持つ牙のように敵を襲っていた。槌と大地の挟み撃ちのようなコンビネーションは受けることも避けることも難しいなどという次元ではないだろう。


「む……ぐ……!?」


「HAHAHA!すまないねえ名も知らぬ構成員君!ちょーっと今メンタルがぐちゃぐちゃなんだ。発散に付き合ってくれぇ!」


「なんも関係ねえだろうが俺え!」


 確かに彼の攻撃はどこか乱雑に見える。初心者の春馬からすれば「豪快だなあ」ぐらいにしか思うことはないが。


 攻防は続いたが、やがて敵は大地の牙に肩を貫かれた隙をフリシュの槌に突かれ、後頭部を殴られて気絶した。


 純粋に強い、という感想が湧き上がり、フリシュもちゃんと強いんだな、と改めて尊敬した。元々彼のリーダーシップ、明るい性格は尊敬していたが、更に強いとなると逆に尊敬するなという方が無理だろう。


 頷きながら屋外に向かう。ここに来る途中で酔裏本人が言っていたが、釘の神器は一々攻撃規模が大きいのでとてもじゃないが屋内では使えないそうなのだ。フリシュの「さあ!もっと!もっと発散せねば!まだ足りないよお!?HAHAHA!」という声は努めて無視した。帰ったら話ぐらい聞いてやろう。何があったのかは知らないが。


 外へ繋がる扉を開くと、丁度酔裏が釘と金槌を取り出している所だった。彼女は意外と射撃というか遠距離攻撃が上手く、金槌で釘を弾丸のように飛ばして距離を取りながら戦い、十分離れたところで釘の神器の能力で仕留めるのが基本スタイルなのだそうだ。


 酔裏が釘を撃ち、地面に突き刺していく。計十本。


「地脈龍脈吸い上げ一番」


 前方足元に一本釘が刺さる。蒼色の光が迸った。


「煌々流れて二番三番」


 斜め前方に二本。一本目と繋がり、線が繋がれた。


「爆々炸裂点面なりて四番五番」


 同時に二本。真横に刺さった。陣の半分が完成した。


「玉座崩れて六七八九!」


 四本。後方に刺さった。歪な六芒星が完成した。


「白白染まって萎れて十番!」


 左腕に一本。血が滴り、全ての点が繋がり完璧な陣が形成された。準備は整った。


「爆破!」


 酔裏が全力で逃げながらそう叫ぶ。するといきなり陣が爆発し、敵を焼き尽くした。後には影すら残らない。


「うっわ〜怖ぇ……え、殺した?」


 隠れて見ていた春馬の所にも爆風が届いた。砂塵が晴れるが、そこには誰もいない。さっきまで敵がいたはずだが。


 遠くには目を爛々と輝かせて体を震わせている酔裏がいた。恍惚とした顔で、股間からは何かが滴っている。


「特殊……性癖……?」


 見ているのも忍びなく、急いで屋内に戻った。そろそろ悶絶していた組織長も立てるぐらいにはなったはずだ。


 未だに気絶した隊員を前に攻撃をしようとして良心に止められてを繰り返しているフリシュ、発狂し続けている天爛、顔を赤くして壁に頭を打ち付けている盲全を無視して部屋に入った。後酔裏の認識を改める必要がありそうだ。とりあえずただ臆病なだけじゃないことはわかった。


 部屋の中では組織長が謎の機械に何かを打ち込んでいた。足は震えているがちゃんと立っている。


 組織長は春馬に気付くと横にあった鏡のような装置を作動させ、メスを大量に投げ始めた。やけくそか。


「そんなん当たら……おん?」


 一度弾いたメスが背後から春馬を襲った。また弾くが何度でも襲ってくる。次第にその数が増えていった。さすがにおかしい。


「お前なにしたんだ!?」


「時間稼ぎだこれはお前には防げまい光化学にもある乱反射の応用だ光の性質そのものを機械に転用し実際物質を弾けるようにしたそうすれば無限に敵を襲い続ける無限弾道たりえるとなればその化学構造に興味を持つのは当然だなよし少し説明してやろう」


「話が長ぇわかるように言いやがれ!」


 よくわからないがやばい状況は変わらない。今も四方八方からメスが襲ってきている。腕以外の場所は傷が増えていっている。


「……ん?」


 今もベラベラと訳の分からないことを言っている組織長の先程の発言。その中に聞き逃せないものが一つだけあった。


 時間稼ぎだ。


「お前何する」


「時間だ」


 メスの猛攻が止まり、代わりに組織長のいじっていた機械から無数の管が伸びてきて春馬を突き刺した。異物が入り込んでくるおぞましい感覚に吐き気が込み上げ、途端に意識が薄れてくる。視界が霞み、足もふらつく。


「いつか現れると思っていた圧倒的な適正を持った神器使いの戦士その力の根幹を断つプログラムだ本来なら『尽殺』に使用する予定だったがここで死ぬぐらいならお前で試運転といこうさあ気分はどうだ意識は」


 組織長の言葉はそこで止まった。否、命が終わった。


「ごぼ」


「さすがにこれでは勝てんでござろう」


 組織長の喉元にくないが突き刺さっていた。研究者故に理解できる。命が、終わってゆく。


「それは……なんとも悪質な機械よの。意識の白濁の後神器適正を喪失させ力を奪う。これ以上は見過ごせぬ故手を出させてもらった。構わんな春馬殿っと。聞いちゃおらんか」


 天爛が助けてくれたのが見えた。発狂していたはずだが、護衛の仕事は果たしてくれたのか。倒れてしまいそうになる意識の中で、組織長が倒れていくのが見える。血が溢れ、海のようになっていく。酔裏もそうだが、殺しに忌避感がない人間は意外と多い。怖くないのか。


「て……ら……」


「無理して喋るな。ほれ、酔い止めでござる。多少は楽になろう。他のメンバーはもう標的を仕留めておる。試験は終わり。外で迎えを待とう」


 天爛が春馬の口に水と酔い止めを同時に流し込む。意識が少しづつ覚醒していく。たまにはまともな仕事もするもんだと少しばかり感動した。


 他のメンバーとも途中で合流し、外へ向かった。皆初の実戦の感想を語り合っている。緊張したとか少し怖かったとか言っていたが最後は案外楽勝で楽しかった、という感想だった。話し合いには参加できなかったが、春馬も同じような感想だった。約一名興奮したと言っていたがそれは皆無視した。


「……ん?誰もいないはずだが……外が騒がしいでござるな。ちょっと様子見てくるでござる」


 天爛が手でメンバーを静止し、一人で外の様子を見に向かおうとする。意識が戻り始めた春馬にもそれはわかった。恐らく、戦闘音。だが、誰が?


「あ、春馬殿は絶対動くなよ。恐らくだが、あの装置で神器が弱体化しておる。何かあってもまともに戦うことはできんと思え」


「なんでそんなんわかるんだよ……」


「……レギンレイヴでも同じような研究をしておったのだよ」


 それだけ言って、天爛は走り出した。


 ――――――


 数分前。外には上層部の遣わした二枚の手札がいた。本来なら天爛はこの試験が終わった後に殺す予定だったが、レギンレイヴは上級大罪組織。今まで通りに行くというのはあまりに楽観的すぎるということで上層部は方針転換。試験終了後で油断した天爛を拘束し洗脳、レギンレイヴの拠点を聞き出し共に滅ぼすという方針になった。


 一枚目の手札は黒いフードを目深に被った、腰に刀を差した青年。最上第九席第二席、「鬼路鐘充」。彼は今までもう一枚の手札と共にエスティオンに忍び込んだ者とその所属組織を尽く滅ぼしてきた。自らその役に志願したのだ。


 そしてもう一枚。濁った瞳で地面を見下ろしている。意識があるとは思えず、実際意識はない。薬で催眠状態にあるのだ。鬼路の合図があればすぐに天爛を殺すために動く。


 さすがの鬼路も可哀想に思う。自ら志願した鬼路と違い、彼女はただその神器の後継者だから、という理由だけで無理やり使われているようなものだ。彼女も、投薬される際は全力で抵抗している。それでも無理やり使われるのだ。正直見るのも辛い。普段あれほど明るく周囲に笑顔を振りまいているこの少女が涙を流すことも出来ず敵を殺す姿など。


 最上第九席第七席、「神梅雨幸幸」。


 (そろそろ試験が終わる頃か……)


 頭を振り、その思考を追い払った。今はそんなことを考えている場合ではない。


 刀に手をかけ、出てくるであろう天爛に備えた、その時。

 鬼路は全力で振り向きながら刀を抜き、突いた。神梅雨も一瞬で剛龍地爆武装を纏い来たる敵に備えた。


「啄木鳥……!」


「……………………………………」


 敵は、背中を向けて飛んできた。全身を殴られまくったかのような殴打痕が衣服に刻まれている。ロングの黒髪が揺れ、曲がった首には感情のない瞳と微笑む口元が見えた。


「啄木鳥」が命中し脇腹が抉れる。血が溢れ出るが、どういう原理か一秒にも満たぬ時間で止血が完了した。


 神梅雨が拳で殴打する。するとソレは背中に回した手でその攻撃を受け止め、反転しながら神梅雨の豊満な胸を包み込む装甲を指の一点で突いた。一瞬で剛龍地爆武装は突かれた点を中心に砕け散っていった。同時にソレの背部からも破滅的な音が聞こえた。その威力に耐えきれなかったのだ。


 鬼路も神梅雨も知らぬ。その技の名を『震砲』という。


 (なんだ、こいつは……!?)


 神梅雨は一瞬で閃雷千億武装を纏い逃げる。鬼路と横並びになるが、その行動に意味はない。どちらにせよ、その存在にとって位置など関係ないのだ。

 カンレス・ヴァルヴォドム。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 次回、『出立』。乞うご期待。

ご拝読いただきありがとうございました。

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