番外編:時には流されることも【1】
「感化されたのだ」
「どうしたんだ突然」
最上第九席第三席遺華春と第四席愛蘭霞は実の親子か姉妹に見えるほど仲が良く、基本別行動することはなく食事や就寝、風呂まで全て一緒。トイレについてはノーコメントで。当然自室も一緒で、彼女らに境目などない。
そんな二人、久々に行われた組織内試合を経て色々感想と改善案を言い合った後はいつも通り各々のやりたいことをしていた。遺華は愛蘭の似顔絵を描きいつかは写真と同レベルの絵を描けるよう修行、愛蘭はそんな遺華を見つめて気持ち悪いぐらい気色悪くきっしょいニヤケ顔を浮かべる。
そうしていると、遺華が突然言い出したのだ。感化されたのだ、と。
「霞の試合、良かったのだ。私もやりたいのだ」
「でも姫は口ボンドとやったじゃねえか。別に私は構わねえがあいつの相手した後あたしとってのは……キツイぜ?」
「ん、望むところなのだ。私は強いのだ」
(は、いいぜそんなに言うなら……戦るか)
「あ"〜年齢的に強がりなのに姫が言うと強がりに見えない可愛い"〜あ"〜……っと失礼、つい逆になっちまった」
少し引いている遺華を必死に見ないふりしながらにやりと笑い、同時に立ち上がる。二人は別に戦闘狂というわけではないが戦闘が嫌いな訳じゃない。力を振るうのは好きだし、アドレナリンの海で溺れるのも快楽だ。
戦略を練りながら部屋の扉を開け
「いた……はー……愛蘭、霞ィ……私の相手を」
閉めた。
なんかいたぞ今。なんだあれ。
遺華をベッドの上に座らせて紅茶と菓子を与えて一息つく。遺華はこうしておけば十分程度は大人しくなる。
……見間違いでなければ、浮津美影……だよな。えーそんなことある?あります?だってあたしあいつに自室教えてねーもん。ていうか今日いるの姫の部屋だし。まさか基地中探し回った……ってコト!?きっしょいわ〜引くわ〜……
ていうかそれより前にあの外見だよ。覚えてるからなあたしThe日本って感じの大和撫子だったよなあいつ。巫女服みたいな戦闘服が似合ってたのは印象的だったぞ……でも今のあいつ何?えもっかい確認していい?いいよね?
大混乱しながらそろ〜っと部屋の扉を開け
「出て来ぉい!私と戦」
閉めた。
見間違いじゃなかったか〜そっか〜……マジモンの大和撫子なんだなあいつ……胸に巻かれた包帯がサラシみたいになっててしかも服脱がねえもんだから普段着てる服が左半身だけずり落ちててよお……薙刀片手に下半身袴ってそりゃもうあれじゃん。ヤ○ザの親分……あいつ女だよな。ほな女親分じゃんけもう。おっと口調が乱れまくり。
しかもあの顔よ。怪我しとるくせに基地中駆けずり回ったせいでもう幽霊じゃん。やめろよ怖いんだよ女幽霊は。
あこじ開けられた。
「愛蘭……霞ぃぃ……私と、私とぉ……おおおお!?」
「の〜だ〜」
結構真面目に死を覚悟したが、外見で人を判断しない人間筆頭である遺華が能力を発動、何枚もの壁を突き破って浮津は地平線の彼方へ飛んで行った。死んでなきゃそれでいいかなもう。幽霊は死なんだろ、多分。
さあ、多少トラブルはあったが訓練場に向かおうか。姫と戦るなんて久々だしなあ……まずはどんな
「おや霞君、試合良かったよ」
「おお天道、そりゃありがとよ」
「ところで見てたよ僕は。壁の修繕任せられるかい?」
「おう任しとけ、そんぐらい朝飯前」
「染黒君の部屋なんだけど話は」
閉めた。
しまった忘れてた〜!姫の部屋の前って染黒の部屋なんだった〜!うわあいつの部屋の修繕とか何言われるかわかったもんじゃねえ絶対嫌だ〜!暗いんだもんあいつ〜!絶対あれだよアンチ活動するタイプだよ嫌だなマジで〜!
まあでも、部屋壊したのは姫。姫の責任はあたしがとるもん。ならやらなきゃなあ……でも嫌だなマジで〜!
あマスターキー使いやがったこいつ。
「……拷問か、それは。ま僕も嫌だしね」
「わかってくれるかぁ天道!ありがとうよ!」
「直してくれるだけでいいよ。後は任せな」
「さては神だな〜お前〜」
天道の聖人さを再確認しながら手早く修繕を済ませ、訓練場へ向かう。ようやく姫と戦れる……なんか今日はあれだな、厄日ってやつだな。ついてねえマジで。
でもあたしは三度目の正直派!二度あることは三度ある派じゃねえんだ!次こそいいことあるさ多分!
――――――
「さーて、準備はいいかー姫。本気で行くぜえ?」
「ん、望むところなのだ!かかってこいなのだ!」
大方の想像通りの愛蘭ならば「ん"〜〜〜〜!」とか言って手加減しまくりながら遺華にボッコボコにされ勝利を譲るだろう。だが、違う。此度の愛蘭は少し違う。
今の遺華は所謂やる気MAX、残り一秒の時限爆弾。全力で戦って、その結果敗北を与えることになっても己の全てを出し切って戦うのが今の遺華に対してできる最大限の愛の示し方だ。つまりこれから行われるのは……
大・戦・争!!!!!!!!!
天爛との試合でも見せた糸剛滅壊暴滅阿修羅・攻滅天空が出現し、小石を握りしめる遺華と視線をぶつけ合う。
……ん?そこ、そこの君。厨二病とか言っただろあんた。いやわかるよ?確かに厨二病だよねこれはそこは認めるよしょうがないからねでもさあ!かっこいいでしょ!?だって……ねえかっこいいよねえ!糸剛滅壊暴滅阿修羅・攻滅天空だよ!?防御ver.もいるけど名前言ってやろうかそうその名も糸鎧
「やるなあ姫!これだから物理法則は!」
「そっちも……巨体に見合わん俊敏さ!」
ごほん。そこらの戦闘員と最上第九席の戦闘では一秒の価値が違う。糸剛滅壊暴滅阿修羅・攻滅天空が出現したタイミングを戦闘開始だとしてまだ経過時間は三秒。しかし常人では接近程度にしか使えないその時間で彼女たちは数度命に迫りうる攻撃を繰り出し受けている。
なにせ愛蘭は指を数ミリ動かすだけで広範囲に糸の巨人の攻撃を展開することができる。遺華は能力を発動しながら小石を軽く弾くだけで弾道ミサイルにも匹敵する威力の攻撃をピンポイントで行える。動作一つ一つの格が違うのだ。
整地された訓練場が容赦なくぶっ壊されていく。ドゴンバゴンギャリギャリギャリバギャギャバチコーン!!!!!!!!!本当に糸と小石の攻防なんですかねこれが。
しかも二人は糸剛滅壊暴滅阿修羅・攻滅天空と小石による攻撃を行いながら本体も壮絶な殴り合いを繰り広げている。レベル4神器によって強化された肉体で繰り出される体術は一撃でコンクリート壁を粉々にする。それがぶつかり合いゴガバリリドギャスバギイ!!!!!!!!!と音を立てた。一応聞くけど骨折れてないかなこれ?大丈夫?あそう大丈夫。ならいい。
獰猛な笑みを浮かべて殴り合い潰し合う様は神話の戦いにも等しい。神梅雨と染黒の試合に比べれば随分と人間臭く見えてしまうが、それでもこれは人間の戦いではない。
そしてここに意外な闖入者が!?
「愛蘭……霞ィィィイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!」
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