第六話 邂逅【3】
「では組織介入にあたり説明せねばならないことが山ほどある……が。そんなに多く語っても理解できないだろうし、これから君が加入する部隊についてだけ話そう。それとその部隊の目的をね。君がエスティオンについて知っていることはあまりに少ないだろう?」
「できるだけ短めだととっても嬉しいと思う」
「善処するよ」
春馬のエスティオン加入が確定し、二人は謎に笑いながら謎のコミュニケーションを交わしていた。が、やがて飽きた天道が春馬の拘束を外しながら「まともな話をしよう」と切り出した所からこの会話は始まる。
ようやく自由の身となり、気持ちよく体を動かしながら春馬は絶妙に嫌そうな顔をした。
「どうせ長くならない。これから君が暮らすことになる場所まで行きながら話そう」
天道が歩き出し、春馬もそれに続くように歩き出した。説明するのに慣れているのか、天道は何も資料を見ることなくペラペラと語り出す。
「まず君が所属するのは魔神獣討伐用精鋭神器部隊。本来なら別の戦闘用部隊に配属され実力を認められた後加入するのだが……戦闘員の頂点とも言える存在二人からの推薦でいきなり部隊加入決定だ。凄いね」
『戦闘員の頂点とも言える存在二人』の所で天道が盛大に表情筋を強ばらせる。言葉にするのも嫌なのだろう、存在が嫌いという顔をしている。
「君はまず試験を受けることになる。同じ部隊の中でも階級があるからね。期日や詳細は追って沙汰する」
「へいへい」
あくび混じりに春馬がそう返した。もはや興味は無さそうだ。やっぱり推薦は間違いだったんじゃないのかと思いながら、続けて天道は口を開いた。
「次に魔神獣討伐用精鋭神器部隊……通称神器部隊の目標を話そう。それは魔神獣の討伐だ。世界をここまで破壊した魔神獣を討伐し人類の救世主となる……それが目標。だが、それは未だにできそうにない……」
「なんでだよ」
「距離の問題だ。魔神獣は現在旧アメリカ大陸にいる。残念なことに主要戦闘員全員をそこまで運ぶ方法は今のところない」
「ふーん」
やはり興味無さそうだ。
「なあ、そんなことよりどうやったら手っ取り早く強くなれるんだ?」
「まあ待ちたまえよ……まずは部隊について知らなければなるまいよ」
「やだ」
「聞かなければ君は即刻除隊ということになるな」
「なあ早く聞かせてくれよ俺もう我慢できねえよ」
もはや腹が立ってくるほどに見事な棒読みで春馬がそう言う。表情すらも腹が立つ。
調子のいい奴だ……そう思いながら天道が続きを話す。
「だから当面の目標は超遠距離移動方法の発見または開発。君はそんなこと気にせずにいずれ来るだろう魔神獣討伐の日に向けて訓練に励んでくれ」
「関係ないなら話すなよ」
「やかましい。次は現在神器部隊がしていることについて話す。新たな神器適合者の発見、そしてあらゆる生命体に害をなす害悪……擬似魔神獣の討伐を主にしている。ある程度実力が付けば新入りの育成をすることにもなる……」
よ。その言葉を紡ぎ言い終えようとすると、天道は驚愕すべき光景を目にした。春馬が、歩きながら眠っていた。
「ぶち殺すぞお前」
「ちゃーんと聞いてるから安心してほしいんだよね」
春馬が瞬時に目を覚まし、天道にそう弁解した。もはや口に出すことさえ面倒になり、どこまで調子の良い奴なんだ、と心の中でツッコむ。はあ、とため息を吐いて前を向いた。しばし無言の時間が訪れる。
そろそろ到着だな、と天道が心中で呟くと、何故か突然通路に煙幕が充満し始めた。
ん?と言葉を発する前にその少女が声を発した。
「どろんでござ」
「何回目だそれぇ!もう煙幕散らかすなぁ!」
煙幕の中から二人分の声が聞こえる。一人は聞き慣れた声だ。愛蘭霞。もう一人は思い出せないが特徴的な語尾のお陰で判別は容易だ。天爛楽歩。
「むう。キャラ付けでござるよ。大事なのでござるよ?そうだ、この際愛蘭殿も語尾にありんすとか付けたらどうでござる?きっと似合うでござる」
「………………」
煙幕が晴れ、天爛の首根っこを掴んだ愛蘭が現れる。もう包帯は取れており、健康な天爛の肉体がじたばたと動いている。天道はびっくりしたが、天爛が元気そうでひとまず安心した。
この急激な回復には覚えがある。対象の自然治癒力を強化して回復させる薬を開発した、と医療部の同僚が騒いでいた記憶がある。確か荒野の岩場に付着していた血液の中に含まれていた成分を改造したとかなんとか。肉体への負荷が大きいため重症時は使えないが、ある程度自然治癒すれば使用可能になったと報告を受けている。
愛蘭は天爛のマイペースさに絶句し言葉を発することができていない。「一応お前囚われの身なんだぞ?」という言葉が顔に出ている。
そんな愛蘭は天道を見つけると嫌らしい笑みを浮かべて天爛を投げつけ、全速力で走り去った。
「そいつ任せた!しばらく部屋で暮らさせてやっていいから!詳細は後で資料持ってく!新入りの世話が上の出した罰だってよ!それじゃ!」
「え、ちょ……」
突然天爛を押し付けられた天道は混乱しながら追いかけようとするが、ただの研究員である彼では到底追いつくことなどできない。あっという間に姿が見えなくなり、その場には子供二人と天道だけが残された。
「よー。お前あれだろ。愛蘭……だっけ?にボッコボコにされてたやつ」
「む……愛蘭殿は強かったでござるよ……惜しかった……」
「なはは!確かになぁ!まあまあかっこよかったぞお前!」
「む、嬉しいことを言ってくれるでござるな!名乗れでござる!」
天道が困惑のあまり何も言えずにいる間に子供二人は勝手に仲良くなっていく。幼子のコミュニケーション能力とは非常に高く、もはや恐ろしい。
「……二人とも。これから暮らすことになるメンバーを紹介しよう。と言っても天爛君はすぐにお別れだろうが……」
「拙者はレギンレイヴに帰るでござる〜」
全てを諦めた目をしながら天道が真横の壁を押した。すると押した部分が隠し扉のように開いて部屋が現れた。模擬戦闘試合の観客席に向かう途中にも通った、どこまでも続くかのようにも感じる白い通路。その全てがこうなっているのかと思うと、なるほどこれは中々に効率的なスペースの使い方だ。
感心しながら二人が部屋を覗くと、そこには様々な感情の籠った瞳を向けてくる四人の男女がいた。
「彼らが君たちの戦友となるだろう」
天道のその言葉に、春馬はどうしようなく興奮していた。
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次回、『試練』。乞うご期待。
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