番外編:自由な幹部共【1】
皆さんこんにちは、殲滅組織アスモデウス幹部の一人にして実質的なリーダー、ウタマ・イン・ケルパと申します。本日もいつも通りの曇天、たまには太陽が見てみたい今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
さて、本題なのですが。私は本日久々に事務作業から解放され休日となるはずでした。そう、はずだったんです。はず。つまり休日じゃなくなったんです。泣きそう。
というのも少々特殊な事情がありまして。
『ウタマ様、研究室から任務の依頼です』
『私がする側なんですけどね』
『他の幹部の皆様の日常風景を調査してほしいと』
『話を聞きなさい』
『嫌です』
あの構成員はいつか必ず尻をぶっ叩くとして、一度依頼されたからには任務を完遂させなくてはなりません。
他の幹部……と言うと、月霞千覚、パルアプ・ティーク、カマスティナス・ウォルケイオス、上城正義のことでしょうか。月霞はいい子で私の言うことも聞いてくれますが、他の奴らはマイペース通り越した自由人共。観察も楽ではないのですがわかってるんですかねあの構成員……
ていうかなんで研究室が幹部の日常欲しがるんですか欲しけりゃいくらでも話しますよ私が。忘れてるかもしれませんが私のリーダー的立ち位置はあくまで実質的なものであって役職じゃないんです。一応幹部なんですよ私も。
待て。嫌ですってなんだ。言うこと聞けよ部下は。
幹部に自由を許してるのはあくまで一定の功績と権力があるからであってぺーぺーには許していませんよ!自由が欲しければ有給申請をしなさい大事なんですよそこらへん!
「おいウタマ、どこかに悪はいないか」
おや。これは珍しい、上城が自分から私の部屋に来るなんて。明日は槍と剣が同時に降りますかね。今までどれだけ言っても来なかったというのに。
「知りませんよ。それ以前にあなた、今日は任務でしょう?しっかりこなしているのですか?」
「邪魔したなウタマ、また悪を探しに来る」
逃げましたね。正義の味方は出番がないのが一番だといつも説いているのに、まだ悪探しなどしているのですか。
これは今度指導が必要ですね。……っと?
「……ウタマ、散策に出る」
「あなたも今日は任務でしょう。散策もいいですが」
「報告は済ましたぞ、ではな」
殺すぞ。
パルアプ・ティーク……擬似魔神獣との戦闘の中で更なる強さを得ることを目的とした散策、と本人は言っていますが事実なのでしょうか……丁度いい、任務と同時に確認するとしましょう。それはそうとして話は最後まで聞け殺すぞ。
やる時は殺るぞ私は……ん?
「クカカカカカ!いい殺し日和だなウタマァ!ちョーッとB21区域で殺しを楽しむとするぜェ!」
「カマスティナス、無意味な殺しはやめなさい。彼らにも命があり人生がありその過程の中で」
「わかりやすく言えよなァ……意味わかんねェ、頭いいもんなお前!じャァ行ってくるぜ!クカカカカカ!」
ブチ殺すぞクソボケが。命をなんだと思ってやがる。
褒めながらだったら私の話を無視していい訳ではありませんよカマスティナス……それと無意味な殺しはやめなさいと常日頃から口酸っぱく言っているのに……まだそんな残酷なことをしているのですか。きつーいお仕置
「月霞千覚でぇす〜少しお散歩に出まぁすぅ〜」
「あなたは休日ですよね、楽しんできなさい」
「はぁい〜ありがとう〜」
私の癒しはあなただけですよまったく……
任務をちゃんとこなしてやることとやりたいことの区別をはっきりさせて義務をこなした上で権利を行使する……当たり前にするべきことがなぜできないのでしょう他の幹部は。私から勧誘しておいてなんですが馬鹿しかいないのか。
それにしても、幹部には行動報告をするよう命じていたのが役に立ちましたね。上城は悪探し、パルアプは散策、カマスティナスはB21区域で……人殺し……月霞はそこらを散歩。行動領域がわかったならば後は突撃あるのみです。何に使うつもりかは知りませんが研究室の役に立つとしましょう。
「諜報室、報告に参りました」
「そういえばなんであなたたちに依頼しないんでしょうね」
「は?」
――――――
さてやってきましたB21区域。報告の順番的に上城のところへ先に行くべきなのでしょうが、人殺しを止める意味合いでもカマスティナスの観察を先にしましょう。
B21区域は地区域と比べて人口が多く、エスティオンの食料補給もこの区域を中心に力を注いでいます。しかし人口が多いというのはそれだけカマスティナスのような快楽殺人鬼の的になりやすいということであり、それを承知しているエスティオンが護衛や監視を多く付けるということ。
……そしてそれはカマスティナスが全力で暴れ回れる環境が整っているということ。
怖いなあもう、頼むから戦争にまで発展するような大騒ぎはしないでおくれよ……まだ準備できてないから。
おっと、カマスティナスが動き始めましたね。
「クカカカカカ……おうババア、面見せろや」
「あ……あうあ……」
「ちっ、ノらねえなァ……こう生気がねえやつは殺しても面白くねェ……どっか行けよババア、つまらねェ」
おや、殺さないのですね。てっきりどんな人間でも殺せればいいただのクソボケかと思っていましたが。一応の主義というかルールはあったのですね。意外の極み。
「お、ジジイ、いい目してんなあ。殺らせろよォ」
さあ来ましたね殺戮タイム。彼は一度殺して血を浴びれば我を忘れるタイプ、いざとなれば止めねばなりません。でもあの爆発力には目を見張るものがある……私でもテンション全開の彼は止められるかどうか……
磁力の神器、拡大解釈の極みのような神器で能力の幅が広い……吹き飛ばされては近寄りようがありませんしね。
一応対人特化の黒の兵団を用意しておきますか。
「ひい、たす、助けぇ……死に、嫌じゃ、死に」
「……あー……あーーーーーー!」
おや、おやおやおやおやおや?カマスティナスが老爺の手を取って立ち上がらせ……食料を与えた!?
なんということでしょう、まさか人殺しをしてくるというのは私への照れ隠しで、実は力無き人々に活力を与えていた……ってコト!?いやでも殺してもどうこう言ってましたね。
かつての犯罪者には独自のルールがあったと聞きます……カマスティナスのポリシーも、それに近いものなのでしょうか。何にせよ倫理的観点の成長が見られて私は嬉しいです。帰ったらひと月ぶりの肉を食べさせてあげましょう。
「俺様に立ち向かえるぐらい強くなれジジイ、そうしたら殺してやるからよォ。クカカカカカ!」
そう言われて強くなるやつはいないんですよ。
ふーむ、研究室への報告は気付かない間に倫理観が一般人よりに修正されていて無抵抗な相手には殺害行為は働かない、とでもしておきましょうか。それはまあ、抵抗する気力のある相手には殺意むき出しの殺害行為を働くということなのですが……許しましょう。戦闘の末の殺害ならやむなし。
さて、止める必要のある事態になりそうはないですし次の幹部のところに向かいますかね。
さらばですカマスティナス、基地でもそれぐらい
「おッ、いい目してるじャねえか!よし殺す!」
……いやーな予感がします。このまま視線を外してはいけないですね。非常に見たくないですが、見ますか。
そこには妹らしき少女を庇って立つ少年の姿がありました。震える足で、それでも頑張って立ち妹を守ろうとする姿はとても美しい。それを殺そうとしているカマスティナスが史上最悪の極悪人に見えてしまいます。いやあながち間違ってもいないのか……それが幹部ってどうなんだ。
「知っていますか、カマスティナス」
「おうあッえ!?ウタマ!?んでここにいやがる!」
「それは戦闘ではなく虐殺と言うのです」
黒の兵団、擬似解放。幕末の剣士、坂本龍馬。神技拝借、対象指定、カマスティナス・ウォルケイオス。
軽く腕輪の神器を振るい、黒の兵団に登録されている坂本龍馬様の技を少し拝借。カマスティナスの両手の腱を断ち切り、殺害行為を働けないようにしておきます。
「戦闘は許します、果ての殺害も許します。しかして戦う力のない者の虐殺は許しません。今まで見逃してきましたがそろそろ潮時、一度制裁を与えておきましょう。基地に戻り救護室に治療してもらいなさい」
「くおお……ちくしョー覚えてやがれェ!」
「一応聞きますが同じ組織の人間ですよね?」
前言撤回、全然成長していない。私は悲しいです。
――――――
次は上城……おや?パルアプもいるようですね。彼らは同じ場所にいましたか。悪を探す上城と更なる強さの高みを目指すパルアプ……交わることはないはずですが?
「ふ、まさか貴様がそのような悪であったとはな!」
「……知らんかった、か。よもや貴様らしくはない……」
……パルアプが、悪?上城の正義の基準は知りませんし別に知りたくもないですが彼は悪人ではないはず。寧ろ彼のあの雰囲気……過去に触れようとした際に発するオーラは残酷な過去を背負う者特有のそれ、悪とは程遠いはず。
しかしてあのパルアプが挑発行為……性格が私の記憶と一致しません。まさか猫を被っていた……?
ご拝読いただきありがとうございました。
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