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Last reverse  作者: 螺鈿
last reverse〜Seva the would〜
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可能性と未来、現実【1】

「異世界?そんなもノがあるのカい」


 曲がりなりにも研究者であり、観測できない事象に関しては信じないスタンスであるはずの彼女だがスティスの言葉への返答はあっけらかんとしたものだった。


 それには当然理由がある訳だが、まず彼女は異世界というものの存在を完全否定していた訳ではない。可能性としてはまあ、あるんじゃないかな?ぐらいには思っていたのだ。それに本人がそう言っているのだ、信じてもいい。疑う材料で溢れてはいるが、だからそうせねばならない訳ではない。


「は、この世界では……神器として人に馴染んでいるようですが、私の世界での神は魔法、と呼ばれておりました」


「魔法……ああ、だカら魔の神器に引っ張られタのか」


「恐らくは。私の世界で神は、こちらの世界でいう概念系だけでありました。つまり今回のような混ざり合いは日常茶飯事という訳です。世界を越えた混ざり合いは恐らく……初めてなのでしょうが。私、存外興奮しております」


 そのロリ体型で興奮と言われると、かつてでいう性犯罪に引っかかりまくってしまうような気がする。


 しかしそうか……まあ、地球上の概念に縛られない高次元のエネルギー収束体。『融滅』として持ち得る科学力全てを用いても1%も解明できない秘匿性。二つ三つ集まれば別世界を構築することも訳ないか。だとするとこの世界の神がセイナー如きにバラされたことの説明が付かないが……神にも色々あるのだろうか。わからない故に何とも言えない。


「ふーむ……マあ、理解した。誓ってくれルんだよね?忠誠ヲ……人類最大の外道デあるワタシに」


「は、我が身、心、全てあなたのものです。我が魂が否定しない限りは、全霊を越えた力をあなたに捧げましょう」


 忠誠やら何やら、騎士道を感じさせる言動だったが故に最終勧告の意味も含めて『人類最大の外道』という情報を出してみたが、依然としてその態度に変わりなし。


 ……Evil angelの代わりになってくれるならそれでいいか。スティスの心の在り方と『融滅』の心の在り方の乖離故に少しだけ罪悪感を抱くが、彼女がそれでも忠誠を選ぶと言うならばもはや気にする問題ではないだろう。


「じゃあいくつか注意事項を伝えておこう」


「は、なんなりと」


「まず、君の心臓は何があっても守り通すこと」


 これは絶対だ。例えEvil angel(二号機)としての肉体が破壊されようと、スティスの魂が消えてしまっても、何があっても悪魔の心臓だけは守ってもらわなくてはならない。


「承知致しました、我が身に代えても、必ずや」


「次、戦場では基本的に自分の判断を優先スること」


「マイマスターに絶対服従でなくともよい、と?」


「うん、ワタシは戦闘はそこマで詳しくないかラね。まだ君の方がマシな判断がでキそうだ」


 勘違いされがちだが、『融滅』が二つ名を得るに至ったのはその物量が故だ。死体の群れ、Evil angel、無数に放たれる神器による攻撃。純粋な強さというよりは、“どうしようもなさ”を考慮して彼女は二つ名を与えられたのだ。


 そして彼女の本職は科学者、研究者。戦闘は本来専門外のことなのだ。今まで上手くやってこれたこと自体奇跡に等しいこと。安定さが増すならスティスに委ねる。


 他でもない、これから行われるのは魔神獣との決戦……滅びの神への抵抗なのだから。


「最後、手段を選ばなイこと。君はこれかラ神との決戦以外に出番はナいけど、例えば人質とカも躊躇なく」


「……神?神との決戦と申されましたかマイマスター」


 最後に『融滅』に従うというのがどういうことか教えようとしたその時、片膝をついて頭を垂れていたスティスが恐ろしい形相をしながら顔を上げた。


 これはアレだ、何かを極度に恐れている者の顔だ。


「何か嫌な思イ出でもアるのかな?」


「お察しかと思いますが、私の世界における私の肉体は既に死亡しております。いえ、厳密には……」


 思い出すだけでも恐ろしいのか、スティスが自分の体を抱いて震えながら言葉を捻り出している。


 というか……そうか。繋がりから零れた魂、と言っていたな。肉体の中にある魂が零れるはずがないのだから、彼女は既に死んでいることになるのか。


「私の世界は、既に消え去っているのです……!」


「詳しく聞かセてもらおウか、何があった?」


 スティスの脇を持って抱え、椅子に座らせる。『融滅』も予備の椅子を出して座り、メモ用紙とペンを手に取った。神との決戦というワードへの反応と、その情報から世界の消失を出してきたことが無関係とは到底思えない。


 何をするにも情報収集、それはなんの分野でも変わらぬことだ。スティスから神に関する情報を集め……少しでも神人決戦に生かすとしよう。


 因みに染黒の裏切りの情報は胸に秘めておくことにした。脅威的な存在ではあるがなんとかなるだろうし、伝えたら伝えたでめんどくさくなりそうだし。『融滅』は面白いことが好きだが、それ以上にめんどくさいことが嫌いだ。


 ペンを走らせる準備を整え、スティスの言葉を待つ。


「私の世界は、魔法により顕現した神と戦いました」


 要するに世界に溶け込んだ神が抽出され、それと人が……世界が戦ったということか。似たようなものだな。


「しかし神は我々の攻撃では傷一つ付かず、あらゆる手を尽くしましたが敵わず……人類は、世界は終わりました」


 本当はもっと詳細な情報が欲しいところだが、スティスの様子を見るにこれ以上は無理だろう。あまりにも少なすぎるが、軽い質問も交えて整理していく。


「神は、純粋な神だったノかい?混じリっけのない存在だっタのかい……中に人とカ、いなかッたかい?」


「いなかったと思います。こちらの世界の神は、中に人がいるのですか……?」


 それを聞いてひとまず安心する。もし中に人がいて、それでも敗北したというなら今からでも別の方法を考える必要があった。差異があるなら、挑む価値はあるだろう。


 純製の神は、欠片が集まった集合体。であるならば人類に勝ち目はないが……魔神獣の神の欠片はセイナーに譲渡されており、それでいて神の欠片を保有する生物としての存在証明は神の欠片に頼っている。つまるところ、神の欠片を保有する者が穴を開け、そこからセイナーを引きずり出し魔神獣を滅ぼせばこちらの勝ちなのだ。……そこも伝えなくてはならないか。


 情報を所持するのが当たり前になりすぎて忘れていたが、まだミズガルズの人間はセイナーがどこにいるのか知らないのだった……というより、魔神獣についてあまりに無知だ。後で天道に教えて、全体に通達させるとしよう。


「じゃあマあ、安心していいよスティス。人ガ混ざってる神相手なら、まだ勝チ目はあるさ」


 誰かを安心させるための言葉なんていつぶりだろうか。


 その言葉を聞いて安心したらしいスティスの震えが収まり椅子から降りる。すぐに膝をつかないと死ぬ病にでもかかっているのだろうか……もう死んでるんだったな。


「そのお言葉を聞けて安心致しました。この身、神殺しのために存分にお使いくださいませ」


「うん、じゃア早速付いてきてくれ!現状を把握してね!」


 スティスを引き連れて部屋を出る。途中変な目で見られたが、後でそういう趣味ではないと否定せねば。


 天道の部屋に向かい招集をかけさせる。彼も魔神獣討伐部隊に言いたいことがあるようだったから丁度いい。更なる情報の投下を行い、ここで情報の過積載を起こすとしよう。


「よーし、頑張るゾー!」


 彼女は初めて、人類のために戦おうとしている。


 異世界人の魂と共に。


 ――――――


「まずフリシュ君たちには謝罪を。酔裏君がこのタイミングで離脱するのは前から決まってたんだ。すまない」


「事前説明が欲しかったけど……まあ、いいよ。二度と会えない訳じゃないさ。決戦の後に笑えればいい」


 作戦司令室で深々と頭を下げる天道を、フリシュが頭を上げるよう促しながら声をかける。伝える時間がなかったことはわかっている。天道が謝ることではない。


 その後も酔裏が選ばれた意味や事前の打ち合わせ事項について話され、『融滅』にバトンタッチされた。


「やあヤあ皆っと、そんな怖い顔しないノ受君とか受君とか受君とか……スティス、ステイ!ステイ!」


「ていうか誰だその幼女。趣味か?」


「そこは否定できナいんだけどねエ……云々かんヌん」


「はー異世界。すっげえなあ……」


 彼女のことを恨んでいる人間は当然ながらそこらに腐るほどいる。この地平で最も恨まれているのは間違いなく彼女だろう。そんな人間が前に立てば、殺意を多量に含んだ視線が突き刺さるのは必至。そして主人がそんな視線に晒され平気でいられるスティスではない。


 めんどくさいなあと思いながらスティスを抑えて視線を無視しながら、魔神獣に関する情報提供を開始する。


「色々伝えなきゃいケないことはあルんだけどね、まあ一つずつ説明シていくよ。まずは神の欠片ノ所在」


「待った、神の欠片ってどんなもんだ?」


 冗談だろう?という顔で全体を見渡すと、うんうんと春馬に同意するように頷いている人間が大半だった。そうしていないのは壱馬だけ……さすがに知識がなさすぎないか?


 まあ、隠されてたと考えればわかる訳ないが……『融滅』も、小型屍機がいなければその情報を得るのにもっと時間がかかっていたのだ。そう考えれば、仕方のないことだろう。そう納得することにする。


「あー……うン、一から説明するよ!ついテきて!」


 〜三時間後〜


 後悔。そう、後悔だ。よくよく考えれば、エスティオンが神について知る機会はなかった。恐慌星の神の欠片は染黒が持って行ったし、絶対星やイヴについてだってそうわかっていた訳ではないだろう。なんか味方が敵になった、程度の認識だ。隷属星と妖姫星についてはなんかよくわからん敵のままだった。エスティオンの視点で物事を見ていなかったな……いつの間にか視野が狭くなっていたか。


 ……そうだ、こいつらは絶対星たちの正体を知らないままじゃないか。なんなんだこの情報の足りなさは……


「……これでいいのかいクズ弟子」


「情報が足りないなあとは思いますが……全て誤差ですよ、誤差。今は魔神獣以外の情報はカットしたい」


 まあ、天道の言うことにも一理ある。先刻は勢いで情報の過積載を行うと言ったが、魔神獣は単体でも凄まじい量の情報の塊だ。余計なものは避けるべきか……


「ふむ……まあイいか。知りたいこトは決戦後に各自で調べるっテ感じで。では本命の説明に入ルよ!」


 三時間説明してもわからない春馬と天爛はもう放置だ。というかお前たちが無駄に質問したから長引いたのになんでお前たちが理解してないんだ殺すぞ。


「口が悪いですよマイマスター」


「うん謝るかラ次は思考読まナいでね。それワタシの特権」


 〜更に二時間後〜


「なるほど、つまり神の欠片とやらを持ってるやつが」


「染黒君がいナい以上君しかいないンだけどね」


「……俺が魔神獣の体に穴開けて、中にいる人間を引っ張りだせばあのデカブツは擬似魔神獣と同じって訳か」


「あくまで偽リの神の攻撃も通るよウになるってだけさ。魔神獣に刻み込まレた能力はそのまマ。元々彼女は不死ジゃないしねえ……ウん、春馬君の言う通りだよ」


 作戦はこうだ。

ご拝読いただきありがとうございました。

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