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Last reverse  作者: 螺鈿
last reverse〜Seva the would〜
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子と母と神と【2】

「やれやれ……機材は、まあ無事だね。はーい起きてね皆ー起きてー不慮の事故だったけど仕事はまだ」


 ズッゴアアアアアアアアアアアアアアンン!!!!


 何をどうやったらそんな音が出るのか、というほど壊滅的な音が訓練場から聞こえてきた。どれくらい壊滅的かと言うと、絶対星の能力で気絶していた研究員たちがその音だけで目覚めるほど。どんな音なんだ。


 が、そんな事は考えるよりも見た方が早い。アンタレスを起動し、基地中に張り巡らせた小型機による監視網にアクセスし原因を探索……する必要もなかった。本当によく目立つ男だ、彼は。いや彼と言ってはいるが男なのか?


 訓練場に取り付けた小型機には、壁と天井が破壊され地面に超巨大クレーターができ、受等の一部例外を除いて全員が気を失っている地獄のような光景が映し出されていた。それはまるで、そう。研究室での出来事が訓練場で再現されたかのような凄惨な光景だ。地獄とでも形容しようか。


「見えているのであろう、天道。弱き者。心強き者。我はこれより我が正義を証明しよう。我が正義を世界に刻み付けよう。そうすることで、我は更なる力を手にしよう!」


 本気。その様相だけで、喋り方だけで、天道でもそれを感じ取ることができた。この男は、絶対星は、正義の星は、本気で人間相手に全力を出そうとしている。


 事実上の死刑宣告だ。実際、その場にいてまだ意識を保っているのは愛蘭受、神梅雨幸幸、桃月遥だけ。その他の人間は全員意識を失っている。人類戦争を生き残った、少数の元神器部隊員たち。彼らも決して弱くはないというのに。


「困るなあ絶対星……大人しくしてくれないかい?」


「貴様が我を強くする方法を思いつかんからだ。我に落ち度などないとも。あるとすればそれは……いや、ないな」


 クク、と笑う絶対星は確かにそう確信している。自身は悪くないのだと。それはやはり、正義、だからか。


「君がそこで止まらないなら……」


「……止まらないならば、どうする?絶対正義たる我をどうするというのだ、貴様は?んん?」


「殺す。ええ、きっとそう。あなたを殺す」


 二人の会話に割り込んだのはイヴだった。訓練場から響いた轟音に反応し、春馬を置いて一人で駆け付けたのだろう。既に戦闘態勢に入っている彼女の目は、絶対星と同程度に恐ろしく本気だった。最初の“なり損ない”と最後の“なり損ない”、その二柱が対峙する。


「まったく、折角気が変わったけれど……やっぱり、あなたの神の欠片は私が回収するわ。ええ、きっとそう」


「……………………ほう?同じ“なり損ない”のよしみで見逃してきたが、よかろう。今この瞬間をもって、貴様は悪だ。強き悪よ、我が正義の下に滅び去るがいい」


 天道ガン無視で話は進んでいく。色々止めたいところはあるが、ここに何か言ったところで変わりはしないだろう。いやだとしても止めるべきか……悩みどころだ。


 イヴと絶対星は、身体能力のみで言えば圧倒的にイヴの方が上だ。だが、絶対星の能力があればそんなものは“瞬”で埋まってしまう。更にイヴの手数で押す戦法は絶対星とは壊滅的に相性が悪い。蟻の群れでは巨像には勝てぬ。


 しかし穴はある。絶対星の能力は“己が正義であると確信している”ときにしか機能しない。つまり。


 (あなたが正義ではないと思い込ませる……!)


 ゼロとイヴが共通で装備していた神器、両眼、歌、呪い。全て精神干渉の神器だ。他の誰にもできぬ、三種の神器による精神の同時侵食。偽りの神といえど、効果はあるはずだ。


 無言で対峙しながら密かに能力同時展開。対象を絶対星に絞り、精神侵食を開始。だが。


「む?なんだこれは……“くだらん”」


 勘違い。思い違い。それは致命的な間違いだ。


 絶対星の周囲は正義で覆われている。自在に変形し硬度まで変化する機構の魔神器で覆われている。物理的防御において、他に並び立つ者はいない。


 そしてそれは精神面においても同じことだ。物理的なものよりも強い正義でコーティングされた彼の精神は何者にも侵すことなどできはしない。挑むこと自体が、無謀。


「ふーむ……くく、思ったより、臆病なのだなあ貴様は。仲間がおらんと真っ向から挑むことさえできんか……ならばよい、よいぞ。仲間を引き連れてくるがいい」


 殴るでも蹴るでもなく、最初に精神攻撃を仕掛けたことが彼の正義においては臆病なのだろう。片腹痛い、とばかりに小さく笑った彼は、自身が開けた訓練場の壁の穴から外に出て行き、少し進んだところで胡座をかき座った。


「我はここで待つ。猶予は半刻。過ぎれば皆殺しだ。そうして我が正義を示す。例外も慈悲もない。よいな」


 そう言った瞬間、彼の頭部から覚醒を意味する光が消滅した。眠ったのだ、三十分後の戦闘のために。


「……天道、アレに少しでも抗える戦力を全員ここに連れてきてちょうだい。名前は私が言うからその人たちに……できる限りだけれど、無駄死にはさせないわ」


 天道の心に広がる感情は、安堵であった。本当にあそこでドンパチが始まっていれば何人巻き込まれたかわからない。あの桃月たちも、負傷していたかもしれないのだ。


 ああ、とだけ返答しアンタレスに再接続、基地全体に呼び出しをかける。展開が急すぎてあまりついていけている気がしないが、とにかく現状は絶対星の対処が最優先事項だ。恐らくこの場で最も状況を把握できているイヴの指示に従い、後は臨機応変に対応……


「でも、でもね、天道」


 アンタレスの向こう側から、まるで始まりの四人として出会った時のように弱々しいイヴの声が聞こえる。この時代で彼女がこんな声を出したのは初めてではないだろうか。


 小刻みに震える彼女から、人間味を感じる。どこか人間らしさのなかった彼女からそれを感じている。


「何人か、死ぬかもしれない。ごめんなさい、全力で守るけれど、それは覚悟しておいてちょうだい」


「……君が心配することじゃない。安心してくれ……それはそうと、だ。とりあえず、僕もイマイチ状況についていけていない。軽くでいいから説明を頼めるかな?」


 首を小さく縦に振り、その言葉に彼女は応えた。


 ――――――


「……つまり、なんだ。絶対星は僕たちと一緒に戦う気はないということかい?一人で戦うつもりだと」


「ええ、そもそも彼からすれば私たちは全員弱者。私が強き悪と呼称されたのも、あくまで弱者の中では比較的強者というだけよ。……そう、赤子の手を捻るようなもの。そして一度悪……魔神獣に敗北したので、一人で決着を付けたいのでしょうね。正義の力を思い知らせたい……とか」


 受、神梅雨、春馬、桃月、天爛、壱馬、そしてイヴの計七名のみが絶対星と対峙して生き残る可能性があると判断され崩壊した訓練場に集結していた。染黒は非常に嫌だったが呼ぶ予定……だったのだが基地内のどこにもいなかった。『融滅』は戦力にならないと判断されたためここにはいない。


 今の彼女はEvil angelさえまともに起動することができない。悪魔の心臓はギリギリ守り通せたが、周囲に肉や神器を定着させるために現在調整中、とのことだ。


「先に言っておくと、こうなることは一応予想できていたのよ。最初から反抗的だったしね、彼。元々共存する気もなかったし、だから、ここで言っておきます」


 俯きながら話していたイヴが顔を上げ、アンタレスの向こう側の天道含め全員に通達する。


「彼を殺すか、私たちが殺されるか。どちらかの道しか私たちには残されていません。和解など有り得ない」


「待ってください、それでは先刻のあなたの発言と矛盾してしまう。僕たちは守ってくれるんじゃないんですか?」


 壱馬の指摘はもっともだ。イヴは確かに、何人かは死ぬかもしれないが全力で守ると言った。その発言と、今の全滅発言は完全に矛盾してしまっている。


「部分的な話です。私は私の命をかけてあなたたちを守るから、敗北の際は速やかに逃げてください。そういう意味で私はあなたたちを全力で守るということです」


「おいおいおい、そりゃアンタが死ぬってことだろ?それは認められないぜ!ようやく会えたってのによ……」


 春馬のその言葉に、イヴは薄く微笑むことで返した。


 そこから、壱馬とイヴを中心として作戦会議が開かれた。受と『融滅』に惨敗した際のイヴと今の彼女はまったくの別人と言ってもいいほどに成長している。それは元々の彼女のポテンシャルの高さもあるが、何よりゼロがイヴのために遺した唯一の遺品の影響が大きい。


 意思持つ神器であるゼロは、いつかイヴがこうして戦うことになる時のためにあるものを残しておいた。


 それは、ゼロが一から学んだ戦闘のコツ、作戦の重要性や土壇場での判断、技術の習得方法etc……の情報が記された手記。ゼロはイヴが自身より強いと確信していたが、経験等の 面では自身より劣るのは当たり前と考え、こうして有用な情報を彼女のためだけに残していたのだ。


 それを読み込んだ彼女は、擬似的とはいえ歴戦の戦士にすら並ぶ。実践さえすれば、ゼロにだって。


「……よろしい、作戦はこれで。それと、一つ懸念事項がありましてね、聞いてもよろしいですか」


 ウタマの言葉にイヴが頷く。


 絶対星は強敵だ、戦闘中の余計な思考は命に関わる。戦闘に入る前に疑問は減らしておいた方がいいだろう。


「魔神獣は絶対星への対抗策を生み出すために海底に撤退しました……そうですよね、天道?」


「あくまで研究室の予測だけどね。恐らくそうだろう」


「なら、ここで絶対星を殺してしまっては魔神獣はすぐに我々に襲いかかってくるのではないでしょうか」

「ああ、その心配はありませんよ。なぜなら……」


「刻限だ」


 小さい、だが芯に深く沈み込むような重低音。


 鎧を纏いし絶対正義。神たる星の、正義のカタチ。今、人類の救済を目指す人間たちを悪と認識したソレが牙を剥く。その力を用いて、粉々に粉砕しようとしている。


 大地を踏みしめ、敵を見据えて。確実にそこにいるのに脳が陽炎だと認識するような強者としての格の違い。構えもしない、両腕を下ろした状態だが、恐らくそれこそが。


 彼の正義の形なのだろう。弱者には構えすらいらぬ。


「……話は、勝った後で。心配ない、とだけ認識してくださいね、ウタマさん。そもそもが仮定の話です……」


「まずは、勝ってから……ええ、まったくその通り!そして勝った後、あなたと話せることを望みます!」


 作戦第一段階・【全力で攻撃】。開始。

ご拝読いただきありがとうございました。

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