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Last reverse  作者: 螺鈿
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Episode 24 And the end will come【2】

 何か一つ、行動を起こす際。腕を振り下ろす動作で例えた場合、腕を上げ、下方に動かし、振り下ろす。この三つの動作が必要となり、妖姫星はこれを事象の“発生”、“過程”、“結果”に分類する。


 鎌の魔神器の能力はこの三つを入れ替えることであり、つまり。


「結果を先に持ってきて、発生を最後に持ってくる。そしてもう一度事象を発生させれば、二度結果が訪れる……」


 能力の縛りとして、一度事象の入れ替えを開始すればその事象の三点を完全に終了させるまで他の事象は起こせない。その縛りがなければ、彼女は限界まで結果を発動し続ける。


 倒れ伏す三人を見下ろしながら、隷属星が糸の魔神器を超広域に展開し始める。連続の負傷と再生でなくなりかけていた体内エネルギーを使い果たした妖姫星はもうまともに動くことすらままならない。隷属星の攻撃力では神梅雨たちを殺しきれないため、こうして拘束する他ない。


「……オ前モ、理解シテクレルカト思ッタノダガ。オ前ノ正義ハオ前ダケノモノ、ボクタチノ正義は決シテ理解モ共感モサレナイノダロウナ。ダカラ、ココデサヨナラダ」


 もう指一本すら動かせない彼女たちの全身を、粘着性と柔軟性に富みすぎている糸が包み込んでいく。


 意識すら喪失しかけている彼らに抵抗は……


「……ガッ、ア、オ、アア!?」


 絶対星は理性を失い肉弾戦しかできない。神梅雨に至っては戦闘することすらままならない。するにしても、レベル4神器の身体能力による殴り合いしかできない。


 そこにばかり意識が行っていた。


 隷属星にとって、染黒は絶対に殺すべき諸悪の根源。故に最大限の警戒はしていた。しかし、彼は彼女のことを知りすぎていたのだ。子供の頃から、見てきたのだ。


 彼女は非力で体力がない。子供たちが遊ぶ中に入ることすらできないか弱い女だった。だから、妖姫星の『Buster ver.エクスカリバー』を二回もまともに食らって意識を保てるはずがないと思い込んでいた。全能神器は変わらずそこにあるというのに、“そういうものだと思い込んでいた”。


 隷属星の胸を、妖姫星の頭を。黒い粘性が貫いていた。


「ふぅ……危ない、危ない……」


 彼らにとって大きすぎるダメージを与えられ、度重なる負傷と再生によりボロボロな体はもう動かない。何とか脚の先端だけは動かせるが、それでは彼女には届かない。


 この場で立っているのは、染黒悔怨のみだ。


「二級に、宇津湯花楽うつゆからという女がいる。やつ自体は弱者だが、神器……守護の神器の防御力は侮れん」


 染黒の記憶力は後付けのものではない。


 全能神器を杖の神器として用いていた時の染黒の記憶力は人智を超越していた。あまりにも長すぎるあの詠唱を、凄まじい肺活量と滑舌を用いて瞬間的に唱えていたのだ。


 多くの者は、肺活量と滑舌にばかり目が行くだろう。だが特筆すべきはその記憶力だ。彼女は、無数に存在する複雑怪奇な詠唱の全てを一字一句違えずに記憶している。


 そしてそれは、生まれた時から身に付けている技術だ。


「儂は想像力がないからのう……既存の何かの模倣しかできん。記憶力コレは、正にベストマッチじゃよ……」


 三級から特級に至るまで、彼女は全エスティオン構成員の容姿、性格、特技、使用神器etc.を把握している。


 守護の神器は、防御……否、完全防御に特化している神器だ。それは言い換えれば“無敵”と表現することができる。一度限りではあるが、装備者の存在時空をズラすことで全ての物理的現象を無効化し、擬似的な無敵を付与するのだ。


 その防御力は、突破云々の話ではない。比類なき防御特化の神器なのだ。だが代償として、唯一の使い捨ての神器であるとされている。故に今、既に染黒は全能神器を手にしている。


「一度目でクールダウンが必要になるまで追い込まれたのは本当じゃよ。じゃが、それがどの程度かは言っとらん」


 全能神器は五柱、真なる神。通常の神器とは訳が違う。数秒あればクールダウンは十分に可能だ。


 最初に結果を持ってきて、最後に発生を持ってくる。間に過程が挟まれば、数秒などすぐに経過する。球体状態で染黒を覆うことでダメージを受け流せたのも大きい。


「さーて、絶対星も隷属星も妖姫星も動けんよなあ。一番怖い絶対星は拘束済みときた。神梅雨ちゃんは問題ないとして星共……かつて愛した我が子共。ここで死ね!」


 残り一分。


「オ、オ前……ガ……」


 全能神器を分割し刃として形成、星たちの急所に突き刺そうとしたその時、蚊の鳴くような声が隷属星から漏れ出た。甲殻が体内に侵入し、内臓器官が完全にダメになっている。


 妖姫星と絶対星は完全な沈黙状態、どちらにとってもエクスカリバーの完全解放はダメージが大きかった。


「全部オ前ガ悪イノニ!」


 それは咆哮、虐げられ見捨てられた幼子の咆哮。


 だがそれに対してかつての母は。


「……なあスラヴァカ、お前は頭が良かった」


「何ヲ、言ッテイル?」


「だが爪が甘い、それは昔から変わらんか。勉強でもそうだったなあ、最後の約分やらを必ず忘れる」


 懐かしむようにそう続けた。一つ一つ噛み締めて、少し微笑みながら聖母のようにそう紡ぎ始めた。


「イヴにも中々攻めきれんで、取られる取られるとばかり焦りおって……そんなだから、この戦争でも殺す滅ぼすと誓った人間を全然殺せておらんではないか、くく」


「ダ、黙レ……!」


「楽しかったなあ、昔やったトランプの……スピード。毎回僅差で負けてしまうんじゃよ、儂は」


 それはお前の動きがトロすぎるからだ、と。


 自然に言ってしまいそうになっていた。あれだけ憎み、なんとしても殺すと誓ったはずの染黒に、ムーナに。かつての母に感じたような呆れにも近い温かさを感じていた。


「ふふ……最後は、スペードの、8……」


 ローブの内側から、よれたスペードの8を取り出す。時間が経ちすぎたのかくしゃくしゃだが、染黒はそれでも大事そうに持っていた。隷属星が、驚愕に目の色を変える。


 くすくす笑いながら、染黒がカードを掲げて言った。


「これで、儂の初勝利。ようやっと勝ったぞ……ふふ」


 やめろ。そんな顔をするな。そんなことを言うな。お前はボクたちを無視して見捨てて、二人きりの楽園とやらを築こうとしたのだろう。人類に敵対する悪魔なのだろう!?


 何故そんな母親のような顔をする?何故そんな母親のような声を出す!悪魔ならば最後まで悪魔らしくあってくれ!


「無駄なことを話しすぎたな……なあスラヴァカ、グラーヒと……アヴルト。お前たちは儂の敵だが、大事な子供だ。忘れない、ずっと儂とセイナーの心の中で、生き続けよ」


 その声は確かに母親のそれで。


 だから、死の間際に悪魔に呪いを残してやろうと思ったができない。だって今ボクたちを殺そうとしている存在は、悪魔と母の二つの面を併せ持つ滅びの魔女で。ただ純粋に悪魔に呪いを残そうとしても、母にはそれはできなくて。


 あれほど人を憎んだ。あれほど殺意が湧いた。それが自分にとっての正義なんだと気付いた。そしてその正義はここで果てる。……次があるなら、その時は、もう一度


 残り0秒。


『操り師』隷属星


『末妹』妖姫星


 脱落。 


 全能神器が隷属星と妖姫星、絶対星の急所を貫いたのと寸分違わぬタイミングで、無数の光線が海の方角から放たれ世界を埋め尽くした。何かに引き寄せられるように、この戦争を生き残った者たちが同じ場所に集められる。


 皐月春馬、越冬壱馬、フリシュ・スサイン、盲全映、酔裏蜜香、天爛楽歩、神梅雨幸幸、染黒悔怨、ウタマ・イン・ケルパ、桃月遥、イヴ、エスティオン神器部隊員数名、カンレス・ヴァルヴォドム。そして……


「ぐっ……はぉあ!」


 光線が放たれたのと同じ方角、海より飛来するその者の名を『融滅』エルミュイユ・ レヴナント。


 イヴの神器による爆発の負傷が悪化し、もう立つことすらままならない状態になっている。言葉を発するのも辛いようで、ごはっと血を吐いて僅かに痙攣しながら倒れている。


「なん、だ……今のは?何故こんなに集められている?」


 その場にいる全員が困惑し、周囲を見渡す。突然同じ場所に引き寄せられた彼らは、まるで磁石に吸い寄せられる金属のようだった。無理やりに引っ張られてきたのだ。


 誰がそんな芸当をしてのけたか……などと。戦場全体に干渉し操る能力強度と規模を持つ者など。


 考えるまでもない。


「告げる。告げる。告げる」


 絶対星と魔神獣の覚醒タイミングはほぼ同じになるよう調整されていた。絶対星は、例え隷属星が己の正義に気付くことがなくとも、もうすぐ目覚めるはずだった。


 そしてそれは魔神獣とて同じこと。ただの厄災ではない、意思持つ大いなる滅びとしてそこにある紅蓮の怪物は、果たしてあの時と何も変わらぬままここに到達した。


「我が家族を傷付ける者。我が家族を傷付ける可能性がある者。我が家族を除いた全ての者に告げる」


 その者は紅蓮を纏い、上から告げる。


 何故今の今まで気付かなかったのかと、驚きを通り越して呆れさえ覚えるその巨躯から、まだ幼さの残る家族という縛りに、呪いに囚われた小さな女の子の声が聞こえる。


「ここで滅びよ、我が星の名のもとに」


 必滅の星。終焉星、魔神獣。またの名をデゥストラという。


 新たなる滅びを前に、戦争は終わった。



 ――――――


 真っ先に動いたのは彼だった。


「正義いいいい……執行おおおおおお!!!!」


 全能神器により急所を貫かれた絶対星だったが、その程度で死ぬようなやわな生物ではない。彼が彼を正義と信じる限りは、彼が己の正義を執行し終わるまでは。


 彼は彼として、絶対正義としてここにあり続ける。


 本来ならば言葉を交わすのだろう。何故貴様が、とか生きていたのか、とか。だが今この状況においてそうする意味も余裕もありはしない。動く。動け。動け!


「天貫き産まれる草花の根の一つに付くは三千骸その怨恨の果ての雨降りつぶりの枯れずの命尽きるまでそう易易と取り憑き変わらず永遠紡ぎ螺旋階段は果て知らず精と妖と霊の臓腑煮え切る壺の中は終わりなき宝物の一欠片欠けること決して許さず絶対の理絶たんまでして移ろうまで世界そう変わらず滅さず滅ばず淡々と使命果たせず消えゆく定めなれば地獄とならんこと祈らずとは至らず依代とは繋がりそのままに千と万と億といつまでもあらんと願う全飲み込む変わりなき怨嗟は粛々と生喰らい大罪の者は小さき灯火となりてまた遅々として小さき罪は逃れられぬ大罪へと移ろいゆく運命なれば赤子如きの手と頭はやがて世界を創る人柱となりてゆくゆくは永遠を伴に生きんとする悲しき存在と変わりゆく往々として大衆の一つは真名刻むことなく力を行使してやがて伴に滅びゆく運命なりと願わん願わんとすればその執行人は一つに絞られ縄は全も一も変わりなくそれぞれ縛りゆく。召喚、『冥滅之帝』、急急如律令!」


 全能神器の能力の性質上、染黒は自身が杖の神器を使用していた事さえ覚えていない。守護の神器を使ったことさえ、もう覚えてはいないだろう。だが、記録はある。詠唱も記憶している。ならば、杖と考えるだけでいい。必滅の具現を前にして、染黒の脳は覚醒状態に入った。


 地獄の釜の蓋が開く。

ご拝読いただきありがとうございました。

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