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Last reverse  作者: 螺鈿
last reverse〜to be screened〜
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Episode 24 And the end will come【1】

「あ〜そうイう感じね……ま感動的じゃないカな」


 第一戦場の決着を見届けた『融滅』がそう呟く。大方予想通りの最後だったが、逆に予想通り過ぎてつまらない。


 決着してから数分経過、カンレスは上半身だけで抱きついた状態で死んでいる愛蘭霞を前にして動くことができず、その場にいたエスティオンの人間に拘束された。それほどのことをされても本能が反応しないとは……どうやら彼女に芽生えた感情とその影響はかなり大きいらしい。


 状況整理と死んだ最上第九席の役割を誰が担うか等の話し合いのため、エスティオンの人間はそこで行動停止している。この調子なら、ちょっかい出す必要もないだろう。


「さてさテ……あー、うん……そウだね、うん」


 隷属星たちのことを筆頭に、考えることはまだまだあるがそれは少し置いておいて。なにせあんな虫けら共とは比較にならない脅威となる存在がここに迫っている。


 屍機による東京全土の観測、及び旧アメリカ大陸の絶対星と魔神獣の監視を『融滅』は常に行っている。絶対星は隷属星の正義に反応し、無理やり目覚めてここまで来たが。


 なんだかんだで一番警戒するべきは絶対星たちだった。セイナーのシナリオに彼ら星たちは含まれていなかったが、まあ経緯が経緯。無理やり割り込む可能性は十二分にあった。実際無限星と魔神獣以外は全員介入してきた訳だし。


 その中で更に警戒すべきはやはり絶対星及び魔神獣。アレらの力は規格外というレベルすら超越している。ゼロがタイマン張って互角程度だ。絶対星は能力頼り、魔神獣は純粋な肉体、質量の大きさの差による強さとそもそもの強さの種類が違う点もまた厄介。対策を二つ考えなくてはならない。まあいくら対策を考えた所で『融滅』程度では話にならないので考えるだけ無駄なのだが。


「そうだ、そウだよねえ……君に主導権ナいもんねえ」


 よいしょ、と軽い言葉とは裏腹に一世一代の覚悟を決めながら『融滅』が立ち上がる。この高台の下でまだ戦っている者たち、もう戦いの終わった者たちを見て羨ましいと思う。そんな地獄を容易に越える存在とこれからタイマンだ。


「まだ見てたカったけど……勝手に覗イた罪滅ぼしと、ソうだねえ……諸悪の根源ヘの復讐、しなくチゃねえ」


 くい、と『楽爆』とEvil angelを地上へと引きずり出す。どちらも損傷が激しい、『楽爆』など動いているだけで不思議な状態だ。限りなく成功例に近い星の子としての意地なのか、死んでも彼女のために戦いたいのか……


 いい気味だ、とは思わない。長い長い時を経て、彼も被害者なのだということは理解している。それでも許すことはできないが、恨むのはもうやめた。


「よーし、時間稼ぎはもう終わり!えいえいおー!」


 滅ぶだろう。いや、まだこの身に幸運か、この際悪運でもいい。残っているならそうはならないか……頼むから、今回で使い切っていいから、働いてくれよ。


 これほどの決意をしながら、何故『融滅』はなり損ないの星たちを思い浮かべたのか。遙か海を隔てた向こう側で眠っている彼女のことを思い浮かべたのか。


 その答えは、眼前。世界最大の海洋直上にある。


「太古の昔、世界の全てハ海から始まっタ」


 母なる大地は、根源たる大海により母となる。命持つ全ては原初の海より産み落とされ、未知の大地に夢を見た愚昧なる英雄が生命の第二の故郷を開拓した。


 即ち、誕生の福音。原初が進化へ至る道標。


「永遠に思えタ繁栄は、しかし宇宙ソラより至ル神によって終わッた。命の頂点、人の支配は終ワった」


 単純なるエネルギー塊でありながら指向性を持ち、支配する者、支配される者を選択する宇宙より飛来せし者。この星において有り得ざる無数の神秘、未知の境地を誕生の時より解明する究極の先駆者。しかし形ある力であるが故にそれは旧支配者となるはずだった人により犯され、その真体を十二に分割され支配者でありながら隷属することとなった。


 即ち、崩壊と支配の創世神話。停滞と後退の愚行。


「そして今、旧支配者たる人ガ残る最後の地に再び滅びが至ル。最も深く神を受け入れソの意思を継がんとする者ニよる二度目の崩壊は、果たしテ神の手により対抗さレる」


 抗えぬ滅びに残された神の手。それに縋り付いた人々はいつか神すら堕とす力を手にしていた。それは神の力、わかたれて尚神秘を有する宇宙最大のエネルギー。まだ足りぬ、さりとて届く。そんな塵にも達せぬ可能性の足掻き。


 即ち、前進と戦争の世紀。残された最後の奇跡。


 これより行われるはその前哨戦。未だに戦い続ける者のために、ただ一人の死の研究者が抗う。


「まったく、ワタシが主人公みたいじャないか……悪役だってノにさあ、ワタシは……マ、主役は遅れて来るモのか」


 少し遅すぎるけれどね、と笑い、Evil angelの背に乗り海へと向かう。全ての始まりにして終わりがそこにいる。


 こんなに巨大な存在だというのに何故気付けないのかはなはだ疑問だが、それだけ夢中ということか。運命に宿命に使命にケリを付けたいということか。所詮『融滅』はゼロと染黒という過去に囚われし者たちの応急処置のために、彼のシナリオに組み込まれた急造品に過ぎない。


 彼らのように崇高な目的なんて持ち合わせていない。ただ避けられぬこの戦争を生き延びて、ルルクとクリスともう一度家族になるために戦っただけだ。この戦争自体は通過点でもなんでもない、純然たる障害。無駄な時間。


 そういう意味なら『融滅』が彼女に立ち向かう意味はない。ここで『融滅』が時間稼ぎをせずに、この戦争を生き延びた者たちが灰燼に帰した後に神の欠片を回収して目的を果たせばいい。だが何故こうするのか。


「所詮泡沫だっタなんて結末は、ワタシだけでイいからね」


 彼女だってそうだった。あの幸せな日々もただの泡沫だったのだ、夢幻に過ぎなかったのだ。突然現れた何かに全てを奪い去られるあの絶望はもうこりごりだ。見たくもない。


 見るぐらいなら戦ってやる。私はどこまでもワタシのためだけにしか動かない。見たくない欲求に従うさ。


「さーて、いい感じノセリフと演出は任セたぞ!」


 陽気に振る舞いながらも彼女の体も心も震えきってしまっている。これより挑むは滅びの化身だ。


 海上到達、太平洋直上。目標観測、No.7。


 それは紅蓮に身を包んだ巨神。蠢き続ける複数本の腕はそれぞれの意思があるかのように見え、目視不可能な高度に位置する頭部からは天上の光が煌々と大地を照らす。この世界に生きるならば誰もが知る、最後にして最古の神。


 こうして近付いたからわかる、こいつは太平洋を泳いできた。だから地震も何も起こらないし気付かない。あの座標、高座標にいた『融滅』のみが観測できる。まったくこれだから海は、星を殺した存在すら受け入れるからタチが悪い。


 戦争そのものが海から離れた座標で行われているというのもあるか。偶然が重なりすぎだな、これが最大の不幸。


「これは……『楽爆』ハ役に立たないカなぁ……」


 叔母殺しになるしね、と呟き『楽爆』をEvil angel内部に格納した。鎖の神器も力を使えるよう取り込ませる。


 もって一分、それが『融滅』が限界まで甘く見積もった足止め可能時間。本体ではなく、上陸の際必ず踏みしめることになる大地の破壊に徹する。明確な破壊対象の存在しない広域破壊はEvil angelの最も得意とする分野だ。


 一度だけでいい、転ばせる。膝をつかせればそれでいい。そうすればあの巨体が立ち上がるのにはそれなりの時間を要するし、必ず地震が起きる。“気付かせる”。


 鍵は絶対星だ、彼の能力があれば体制を整えるまでの時間ぐらいは稼げる。上手く彼の正義に引っかからせることができれば、能力行使は厭わないはず。そもそも能力だけに限定すれば、星たちの中で最強は絶対星だ。


「よし、準備完了……じゃ、戦るか!」


 拳を打ち鳴らす。ソレが僅かに動く。


 紅蓮の怪物に、たった一人で立ち向かう。


「魔神獣!」


 ――――――


 第二戦場から、帰還命令が出された複製『融滅』が撤退してから数分後。戦局は絶対星に大きく傾いていた。


 戦争・第二次衝突終了まで二分四十六秒。


「何やっとるんじゃあのバカ!こんな局面で抜けるか普通!?」


「あの人……死体?に普通を当てはめちゃいけません!分かってたことでしょう!」


「正義……正義イイイイイイイイイ!!!!!!」


 交わされる言葉だけ切り取っても地獄と形容する他ないこの状況だが、その実戦いは一方的なものだ。


 神梅雨が慈炎符・プロメテウスと愛符・アフロディテを用いて絶対星を拘束、誘導し染黒と複製『融滅』がそれを叩くという戦法を取っていたのだが、まず攻撃役である複製『融滅』が撤退してしまったのでそこに隙が生まれる。


 どうやら外見がより騎士らしくなったこの絶対星は身体能力が大きく強化されているが理性が消し飛んでしまっているらしく、彼の能力を使用してこない。それは飛んでくる攻撃を直接弾かねばならぬということに他ならない。


 強化された彼の身体能力はもはや気色悪いレベルで、染黒と複製『融滅』が行動の制限された絶対星を絶え間なく攻撃し続けることでようやく互角の戦闘ができるほどだ。


「ちぃ……儂一人であいつの分は……無理だのう!」


 全能神器はあらゆる形に変貌できる点が強みであって、決して直接戦闘に特化している訳ではない。


 瞬き一回の間に即死級の火力の攻撃を叩き込んでくる絶対星相手に能力を行使する隙もない。原液そのままの黒い球体状態でコレの相手をしなくてはならない。これは一種の拷問とも言える行為だ。正気の沙汰ではない。


 残り二分一秒。


「それでもできるのが染黒さんの凄いところです!」


「結構限界……いやすまん!そろそろ本気で」


 乱入こそが、彼らの戦い方だと言える。


 なり損ないとなり研ぎ澄まされた感覚が、戦争の終結を予知しているのだろう。アレが訪れたからではない、戦場全体から殺気と熱が消えた故の予知だ。


 彼らがなり損ないとなってしまった全ての元凶、その一つと言える染黒を前にしてもはや言葉は不要。この戦争で……否、手に入れてから一度も見せていない魔神器の能力までフルに発動させながら、隷属星と妖姫星が現れた。


 ここに、この戦争の最後の役者が集結する。


『Buster ver.――――――』


 妖姫星の発する機械的な声が響き渡る。


 当然発動するのは、彼女の技の中で最高火力を誇る光の爆剣、『Buster ver.エクスカリバー』。鎌の先端から放出される光の刃を大地に突き立て炸裂させる奥義である。


 しかし。


「使エ、妖姫星……鎌ノ魔神器!」


 彼女の魔神器はその鎌だ。


「なっ……」


「いきなりすぎませんかあ!?」


「汝……おお、汝、我の救いし弱き者共おおおおお!」


 大地を突き破り地上に這い出た彼女は、上に鎌を突き出している。その先端から光が放出され、振り下ろされる


 その前に。


 神梅雨が、染黒が、複製『融滅』が、絶対星が傷跡を築いたこの戦場が一瞬にして更地と化す。凄まじい熱を有する光が傷だらけの大地を撫で、ガラス化させた。


 だが、彼女らは耐えた。


「プロメテウスが……能力行使臨界点か!」


「儂も、全能を動かすのにクールダウンが必要じゃの……」


「お、おお……ああ、我、正義いいい……」


 不可侵の炎が掻き消えた。全能の神器が傷を負った。絶対正義が膝を着いた。全て、純粋な火力が為した偉業。


 そしてもう一度、光が。


「「はあ!!!???」」


「なんと……なんという……!」


 あのゼロが恐れた唯一の技は、妖姫星の最大火力である『Buster ver.エクスカリバー』である。純粋な火力、破壊力、そしてその範囲においてこれを上回る技はこの世に存在しない。ゼロであっても耐え切ることはできぬ、絶殺の光の剣。


 それが、二度。物理的に考えて有り得ぬ現象だ。


 こうして彼女たちは、必滅の光の前に倒れた。神梅雨に閃雷千億武装が残っていたのなら。染黒が『冥滅之帝』を召喚できたのなら。絶対星に理性が残っていたのなら。


 そんな無数の“もしも”が思考を埋め尽くしていき、そしてその全てが無駄だと全身の痛みと共に悟る。


 防げない、避けられない。


「鎌ノ魔神器ノ能力ハ……事象ノ三点ノ入レ替エダ」

ご拝読いただきありがとうございました。

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