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Last reverse  作者: 螺鈿
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Episode 15 Origin, End and Dissolution【2】

 ふざけた声量の純白の甲冑の騎士がそう叫ぶだけで、なんの前触れもなく。予兆も見せず、能力発動の兆候もなく、ただ突発的な天変地異のように、全能神器が停止した。


 嗚呼、知っている。このふざけた男を、正義しか知らぬ愚か者を、絶対たるその星の名を。だが、なぜここにいるのか。お前は、まだあのアメリカ大陸で眠っているはずではないのか!


「絶対星……アヴルト!」


「強き者よ!弱き者をいたぶるとは、許せぬ!さあ武器を手に取れ弱き者よ!共に、かの悪魔を打倒するぞ!なぜならば!」


 絶対星が手をひと振りするだけで、複製『融滅』を貫いていた全能神器が抜け落ち、本体である漆黒の液状球体に戻っていった。高笑いしながら、呆然とする複製『融滅』の手を取って無理やり戦闘態勢を取らせる。


 背中を叩いて背筋を伸ばさせ、並び立って染黒に対して殺意と敵意を発し始める。大気が震えて、あまりにも強く濃密が過ぎる絶対星の戦闘意思とでもいうべき何かが充満し始めた。恐慌星とはまた違う、純粋な恐怖。


「そう!我は!否、我らは絶対正義であるからだ!」


「……どちらかといえば悪魔はこちらなのだが。まあ、救援は素直にありがたいか!絶対星か、くく、染黒悔怨よ、お前の命運も遂に尽きたか。かつての子に殺されるがいい!」


 急に複製『融滅』が元気になって染黒を煽り始める。いつもの染黒であれば青筋を浮かべてブチ切れているが、今はそんな余裕はない。絶対星など、まず勝ち目はない。


 さて、どうするか。絶対星の能力はゼロと同等レベルであり、発動条件があることを考えると下位互換ではあるのだがその条件が弱点足り得ない。こいつが己の正義を疑うことなどあるものか。そんな日があれば天から槍が降り注ぐ。


「ぬうう……ちぃ、絶対星か……儂のことを覚えておらなんだか。いや、覚えていてこれか……恨まれて当然よの」


「何を言うか、強き者よ。我は貴様を知らぬ!覚える……?貴様と我は初対面であろう?何をとぼけたことを言っておる!」


「………………」


 言葉を、失う。


 絶対星……アヴルトは我が強すぎる。それ故に神の欠片による干渉が記憶にまで行ってしまったのか。ああ、何故だろう。こんなにも悲しい。こんなにも、悔やんでいる。楽園のために、悔やむことなどないはずなのに。


 大事な子供たちだったと、いい加減認めてもいい。認めるべきなのだ。だが、そんな事はできない。だって、できる訳がないではないか。それを認めるということは、楽園が罪だと認めるようなものだ。二人だけの理想郷、終わることのない永遠。その為に人類も、愛した子供も道具に過ぎない。何かを創る者が道具に情を抱くなどあってはならない。


 情を抱く、大事だったと思う。それは失うことを恐れたということ、後悔したということ。道は違えていないのに。


「ええい、邪魔だ!来い、絶対星!なぎ倒してくれる、撃滅してくれる!わからんわからんわからん!わからんのだ!」


「フハハハハハ!よいぞ、強き者よ!悪に堕ちた強き者よ!そのセリフ、そっくりそのまま返してやろう!」


 そうして染黒が先程の数倍の量の刃を展開し、絶対星がより強く気を高める。腰だめに構え、拳を溜め……


「どうしたんですか染黒さん!」


 桃色の炎とかいう意味のわからない物体が染黒と絶対星、複製『融滅』たちを分断した。不思議と触れることを躊躇ってしまい、動けない。うねうねと意思を持っているかのように動くその炎は、染黒を守るように包み込んだ。


 その場にいた全員が、声のした方を見た。上空に女の姿、両手首とかかとから今まさに大地を焼いている桃色の炎を噴出し、ジェットのように空を飛んでいる。


「神梅雨……ちゃん……?」


「二対一とか卑怯ですよそこのあなた!怒りましたよ!」


 神梅雨がむむむっと力を込めると背中から純白の翼が生えた。四枚のそれは本来翼にあるはずの支柱である骨がなく、見るだけで母の腕の中のような安らぎと安心感を覚える。


 炎を噴出しているのは、慈炎符・プロメテウス。神話において人に炎を与えた慈愛の神の名を冠するその武装は、その神の名に恥じぬ力を持つ。屈するのではなく和解を。滅ぼすのではなく共存を。物理的な力ではなく精神的な慈愛と慈悲で歩み寄る、戦わぬための武装。


 その炎は絶対不可侵であり、あの絶対星ですら触れることを躊躇うほど。意思の力ではどうしようもない、本能に訴える不可侵性を持つ炎は、今そうしているように最硬の壁となる。誰にも侵せぬ、神の領域。


 そして翼は愛符・アフロディテ。天を駆ける翼、魂を震わせる美の化身。消えぬ劣情、止まらぬ北風。


 慈炎符・プロメテウスの炎をジェットのように噴射することで飛行を可能とする神梅雨にその武装は無意味に思える。しかし愛符・アフロディテの真価は飛行ではないのだ。


 初代札の神器の使い手の人に対する怨念を乗り越えた神梅雨が手に入れた二つの武装は、彼女の精神性を。目指す心の在り方を表している。誰も傷付かないようにと願う、彼女自身自覚している根っからの善性と誰かに自分を見て欲しいという認めがたい承認欲求。この二つを表しているのだ。


 慈炎符・プロメテウスは善性の象徴だ。力には力をぶつけるべきというのはこの世界における絶対のルールだが、彼女は戦わない道を選ぶ。その表れが、この桃色の炎だ。


 そして愛符・アフロディテは承認欲求の表れだ。美の女神アフロディテは神話においてその美しさが描かれることが多い。それはあの女神の美しさを多くの者が、見た事のない人間ですら認めているということである。少なくとも神梅雨はそう解釈した。見てもらいたいという欲求を持つ者にとってアフロディテは目指すべき最終地点なのである。


 その能力は感覚誘導。視覚、聴覚、嗅覚、反射神経、無自覚のうちの行動。全てを翼に誘導する。宙を駆ける翼は儚くも確かな美しさがあり、“意識せずとも意識してしまう”。真なる美とは、そういうものだ。例外はない。


 この二つの能力は、確かに弱い。四凶符・饕餮と四凶符・檮杌と比べると……否、比べるのも馬鹿らしくなるほどだ。だがそれは強さの定義を敵の撃滅に置いた場合。


 戦わない。傷付けない。殺さない。共存する。戦わずにすむ方法を模索する場合、彼女の強さは四凶符に勝るとも劣らない。和解のために、わかりあうために。表出した善性と承認欲求を用いて、誰もが諦めたその道を歩む。


「ほう……ほう、ほう!このようなことがあるのか……正義以外の何者かが我の動きを止めるとは!我が感覚を奪うとは!フハハハハハ!名乗れぃ強き者よ!貴様もまた正義か!」


「正義だか名義だか知りませんが……私を見なさい騎士風のそこのあなた!私はここにいる、私!それだけです!」


 介入者である神梅雨と絶対星が突如訳の分からない会話を繰り広げ始め、元々戦闘していた染黒と複製『融滅』が呆気にとられて黙りこくる。見ていることしかできない。こいつらはあまりにも頭がおかしすぎる。


 染黒と複製『融滅』も絶対星がどんな性格かは知っている。染黒は言うまでもなく、複製『融滅』は体内侵食型の屍機を用いて世界崩壊の真実を知る者の記憶を見たからだ。故に絶対星が出現すれば意味不明な論争が始まるだろうことは予測していた。そこについては無問題なのだ。


 だが。


 神梅雨はこんなに頭がおかしいキャラだったか?


 行動も言動もやかましいが頭は正常だったはずだ。多少ぶっ飛んだところはあったがそこまでじゃなく、奇人であっても変人ではない。それが彼女だったはずなのだが……


 今の彼女は完璧な承認欲求モンスター。とにかく“私”が中心で、自分を見てもらうことしか考えていない。


「お前の仕業か……?『融滅』よ……」


「いや、知らナい……本当に知ラない……何これ……怖……」


 二人の論争は更にヒートアップしている。いや、相手のことなど見ずに自分の欲求と思想を言い合っているだけのこの状況は論争と言えるのだろうか。


「ぬうう……中々強情だな強き者よ!名を聞かせよ!」


「私は神梅雨幸幸です!気軽に幸幸って呼んでください!」


「なるほど、幸幸よ!どうやらこのまま続けても無駄に時が流れるだけのようだ……どうだ、拳で決着を付けぬか!」


「いいえ、私はもう戦わないと決めたのです!私を見るのです、そうすれば争いをする必要などない!」


「確かに貴様は美しいがそうはならんだろう!そのようなことが可能なのは我のみ!なぜならば、そう!我が絶対正義であるからだ!フハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」


「それは私にも言えますよ……私の美しさは絶対ですから!」


「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」


 段々楽しくなってきたのだろう、お互い笑顔を浮かべながら独自の思想と理念を展開している。最適な表現を探すならば頭の中を開けっ放しにしている、だろうか。誰が相手だろうと“己を語る”行為は楽しいものだ。


 完全に楽しんでいる絶対星と神梅雨の傍で、染黒と複製『融滅』が目を見合わせて頷く。先程までの殺意はどこへやら、気まずい空間を生き延びるために結託する者特有のオーラを出しながら最大限空気になることに徹する。


「「いつ終わるのかなあ……」」


 二人の主張する声が荒野に響き続ける。


 ――――――


「これは黄金……そしてこっちが光の神器!」


「眩しいもんばっか使いやがって嫌味かこの野郎綺麗だなちくしょう!ところで黄金ってなんなんだ!?」


「まさかそこまでとは……」


 春馬と壱馬は一進一退の絶妙なバランスで構成された攻防を続けていた。壱馬が戦蓄神器の中に蓄積されている無数の神器の力で春馬を攻め立て、高い攻撃力で春馬がそれを迎撃。隙が生まれれば春馬が接近し殴り合い、壱馬が撤退し神器を展開……その繰り返し。


 戦意はあっても殺意や敵意といった物騒な感情はないため、他の戦場と違い楽しむための戦闘をしているのだ。その歪さがこの戦場を生んでいる。楽しむため、という部分に限定すれば絶対星と神梅雨もそうなのだが。


 世界崩壊の真実を突き付けられた春馬は混乱し、精神状態がぐちゃぐちゃになった。それを多少強引に、しかし春馬に最も合った方法で解消させようとした結果、この戦闘となったのだ。別に壱馬も春馬も戦闘大好きな戦闘狂というわけではないが、戦闘はいい運動になる。特に春馬のように何も考えず戦うタイプにとってはストレス発散、気分転換に最適。


「まあいいか!おっしゃ調子上げてくぜ壱馬!いい感じに受け止めろよ!らりーってやつだ!合ってる!?らりー!」


「ははっまあ合ってるよ!さあ来い!ラリーはしないけど!」


「しろよ!」


 旧友、否、親友。軽快に言葉を交わしながら、今この一瞬を楽しむことに全力をかける。そこに一切の疑問も加減もない。刹那的な快楽さえ得られればそれでいいのだ。


 優しく笑う壱馬に向けて拳を振りかぶる。にっと悪ガキのように笑った春馬が大地を割りながら踏み込んだ。

ご拝読いただきありがとうございました。

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