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Last reverse  作者: 螺鈿
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Episode 15 Origin, End and Dissolution【1】

「絶ち捌きが……サすがは地平最強!」


「たかが研究者崩れが私に敵うと思うなよ死体モドキが!」


「一文に罵倒が二回含まれるだと!?」


 この時空における恐慌星の消滅が確認された直後、ゼロと『融滅』の対峙する戦場にも大きな動きがあった。特殊な分子構造から対破壊性能の高い絶ち捌きが、ゼロの猛攻を前にして遂に壊れた。とはいえ“あの”ゼロの攻撃を数分とはいえ防御したことを賞賛する方が現実的なのだが。


 骨格、血管、両眼、声帯、etc……ゼロの偽りの肉体は無数の神器により覆われている。言うなれば神器ドーピング、攻撃手段の多さ、純粋な膂力においてゼロは他の追随を許さない。たかが二振りの刃では到底追い付けない。


 (困ったな……αたちを出すか?この子の特性的にηが最適かな……いや、誰にせよ滅ぶか。はは、チートめ)


『融滅』はそもそも対単体戦闘には適していないのだ。軍勢を用いた多対多こそが彼女の真骨頂、かつて人の身でありながら『楽爆』を撃退できたのは奇跡に等しい偉業だ。


「さて、どウするか……少し話し合わないかイゼロ。アチシはこのマまじゃ滅んでしまイそうだ」


「滅ぼすためにやってるんだ、たわけ。死ぬことなど、滅ぶことなど覚悟の上だろう?」


「まあソう言わずに……焦るのはわカるけど、ね?大丈夫だよゼロ……隷属星たチの相手はEvil angelがしテる」


「…………なぜ知っているのか……はあ、いいだろう、話し合いとやらをしてやろう。数分だけだぞ」


 隷属星は無数の屍機を用いて戦場全体を常に監視している。どこで何が起きているかなど、手に取るようにわかっている。ゼロも染黒も、目的などわかっているのだ。


 彼女の隷属星の相手はEvil angelがしているという言葉、これは嘘だ。既に彼らと相対していたEvil angelは撤退している。さすがに絶対星が相手では勝ち目がないのだ。現在の彼らは幻影の神器で作られた実態ある幻と戦っていることだろう。正直絶対星の出現は予想出来なかった。


 今必要なのは、とにかく時間稼ぎ。彼女たちが目覚め介入するまでに可能な限り数を減らすために、ゼロたちは少しばかり強すぎる。あれだ、異常発達した白血球。


「そうダな、君の話がしたいナ、ゼロ。君がイヴの神器だというこトは知っているケれど、君の能力を知りタい」


「まさか、知らんのか?貴様が?私の能力を?」


「やだなアバカにしないでくレよ。知ってるに決まッてるじゃなイか。わかってる?アチシの時間稼ギだよ、これ?」


「その割りには挑発的だな、貴様……」


 苛立った様子のゼロがガギリと義腕の神器を動かし、『融滅』が両手を上げて無力をアピールする。どうもやりにくい死の研究者に、ため息を吐きながらその質問に答える。


「私は、真に神器だ。人なくては、使い手なくては存在しえない。私はイヴの思う竜で在り続ける」


「イヴの中の竜、なんでもありだな……人型になったり全身神器ドーピングしたり。むちゃくちゃだ」


「その通りだ、彼女の中での竜は“なんでもできる”。財宝を守り勇者を退け、そして……どうしようもなく、無敵。そんな子供のような定義が、彼女の中にはある」


 へえ……知ってるけど、と煽っているようにしか聞こえないセリフを言おうとした時、『融滅』の脳を雷光のような疑問が焼き尽くす。嫌な予感とかいう次元ではない、そもそもの想定が崩れ去る、前提が破壊されるような。


 どうしようもなく、無敵。


 ゼロは確かにそう言った。ならば今までどれだけ攻撃しても傷付かなかったのは全身神器ドーピングによる身体機能向上の恩恵ではなく、元々のゼロの能力?どれだけ攻撃を重ねても、この存在には傷一つ付かないというのか!?


「君さぁ、チートも程々にシたまえよ」


「勝手に挑んできたのは貴様だろうが」


「しかしなんといウかまあ……想像したまエよ、戦場で皆鎧きてガチャガチャやってんノに一人だけ素っ裸で無双してるやつガいるんだよ?訳が分からなイよ吐き気してきタ」


「知らん、文句があるならイヴに言え」


「絶対許さナいからなー!イヴーーーー!」


「貴様私の前でイヴの悪口を言うとは……いい度胸だ、五度滅ぼしても尚飽き足らぬ暴言。ぶち殺してやる」


「機嫌悪い時のアチシ以上に理不尽」


 閃光。破壊。火花。


 義腕の神器による大規模範囲破壊と同時に尾の神器が神経性の腐食毒を放出、呪いの神器による呪詛とゼロ本体の貫手が『融滅』を襲った。瞬きの一瞬、破壊の極地。


 対して『融滅』はストックしてある数百万の死体のうち三千を一気に使用することでそれらを回避、身を翻しながら反撃として死体の濁流を発生させるが背面への回し蹴りで全て破壊され、一秒にも満たぬ攻防で一万の死体を失った。この攻防ももう五度目、更に激しいのを数度。必死に蓄積してきた死体を、この短時間で十万は失った。


 獣のような眼光、冷めきった研究者の瞳。


 交錯し、途切れ、再び交錯。糸と糸が繋がり解れるような儚い攻防、綱渡りのような不死の命の天秤。


 言葉は交わさない、否、交わせない。だってそうだろう、そんな余裕がどこにある?


 腕が、尾が、王冠が。脚が、針が、眼が。ゼロの全存在を賭けて“死”が訪れる。地平最大最強の戦士が、一部の隙もなく油断もなく、ただ殺すために動く。もはや、恐怖。


「絶ち捌き」


「義腕の神器」


 再度構築した絶ち捌きでそれを受け止める。義腕の神器に仕込まれた無数の刃、一つ一つが名匠の打った刀にも匹敵するそれらを一撃で破壊するほどの勢いで叩き付けられる。絶ち捌きも当然大破、今までゼロは全力を出していなかった。


 (消え……)


 鋼鉄の破片が宙を舞い、ゼロの姿が掻き消える。


 上か、後ろ、下……否!


「地下か!」


 遅れて、破壊音。この距離にありながら地表破壊による大気振動、音の壁が認識に遅れを取った。


 足を掴まれ、引きずり込まれる。地の底へ、奈落の海へ。閃光のような一瞬の判断で足を切断し即座に飛び退く。刹那、暴虐。嵐。“下方からのエネルギーでクレーターが生まれる”。“人の体が大地の強度を圧倒する”。


 這い出る、悪魔が。四腕の悪魔だ、竜の人形だ。おお、なんと恐ろしい終末の体現者よ!


 ギチギチギチギチという金属の“捻れる”音が鼓膜を揺らし地を穿つ。掬い上げるような動作で大地が持ち上がる。


 それに巻き込まれた『融滅』が、空中で体勢を整える。絶ち捌きで体の前面をカバー、ロケットのような射出機構の装置に死体をセットし完全なる防御姿勢をとる。


「え……ああ……うあ……?」


 背面に衝撃、遅れて前面からガラスの割れるような儚い音と、人間だった頃ならば即死のエネルギーが背後へ向かって指向性を持って襲い来る。一瞬だけ視界で捉えれば、それは義腕の神器二本による定点打撃。


 殴る際に生じる風圧で『融滅』の肉体を大地に叩き付け、遅れて本命の打撃を与えたのだ。視界の崩壊と共に、己の肉体を中心にクレーターが生まれるのを感じる。カンレスの観察をしていて身に付けた衝撃を受け流す技術がなければここで滅んでいた。いや、あっても、この威力。


 脳に損傷、言語器官破裂、全感覚緊急切断、四肢欠損率60%、五感麻痺、神経系崩壊。


 動けない。


「私の全力解放……ではないがまあ70%解放。よくぞ耐えきった。これは新記録だぞ……喜べ、二秒だ」


 上出来。


 二秒稼げれば上出来だ。こちらにはまだ彼がいる。『楽爆』ともう一つの切り札、百の神器を内包する異形の半生命。絶対星から撤退しこちらに向かっている、二秒もあれば辿り着ける。十二分に間に合う!


 ゼロが手刀を構え、『融滅』の心臓を狙う。ゼロは心臓を破壊することで屍肉の神器の能力を無効化出来ることを知らぬ。だがそれとは無関係に、ゼロは心臓という肉体の中心を貫くことで全身を破壊できる。その姿は、あまりにも容赦がない。


 その攻撃を、『楽爆』で防いだ。


 ゼロにとって主人の息子である『楽爆』の出現に、ゼロの動きが一瞬だけ止まる。そしてその一瞬で……


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


『融滅』の切り札が現れる。


「……………………次から、次へと」


 ――――――


「はは、本体は苦戦してルなあ……いやこっちモだけど」


「独り言とは余裕だの、『融滅』」


「イや、現実逃避さ。まソの余裕があるだけマシだけド」


『融滅』本体がゼロと戦闘を繰り広げる中、複製された『融滅』は染黒とある程度互角の戦闘をしていた。


 本体から譲り受けた五セットの絶ち捌きと五十万の死体、そして己はあくまで複製であるという自意識による滅びを厭わぬ特攻攻撃。当初の予定以上にいい戦いができていた。最初はもっと追い詰められると予想していたのだが。


 その証拠に、現実逃避できている。


 複製は『融滅』本体の精神性そのものまで完璧にコピーすることはできない。この『融滅』は、楽観的且つ冷静な本体とは少し違い、多少後ろ向きでネガティブだ。


「それさあ……ウザいからやめてくんない?」


「何を言う。今の儂の唯一の攻撃手段じゃぞ」


 全能神器の真の姿、宙に浮く漆黒の液状球体。望んだ能力を得るという能力だが、染黒はこれを見える形で使用していない。使用しなくても勝てるという慢心ではなく、これこそが最適解であると理解しているが故の行動だ。


 全能神器は初期形態では漆黒の液状球体の一部を形状変化させて遠距離から攻撃するぐらいしか攻撃手段がない。要するに戦闘に不向きで弱いのだ。


 だが、複製『融滅』にはこれが最適解。


 そもそも『融滅』は死体の軍勢によるゴリ押しが主な戦法であり、遠距離から集中砲火を浴びせられれば為す術なく敗北する。Evil angel等の例外はあるが、あんな化け物がそうそういるはずもなし、実際この複製体は死体と絶ち捌きを使って全能神器の攻撃を撃ち落とすのに精一杯で、攻撃に転じることができていない。このまま、滅ぼす。


 上空から漆黒の刃が降り注ぎ、絶ち捌きでそれを弾く。接近のために踏み出すが、前方からの刃がそれを邪魔をする。


 イラつきながら、死体の壁で前方を防いで無理やり前進。幾多の戦場を越えて経験を積んだ『融滅』本体と違って複製体は素人、戦闘において最も大事なものがなにかわかっていない。焦りは、冷静さを失うことは。敗北に直結する。


「ぐぶ……」


 上空への対処は怠っていなかった。前方も、貫かれないように死体を何重にも重ねていた。だが貫かれた。数本の漆黒の刃が脳と心臓、膵臓のある位置を貫いたのだ。人間だった頃の名残か、口から血塊を吐き出す。


 びちゃりと地に落ちた血塊が体を濡らし、足元がふらつく。死体の制御が困難になり、壁が崩れた。


「なんで……?関係ない、はずなのに……」


「全能神器……ガワを変えずとも能力は変わるさ。ブースト……推進の神器の能力を与え、停止の神器の能力を付与した。お前の行動、能力は儂が停止させたよ」


 なんという応用力。


 これが、この汎用性が、適応・変化能力こそが全能神器の強みなのだ。外見が変わらずとも能力を変えることはできるということを、当たり前のように忘れていた。望んだ能力になるだけで、外見を変える必要はないのだから。


 染黒はカモフラージュのために杖の神器を外見ごと変化させていただけであり、これが本来の使い方なのか。


「ああ、うっザい……嫌いだな、そういウの……」


 本当に腹立たしい。そして動けないことが何よりもどかしく、殺意にも似た怒りと焦燥が込み上げる。


 目の前の小柄な女、染黒悔怨は病んだように暗い笑みを浮かべている。嫌らしい、うざい、気持ち悪い……なんでそんな顔ができるのかわからない、本当に同じ元人間か?


 思考回路がぐちゃぐちゃだ。マイナスな感情がどこまでも溢れ続けて止まらない。たかが行動と能力を停止させられているだけなのにここまでとは。本体に情報を送らなくてはならない。複製の技術はまだまだ改良の余地あり、特に感情面と不死性において。不完全がすぎるぞエセ研究者。


「くく、怖い怖い……そんな目で見ないでおくれ」


「誰のせいだと思ってるんだい……うざったらしいよ君は本当に吐き気がする!トドメを刺すならさっさとしろ!」


「お前、そんなに攻撃的な性格だったか?」


 衝撃が大きいのか、染黒が少し素の出た対応をする。


 しかし動きに迷いはなく、数百、数千の漆黒の刃が複製『融滅』に狙いを定める。軌道は全てが急所を狙い、数ミリのズレもない。複製『融滅』はここで滅びるのだ。


「では、さらばだ『融滅』。呆気ない終わりだったな」


 そうして刃が降り注ぎ……


「我こそはッ!正義なりッ!」


 止まった。

ご拝読いただきありがとうございました。

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