Episode 14 遘√r諢帙@縺ヲ遘√r隕九※繧【1】
黒の兵団・第三隊:アーサー王、アキレウス、シモ・ヘイヘ。現在サファイア・ヴァイオレット及び桃月遥と交戦中。
黒の兵団・第二隊:養由基、安倍晴明、ミノタウロス。カンレス・ヴァルヴォドムと交戦、消滅確認。
黒の兵団・第一隊:ケイローン、九尾の狐、スキュラ、フェンリル。エラー発生、永久消滅を確認。
「……第一隊永久消滅?有り得ない……なにがあったのです。というかケイローン様が!?他はいいが……人じゃないし……ケイローンは失いたくなかったですね……うう、半人半馬の賢者よ……どうか安らかにお眠りください……」
染黒の介入により無理やり黒の兵団を召喚させられたウタマは、まだ全能神器の影響で腕輪の神器を十全に使う権限を取り戻せていなかった。今彼女にできるのはレベル4神器の恩恵である、上昇した身体能力を振りかざすこと。しかしその程度では能力を活用してくる神器使いには到底勝てない。今は身を潜めて権限が戻るのを待つしかない。
そんな彼女が腕輪の神器を使って唯一できるのが黒の兵団の現状確認だ。並行世界の内側にいる第四〜第二十隊にはなんの動きもなし、顕現している兵団の確認に徹する。
第三隊はアーサー王、アキレウス、シモ・ヘイヘで構成されたバランスのいい部隊だ。アキレウスが敵を翻弄しながらシモ・ヘイヘがちょっかいを出し、アーサー王の聖剣で敵を仕留める。その性質上選択肢の多さが強みだ。攻撃のみならず防御・生存にも適しており、それ故に生き残っている唯一の部隊。まだ戦闘は継続してくれるだろう。
第二隊、消滅。安倍晴明がサポートに回り、遠近両方の高火力攻撃で敵を仕留めるのが主な戦闘スタイルで、養由基の強弓は汎用性が高く最終手段としてミノタウロスの迷宮に閉じ込めるという手段もある。超攻撃的部隊だ。ただ根っからの戦闘民族である彼らは三人が同時に己の持てる最大火力の攻撃をすることは矜恃が許さず、切り札を同時に放つことがない。彼らの数少ない弱点と言えるだろう。
ウタマは知らないことだが、実際彼らは安倍晴明が封印術を発動しようとしていた時、養由基の切り札を発動しなかった。アレを使っていればカンレスの隙ももう少し作れただろうに、だ。弟を殺されても、彼らは誇りのある戦士だった。
そして第一隊。ケイローンと九尾の狐が頭脳担当、他二名……いや、二匹が戦闘担当の特殊な部隊だ。短期決戦を何より得意としており、獣の本能を全開にして戦う。黒の兵団解放時に即殺されたのがスキュラ。だがまあ元々ギリシャの英雄の副産物的存在だったスキュラの生死は割とどうでもよかったりする。だが気にかかるのは、永久消滅という文字列だ。恐らく二度と並行世界で蘇ることはない、ということなのだろうが……一体なぜ、誰がそんなことを?
「わからない……情報がなさすぎますね」
手で顔を覆い俯く。今この戦場に安全な場所はなく、常に動き回らねばならないというのに同じ場所に留まりすぎた。頬を叩いて立ち上がり、足に力を込めて走り出した。
どこで何が起こっているのかまるでわからない。アスモデウス本隊はどこだ?今誰と交戦している?それともまだ行進中か、はたまた私という指揮官を失って停滞中か……エスティオンの誰かを殺すぐらいしてほしいが、まあ損傷0でも及第点だろう。早く発見して今後の方針を定めねば。
「ん……アレは、壱馬殿?皐月春馬と……何かあるのか?エスティオンを滅ぼすなら最上第九席からでは……いやまあ、いいか。壱馬殿には壱馬殿の考えがありますからね」
視界の端で、戦闘を繰り広げる皐月春馬と越冬壱馬がチラついた。何故か両者共に笑顔を浮かべており、それは殺意をぶつけ合う戦闘というより長年会えなかった友人との対話のようにも思えたが気にすることでもない。元々は越冬壱馬抜きでエスティオンと戦る気だったのだ、邪魔さえされなければ何をされても痛くはない。邪魔さえされなければ。
岩陰に隠れ少し休む。緊急事態も起こりやすい今はとにかく体力の温存が大事。少し冷めた脳で再び現状整理と、もう一度自分がするべきこと、できることを確認する。
アスモデウス本隊と合流し今後の方針を考える。よくわからない巨大生物の出現等イレギュラーの多いこの戦場で迂闊には動けない。だが場所がわからない以上闇雲に動き回るのもまた無意味になる可能性がある……か。さて。
第一隊永久消滅の原因を探るか?いやしかし、周囲にはその原因となった存在がいる可能性が高い。戦闘能力のない今は向かうのは避けるべき、だな。とすると……どうする?
「はあ……単独行動なんてするんじゃなかったですね。染黒を見つけて歯止めが聞かなかった……反省、反省」
ウタマは冷静な人物だが、染黒に関しては積極的かつ盲目的になる。考えが及ばなくなるのだ。染黒を認識してから、気付けば彼女の元へ全力で走ってしまっていた。
本当にどうする。とりあえずアスモデウス本隊の最終地点まで向かうか。エスティオン時代の戦場での経験が生きて、どれだけ混乱した戦場でも求める座標がわかる。これだけは、これだけはエスティオンに感謝だ。アスモデウスでは事務作業ばかりで久しく前線に出れていない。
今後の行動が決まれば、即行動。かなり離れてしまっている、最後に確認したアスモデウス本隊の座標に向かって走り始めた。周囲を入念に、全力で確認しながら。
そうしてウタマが走り去った数秒後、彼女が元いた地点は空間ごと削れて“なくなった”。その領域には元から何もなく、またこれからも有り得てはならない。原初の無、存在しないことが証明される、有り得ざる虚数空間と化したのだ。
それを為した者の名は神梅雨幸幸。札の神器の使い手、八種の武装を使いこなす戦士であったが、今は存在しないはずの残り四種の武装のうちの一つ、『四凶符・饕餮』を用いて恐慌星と戦闘を繰り広げている。逃げ回る恐慌星を追いかけながら戦場全体を転々として、“無”をもたらしている。
「遘√r諢帙@縺ヲ遘√r隕九※繧」
そう、魂の奥底から叫びながら。
四凶符・饕餮は存在そのものがイレギュラーな武装だ。初代札の神器の使い手の内側から溢れ続ける怨念が肥大化して『器』たる神器を侵食した結果生まれた一種のバグ。それ故に彼以外の存在が使うことはできないはずであり、今こうして神梅雨が使えていることも本来ならば“有り得ない”。
だが神梅雨の中に渦巻く泥水の濁流、汚泥の湖のような感情が初代の残した怨念に触れた。それこそがこの事態を引き起こした原因だ。エスティオンの犯した罪の一つである。
「なんて言ってるのさ、君は!まともに……喋れよ!」
「縺?k縺輔>鮟吶l豁サ縺ュ」
彼女の言葉を聞き取ることはできない。そもそも存在証明が不可能な武装を纏っている時点で彼女はいつ世界から弾き出されてもおかしくないのだ。神器の生み出せる最大限のズレこそが今の彼女であり、本質的に異なる存在である彼女の行動、言動すら本来は認識できないのだ。
その武装の外見は視認する存在によって変わる。その者にとって最も恐ろしくおぞましい、暴虐の化身に見える。
恐慌星にとって今の彼女は、漆黒い。不規則に繋ぎ合わされた装甲が、しかし丁寧に組み合わさっている。黒塗りの甲冑を分解し繋ぎ合わせたような外見だ。頭部を覆う装甲は隙間から紅の眼光が覗いていて、少なくとも安らぎをもたらすような気配も光も、何ひとつとしてない。
そんな外見でありながら、その装甲が“蠢いている”。それ自体が一つの生命体のようで、腕も足も背中の角のような装甲も、触手のように腰から垂れ下がっている装甲も芋虫やムカデのように蠢く。関節がないかのようで、さながら軟体動物のように。全てを喰らい尽くさんと蠢くのだ。
触れてはならぬ。飲み込まれる。
光輪の魔神器の能力を発動し、神梅雨から数十m離れた位置で拳と足を振るう。相手のいない体術を披露する。
光輪の魔神器の能力は『行動延長の召喚』。装備者である恐慌星の行動の延長を召喚する。
到底命中することなどないはずの位置から、恐慌星の攻撃が神梅雨に命中する。実体のない打撃や技が神梅雨の歪な肉体を揺らして吹き飛ばし、しかし気付けば“そこにある”。
「いくら距離取っても意味ないじゃないか、くそ!」
離れ、攻撃し、近付かれ、離れ、攻撃し、近付かれ。ただひたすらにその繰り返しだ。
ウタマは知らない。この存在、本来有り得ないはずのこの存在こそが彼女の誇る黒の兵団第一隊を永久消滅させた犯人なのだと。神獣と魔獣、半人半馬。東洋の一国に名を残す大妖怪から構成された部隊を永久消滅させたのだと。
その光景は、今思い出すだけでも背筋の凍るようなものだった。そこにいるだけで恐怖を与え続ける恐慌星がそのように恐れてしまうとは何とも皮肉な話だ。
時は僅かに遡る。
――――――
「むっ……おかしいなっ……さっきはっおれがっ!」
「貊??繧肴ュサ縺ュ貊??縺輔l」
その戦場は大混乱していて、収集のつかないことになっていた。元々戦闘を繰り広げていた恐慌星と神梅雨。そこに染黒の介入により横槍を入れる形で参戦した黒の兵団。それだけで随分とごちゃついた戦場となるが、その上黒の兵団は神梅雨と恐慌星の強さに瞬時に気付き、養由基率いる第二隊以上の判断速度で自ら正体を開示。本来の力を100%引き出せるようになり、戦場はもはや意味のわからないことになっていた。
妖術が妖しく輝いたかと思えば数十本の矢が同時に地に刺さり、理不尽に全てを喰らい尽くす触手が空間ごと攻撃を削り視認できない暴食の空間断裂現象がその場の全てを狙う。蜘蛛の強靭な糸と狼の牙が大地を穿ち神獣の体躯を紅蓮の装甲の悪鬼が殴り吹き飛ばす。
一つ一つの攻撃が周囲に及ぼす影響が大きく、また見た目も派手。本人たちですら完全な把握はできていなかっただろう。恐らくはエスティオン最大の器用さを誇る愛蘭霞でさえそのような芸当は不可能だったと断言できる。
だが、すぐに終わりは来た。
「豁サ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ鬯ア髯カ縺励>」
触手を二本までしか使っていなかった。空間断裂は多くても同時に五本。だが、それは無意識下に神梅雨が手加減していただけだったのだ。
視界を触手が埋め尽くした。空間断裂の多重同時発生によりそれはもはや視認できる領域にまで至り、その一瞬に限り恐慌星の脳は限界を越えた。無意識に能力を全力解放し、僅かに残っていた神梅雨の人間としての脳に本能的な恐怖を与えることができたのも関係しているだろう。
そう、一瞬。瞬き一度にすら満たないコンマ一秒の十分の一程度の時間のうちに、第一隊は存在ごと“削り取られてなくなった”。生き残ったのは恐慌星だけだった。
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