Episode 11 dance on the battlefield【2】
もう一つの行方不明になった神の欠片は、『楽爆』に復讐を誓っていた『融滅』が回収している。あれほどの化け物を殺すのだ、出せる力には全て手を出している。命核神器と名前を変えたそれの能力は、瞬脚神器同様に不明。現在位置も不明だが恐らくはこの戦場のどこかにあるはずだ。
どんな能力にせよ神の欠片は切り札。いつ切ってきてもおかしくないため、彼女には全力で警戒せねばならない。
「……ふう、すまないね長くなって。君に語るべきことはこれで全てだ。……どうする?一回戦るかい?」
「なんでそうなるんだよ」
「気分転換も兼ねて、さ。僕も話し続けて疲れた。少し体を動かして目を覚ましたいんだがね?」
先程までとの静かで暗い雰囲気を消し飛ばすように明るい声音で壱馬が言う。慣れない明るい笑顔を浮かべているところを見るに、彼なりに最大限気を遣っているのだろう。
ふ、と吐息を漏らすように優しく笑い、春馬は剛腕神器を表出させた。黒色の炎が大気を揺らす。
「……そうだな、戦るか。お前の強さ、見てやるよ」
「それはこっちのセリフじゃないかな?」
激突する。
――――――
「……………………………………」
「なんかッ……!喋ったらどうなんですの!?」
サファイアと桃月は染黒が腕輪の神器を侵食したことで出現した黒の兵団三人と戦闘を繰り広げていた。かつて存在していた実在の人物、はたまた神話の人物、怪物。そんなものの力を持つ黒の兵団は彼女たちの予想よりも強かった。
目の前にいるのは銃使いと槍使いと剣使い。どれも技の練度が高く筋力もあり銃は百発百中でしかも着弾地点でバズーカ砲かと錯覚するほど強く爆発する。そして彼らは元々一つだったのではないかというほど連携力が高い。
確かに単純な力で言えばサファイアたちの方が圧倒的に上だ。どれをとっても劣る部分はない。だが黒の兵団の真骨頂は連携と、それぞれの武器が持つ特性。例えるならば銃弾の爆発。恐らくは剣と槍にも何らかの特性がある。
「予想外ですわね……しかし、舐めないでくださいまし!」
黒の兵団は知らない。彼女たちは単独での強さもさることながら、連携において最も大きくその力を発揮することを。単なる二倍三倍の掛け算ではなく、二乗三乗にまでその力が跳ね上がるのだということを。
視線を交わすことなく連携の攻撃を仕掛ける。桃月の操作権限はサファイアにあるが故に打ち合わせなど必要ない。戦場において言葉の代わりとなるコミュニケーションである視線の交錯など、彼女らにとってはただの無駄でしかない!
(考えるんですわ……こいつらの正体を……)
サファイアが悪魔の右腕を振るうと同時に銃使いが発砲、左腕で受け止めるが回転しながら直進する銃弾はサファイアの小柄な体を仰け反らせ、爆発が追い打ちをかけた。
一瞬の間もおかず、煙の中から桃月が突進する。剣使いと槍使いが左右から切断せんと彼女の体を狙い、銃使いも照準を合わせる。だが大柄な桃月の背後から放たれた鞭撃により三人の武器が弾かれ無防備な胴体を晒す。悪魔の力は変幻自在、腕を鞭に変えることなど容易い。
銃使いは重心を後方にずらしながら後ずさり、後ろに倒れ込むようにして、桃月の剛腕からの追撃を回避した。大気が引き裂かれ悲鳴をあげる。直撃していないというのに銃使いの胴体が地面に叩き付けられ、小さなクレーターを作る。
刹那、三者同時の踏み込み。小石が宙に舞った。剣と槍使いは弾かれた勢いそのままに武器を一回転させ下方から桃月の首を狙い、桃月は銃使いにとどめを刺さんとした。即座に目標を切り替え、両腕で武器を弾く。不快な、硬質な物がぶつかった時特有の音を立てながら遠間になる。
全てが一瞬の出来事。思考すら、挟んではいない。
(こいつらは何者……?黒の兵団ということは元のないオリジナル……いいえ、兵団が銃なんて使うもんですか。となればこいつらは……寄せ集め?何か引っかかる……)
思考する。こんな不可思議な存在はまず間違いなく“正しい存在”ではない。ではこいつらは神器によって喚び出されたと考えていいだろう。だとするならば何の神器で、こいつらはなんの能力によって召喚されたのか……
黒の兵団は一様に不自然な漆黒に包まれているが、外見的に同一ではない。銃使いはかなり小柄で毛皮のような何かを着用している。槍使いは軽装、全体的に露出が多く特に脚部の守りが薄い。だが足首から下だけは厳重に防御されている……剣使いはがっしりした体躯でマントを羽織っている。
剣を振るためだけに鍛え上げられたかのような肉体だ。そしてマントも相まってか凄まじい威圧感、威厳を感じる。
思考の外から、風切り音。ほぼ勘だけで背後に攻撃した。
気付けば槍使いが背後に回っており、その刃をサファイアに突き立てていた。剣使いと銃使いも動き出し、桃月を狙う。先程の攻防で桃月の方が強いと判断したか。
だがこの槍使い、ただ速いだけか。ならばすぐにでも打ち倒し桃月と共に他二名の相手をしよう。
そう思い足だけで振り返る。全身のバネを弾ませて回転するようにしながら槍使いを爪で引き裂いた。軽く鉄のような金属を壊した感触はあったが、肉にまでは届かない。
小さく舌打ちし、追撃を放とうとしたその刹那。
「………………は?」
それは同時に起こった。槍使いの槍が悪魔の両腕を容易く切断し、また剣使いの剣撃が桃月の四肢を断ち切ったのだ。銃使いの放った弾丸がサファイアと桃月に直撃し爆発。連射された弾丸は局所的な絨毯爆撃となり二人を包み込んだ。
おかしい。黒の兵団は神器のはず。だというのに何故神器である悪魔の両腕と契約の四肢を切り裂ける?そこに何かの鍵があるはずだ。こいつらの正体に関する鍵が……
切断面が焼かれ切る前に再契約し両腕と四肢を再生させる。それにより全身を覆い、火傷の重傷を負うことは避ける。神器に拒絶された炎はすぐに消えた。
神器を切り裂く神器……どういうことだ?そんなものは『融滅』の言葉を信じるならば五柱の他にないはず……それか神器を破壊する能力を持った神器?いや、そんな能力を持つ神器が違う形状で二つもあるはずがない……だとするならば黒の兵団全体が持つ能力?だが銃弾から発生した爆炎は神器で防御していれば肉体に届くことはなくすぐに消えた……
軽装な割に足首から下を守る槍使い、王のような威厳を放つ剣使い……それらは神器を切り裂き銃弾は爆発、毛皮を身に纏う。百発百中で連射も可能……
「どこかで聞いた特徴ばっかりですわね?」
剣使いが大きく踏み込みながら突進した。その剣撃は二人の神器を狙っており、その後ろでは槍使いが突進の構えをとり銃使いが二人の心臓に狙いを定めていた。
桃月が前に出て、迎撃。サファイアの思考の時間を稼ぐ。神器で受ければ切断されるため剣には触れず腹を殴る。その大柄な肉体を子供でも投げ飛ばすように吹き飛ばし銃使いに激突させ、一瞬の隙をついて槍使いも吹き飛ばした。
槍使いは吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、視界から消えるほどの低姿勢になると同時に桃月に突進。銃使いも剣使いの下から銃弾を放ち桃月の顔面を狙った。
銃弾は契約の腕により叩き落とし、爆炎が剣使いと銃使いを巻き込んだ。槍使いはフェイントを挟みながら一秒の間に数回の槍撃、桃月の両腕は即座に切り飛ばされた。
「目にも止まらぬ瞬足、卓越した槍術……」
契約し両腕を再生、そちらに意識を集中させた一瞬の隙に腹を強く蹴り大きく距離を離す。立ち上がっていた剣使いの剣を紙一重で躱しお返しの右ストレートを顔面に叩き込んだ。が剣使いはビクともせず、そのまま剣を振り続ける。思えば爆炎に包まれたというのに動きに変化がない。
「ダメージを受けない肉体、神器を切り裂く刃……」
銃使いが剣使いの背後から狙いを定め、桃月の頭部を狙撃。咄嗟に契約により頭を硬化する。あとコンマ一秒遅れていれば死んでいた。恐るべし照準速度と精度。
銃弾を受け仰け反った桃月に槍使いと剣使いが同時に攻撃し、またも四肢を切り裂いた。契約により再生、だがそろそろ再生もできなくなる。これ以上は、寿命が尽きる。まだ数十年は残っているだろうが、使える範囲というものがある。桃月の契約は基本的に寿命を差し出さなくては成立しない。それは彼女が他に大事なものを持っていないが故のことではあるが、よく考えれば、否、よく考えなくても無茶苦茶だ。
両腕を振り回し剣と銃使いを攻撃する。大きく吹き飛びまた距離は開いたものの、やはりダメージはない。槍使いも剣使いも同じだ。銃使いはいつの間にかかなり後方に移動しており、近接二人を始末せねば辿り着けそうにない。
「足首から下の防御、王の如き威厳。異常な照準速度と百発百中の精度、毛皮を被った姿……」
ピースの嵌る音がした。
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