表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last reverse  作者: 螺鈿
last reverse〜actors are arranged〜
1/178

第一話 安寧【1】

まずはご挨拶を。螺鈿、と申します。読み方は《らでん》でお願い致します。かっこいいですよね、螺鈿。

さて、この度は拙作を読もう!と思っていただきありがとうございます。私、感動と嬉しさのあまり泣いてしまいそうです。是非とも完結までお付き合いいただけると嬉しいです。

まだまだ新米の身ではございますが、温かい目で見守ってください。毎朝八時投稿でございます。

それでは、本編をどうぞ。

 祈りは届かなかった。彼らが信じたモノは尽く偽りであり、結果として救われる者など誰一人としていなかった。


主砲隊しゅほうたい構え!全弾発射体制ぜんだんはっしゃたいせい!撃てぇ!」


 残酷なまでに美しい崩壊は、彼らの戦いによって訪れた。抑止の壊れた人は留まる所を知らず、ただ己の欲望のために世界すら巻き込み燃やしくす。


「だめです!艦隊かんたいによる主力攻撃全弾命中しゅりょくこうげきぜんだんめいちゅう、しかし損傷はゼロです!撤退を!撤退してください艦長!」


 愛と、欲と、恋と、夢と、例えそれが夢幻に過ぎず、全て泡沫うたかたへとかえるのだと分かっていても止まることはない。


「本国より通達!某国ぼうこくとの同盟を破棄すると同時に遠距離破壊兵器えんきょりはかいへいきの使用を決定、全艦隊はただちに撤退せよ!」


 第一の少女はわかっていたのだろう。だが、全てが遅い。手遅れで、間に合わない。仮に神が意思を持つ慈悲深じひぶかき存在だったとするならば、その慈悲を持って彼が動く前に人という存在を消滅させていただろう。悲劇は始まらぬが最善だ。


「おお……これが我が国の最終兵器。なんという爆裂だ、はは、さすがの魔神獣まじんじゅうも死んだろう!観測手!報告を!」


 だが、神に意思はない。楽園をもたらすと信じた神は、果たして彼らにただ終わりなき絶望を与えた。


「ほ……報告……魔神獣まじんじゅう、損傷ゼロ。傷一つ、ついていません!こ、こんな馬鹿なことが、あるはずが!」


 故に、それを知らぬ第一の少女は願った。どうか、どうか叶うのならば。神の力を持って幸福を。誰も滅びを知らぬ、誰も不幸になることのない安寧あんねいの地を、ここに再び。神のなき世界を、その力をもって。


「ッ!魔神獣まじんじゅう、攻撃体勢!全身に高エネルギー反応、熱収縮開始ねつしゅうしゅくかいし!超遠距離エネルギー波、来ます!」


 静寂せいじゃくと幸福に包まれた少女の、決して叶うはずのない哀れで愚かな願いであった。


「全艦隊撤退!全艦隊撤退!主力艦の防御を最優先に撤退せよ!陸軍に通達を開始!個ではなく全として勝利するのだ!」


 今、紅蓮ぐれんに燃える大地の上に立つは見るも無惨なかつての支配者の姿。圧倒的な空想の力を持って形なき信仰を甘受し続けた神は、顕現けんげんの時を持って形ある支配をした。


「死ぬがいい我が兵たちよ!そして人類に勝利をもたらせ!我らの怒号を持って、栄光ある勝利の皮切りとせよ!」


 世界は幾度となく裏返る。いまや人の支配は終わった。


 彼も、ようやくそれに気付いた。もう止められぬことも、おのれが何を成してしまったのかも。対処するには、抑止するためには、取り戻すためにはどうすればいい?


「エネルギー波収縮……3、2、1、来ます!」


 一つの舞台ぶたいだ。シナリオは、人類史じんるいしにおいて最たる極悪人、最も重い罪を背負う彼が描く。白紙の図式に描かれた自分勝手で“人間らしい”図式を一つずつ描き直していく。


「守れ!逃げろ!あの化け物に必ずや人類の力を見せつけるのだ!ここを最後の地と理解せよ!全艦隊……」


 丁寧に、丁寧に、一つとして間違わぬように。ただ懺悔ざんげの想いを込めて、己が滅ぼした人類に願う。


「G……GAAAAAAAAAAA!!!!!!」


 第一の少女が願ったように、安寧とはいかずともどうか再び人類の栄華えいがを。永遠とわに続く大地の支配を。神なき世界を神の力を持って為せ。永遠えいえんなど、願ってくれるな。


「撤退イイイイイイイイイイイイイ!!!」


 その日、神は堕ちた。

 

 ――――――

 

 一陣の風が舞い、ガラガラと音を立てながら、かつて建造物であったであろうコンクリートが地面に衝突しょうとつし砕ける。風が巻き起こり、灰色の砂塵さじんが舞った。


 近くにいた残酷なまでにボロボロな布をまとったせ細った人間たちは微塵みじんも動じることなくそれを受け入れる。骨と皮しかないような体が風にれて倒れた。一切音を立てることもなく、僅かな砂塵を巻き上げただけで動かなくなる。


 これを見れば誰もがこう言うだろう。悲惨な光景だと。だが彼らにとってはこれが当然であり日常の光景なのだ。瓦礫と砂塵にもれ、冥府めいふへ半身を突っ込んでいるような死にかけの人で溢れかえっているこの光景こそが。人々は何かに絶望し、悲観し、希望の光など永劫えいごうに差す事はないと、そう思い込み信じてしまっている。


 住居等の、人が住まうための雨風を防ぐための建築物はなく、砕け散った瓦礫がその代わりとでも言うように散乱している。死人のような人々はゴツゴツしたそれらに背をあずけ、停滞したありの行列のように並んで座っている。見ているだけで死を連想し、生きる気力がなくなるような、そんな悲しい光景だ。無気力で、どうしようもない。


 そんな生気のない人間のれの中に異物が混じる。傷や汚れが少なく、ととのえられた衣服を着る若者。二人はばったりと出くわし、手を振りながら共に歩き始める。


「よう、おはよう。早ぇーな今日は」


「……それは君もだろう」


 学生、と呼ばれる。


 屋根も設備もない、さびれた場所でこの世界の過去や生きるすべ、人のことを学ぶ、これから輝く……かもしれぬ若き光。目に見えぬほどに小さな小さな、無意味な光だ。


 一人目の若者の名を「皐月春馬さつきはるま」という。ツンツンした茶髪とギザっ歯が特徴的で、プラチナブロンドの瞳は内側で輪を描いている。無垢むくで無知で無邪気な、純粋で真っ直ぐな青年だ。もしかつての世界ならば学校の皆の中心となって引っ張っていけただろう。そんな人間だ。


 二人目の若者の名を「越冬壱馬えっとうかずま」という。勝手に制服の色を変えたり教師に反発したりするため教師陣きょうしじんとの仲は最悪だが、知識だけは随一ずいいちの青年。春馬はるまとは対照的なストレートの黒髪で、どこかで拾った、かなり状態のいい度の入っていない眼鏡をかけている。どこか人を皮肉ったようなしゃべり方が特徴的だ。


 二人の登校時間が合うことはめずらしく、普段と違う状況に少しばかりの興奮こうふんを覚えながらどうでもいい雑談に華を咲かせる。と言っても春馬はるまが一方的に話しかけ、壱馬かずまはそれに相槌を打つ程度なのだが。


「いやー最近暑いなあ」


こよみでは秋頃だよ?」


「そろそろ授業始まんじゃね?」


「後一時間ぐらい後だね」


 そうだったっけか?と笑いながら登校路を歩く。真顔だった壱馬かずまもほんの僅かな微笑をかべた。


 そんな調子で代わり映えのない無機質な道を歩くこと数分。春馬はるまがある一点を見つめながら立ち止まった。壱馬かずまも不思議そうな顔をして同じ方向を見るが、すぐに原因を理解し心底嫌そうな表情を浮かべた。二人の表情は対照的になることが多い。


「なあ壱馬かずま。ちょっといいか?」


「…………あまり関わらないでよ。めんどくさい」


 二人の視線の先にいるのは、周囲と比べても圧倒的に暗く絶望的な顔をした中年の男性。眼窩がんか異常いじょうくぼみ、死者だと勘違かんちがいしてしまいそうになるほどに生気がない。もはや血液すら通っていないように見える。


 彼らはこの世界での経験から理解している。あんな顔をした人間は近いうちに死ぬ、と。正しい医療知識いりょうちしきを持つ者ならば気付くくだろう。彼は明らかな栄養失調えいようしっちょうだ。それだけではない、様々な病に体中をボロボロにされ、まだ生きているのが不思議なほどだ。


 たたたっと駆け寄り、肩を軽く叩いて声をかける。それだけで男性の体は大きくれて倒れかけた。


 死者のようなその男性ののどから掠れて乾いた声が漏れる。もはや何の感情も篭っていない、哀れとも思える声だ。


「……あ?」


「おっさんひでー顔してるぜ?砂の石焼き食うか!?うめーぞ、砂の石焼き!」


「………………」


「そうだな……俺ら今から学校だから、帰ってきたら一緒に食おうぜ!砂の石焼きパーティだ!きっと楽しいぞ!」


 うつろな目をした男性に向けて一方的にそう言うと、春馬はるまは登校路に戻って壱馬かずまと一緒にまた歩き始めた。


 彼はこういう人間だ。


 視界に映る、いや視界に映らない者でさえ、苦しんでいる者がいるなら全力でそれを救い助けるために、心の底から何の見返りも求めずに行動する、底なしの善性ぜんせい


 これで普段から行動に遠慮があったり口調が優しかったりすれば尚良いのだが、基本的に彼は遠慮がなくがさつ、大雑把だ。だがその性格と行動のギャップも彼を構成する大事な要素の一つなのだろう。


 本当ならボロボロの布をまとう人間全員にそうしたいが、それではきりがないのでやめろ、と壱馬かずまに言われてしまっているので、限度を決めてそのラインを越えている者だけにそうしている。冷たい判断だと思うが、仕方ない。


 彼が声をかけたせこけた男性は、彼らの帰りを待たずに死ぬ。どうしようもないほどの栄養不足だ。だが、全ての人間が絶望し己のことしか考えられないこの世界で、最後に一切の曇りのない善なる心で接して貰えたのなら。


 それは絶望の闇に包まれた人々にとって、救いなど現れないと諦観ていかんし思い込んでいる者の思いさえ覆し、何よりも強い光となって輝いたことだろう。


 痩せこけた男性は、気付かぬうちに手を合わせ、最後に触れた鮮烈な光の中で、冷えきった心臓の拍動を止めた。

ご拝読いただきありがとうございました。

まだまだ至らぬ身、ご意見等ございましたら遠慮なくお申し付けください。また、ブックマークや星五評価の程、よろしくお願い致します。作者のモチベ維持に繋がります。

目標は書籍化、是非是非拙作を楽しみながら、片手間でもご協力いただければ幸甚に存じます。ではでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ①文章の整理の仕方は良いと思う。 ②主人公を読者に知ってもらおうとする意気込みは良いと思う。 [気になる点] ①文章にルビを振りすぎて逆に読みにくくなっている。 ②1話目の前半部分が長すぎ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ