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第04話「コラボしたい!」

「たのむ! レイナ! 一回だけでもいいんだ!」


「ムリムリ! ムリに決まってるでしょ!」


「なんでだよ! 一回くらいいいだろ! 紋章アレ見せあった仲じゃんか!」


「バカカイル! そういうこと言うな! 事務所がOKくれなきゃムリだから!」


「それなら大丈夫だ。オレお前の弱み握ってるからな!」


 保健室の中はカオスだった。

 ギリギリ収益化を勝ち取ったばかりの零細ゆずチューバー『しんかい』こと海流かいるは、土下座せんばかりの勢いで、ゆずチューブのコラボをお願いしている。

 玲菜れいなはそもそも海流がゆずチューバーをやっていることすら知らないのだが、告白されると思い込んでいたのをスカされ、とにかく断っている。

 ほかのクラスメイトたち数人は、「話がある」と屋上へ呼び出した二人が突然ファーストネームで呼び合い、「アレを見せあった」とか「一回だけ」とか言い合っているのを聞いて、絶対的に誤解していた。


「はいはい、保健室で騒がない。進玄しんげんくん、痛みがないなら今日はもう帰ってもいいよ」


 盛り上がっていた保健室は、帰ってきた養護教諭の手をたたく音で静かになる。

 クラスメイトに交じって、玲菜も海流も口々に「お騒がせしました~」「ありがとうございました~」とあいさつして、保健室を出た。


「なぁレイナ、詳しい内容を後で連絡するから公式インスタンス(インスタ)にDM送っていいか?」


「バカね、あんなの会社が管理してるに決まってるでしょ! ほら、RAIN(レイン)のアドレスよこしなさいよ」


 二人がQRコードを読み取りあっているのを、クラスメイトたちは生暖かい目で見守っている。

 特に女子生徒たちは「あの性格キッツイ玲菜がやっとだね~」と保護者的目線で、うれし涙を流すものまでいた。


「違うからね? 付き合うとか告白とか、そういうのぜんぜんなかったんだから!」


「そうだぞお前ら、なに勘違いしてんだ?」


 自分で先に言っておいて、それでも海流のそんな言葉に、玲菜はもう一度落ち込む。

 みんなに「はいはい」「勘違い勘違い」とあしらわれ、その日は解散となった。


 ◇ ◇ ◇


「え~っと、『しんかい』は、一年ほど前までゲーム実況だけを行っていましたが、ダンジョン配信を行うようになってから少しずつ登録者数が増え、先々月から収益化を果たしたゆずチューバーですね」


 玲菜が所属する芸能事務所『プロダクションZUN-DAずんだ』の会議室。

 マネージャーはホワイトボードに『しんかい』のプロフィールページをマグネットで貼り付けながら説明した。

 書類を一ページめくる。


「チャンネル登録者約1,200人、過去最高にバズった動画は、自身が『魔法』と言い張るリアルタイムCG合成を使い始めたダンジョン配信で、約1万再生されています。金属の仮面で顔を隠した顔出しNG系です」


 もう一枚、ホワイトボードにキャプチャ画像を貼る。

 そこではしんかいが、手から稲妻を発射してゴブリンを倒している瞬間が表示されていた。


「現在までいくつかのゲームの批判発言はありましたが、特に大きな問題になりそうな言動はないですね。モンスターを倒した際のモザイク処理なども完備されていて、なかなか良いスタッフさんを揃えているものと思われます」


「へぇ、スタッフいるんだ」


「まぁリアルタイムでCG合成したり、モザイクかけたり、カメラアングルも自撮りではないですから」


 意外だった。

 しんかいこと進玄しんげん 海流かいるは、どこか芸能事務所に所属しているわけでもない一般の高校生である。

 収益化したとはいえ、まだ子どものおこづかい程度しか収入もないはずの海流が、まさかスタッフまでそろえて本格的にゆずチューバー活動をしているとは、玲菜は思っていなかったのだ。


「それから、しんかいさんの助言どおり、玲菜さんにはダンジョン適性がありましたよ。先日の検査の結果、『冒険者』としてWDOに登録されました。公式サイトのプロフィールにも記載しておきますね」


 社として、玲菜の今後の活動に「ダンジョン配信」を加えるのはやぶさかではない。

 その第一歩目として、露出が少ないわりに編集がしっかりしている個人ゆずチューバーとのコラボも悪くない。

 そんな結論が出された。


「というわけで、玲菜さん、コラボお受けしましょう。ライブ配信ですし、ダンジョンにはこちらのスタッフは入れませんから、くれぐれも言動や行動には気を付けてくださいね」


 スケジュール調整などは玲菜の事務所主導で行うことになり、とんとん拍子にコラボは決まる。

 そしてついに、ライブ配信の日がやってきた。

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