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第26話「大賢者ルキウス・キケロ」

「このぉっ! りゅうきさんを吐き出せっ!」


 玲菜れいなの剣が、海流かいるの魔力を上乗せして大きく振りかぶられる。

 飛び上がり、振り下ろすその剣速は、切っ先では音速を超えているのだが、真っ二つにされたかと思われたミズガルズオルムの身体はほんの少したわんだのみで、勇者の剣をはじき返した。

 その下方、地面をすべるように移動し、「んにゃっ!!」と気合一閃。

 踏み込んだ足先が石畳に小さなクレーターを作るほどの虹愛にあの突きも、腕のカギ爪ごと飛ばされる。

 詠唱を省略し、放たれた海流の雷と炎の魔法も、巨大な蛇の表面を流れ、ぬるりと無効化された。


“うおお! 攻撃が何一つ通らん!”

“毒のスリップダメージもあったし、こりゃあ侍ismが全滅するわけだ”


 目の肥えたダンジョン配信リスナーのチャットを確認するまでもなく、チーム『ZUN-DA!』の一騎当千の攻撃が一つも有効打足りえないことは一目瞭然だ。

 玲菜も虹愛も、一度距離を取り、海流の両脇に控えた。


「どうする? あいつ斬れないよ!」


「しんかいさん、魔王の極大魔法的な何か(エニシング)はないんですかぁ?」


「う~ん、無理だと思う」


 海流は悩んでいた。

 実のところ虹愛の言ったとおり、防御力を貫通する魔法はあるのだ。

 しかし、それを放ってしまえば腹の中にいる竜輝りゅうきも原子に帰してしまうほどの威力を持つ魔法だ。

 そもそもこのような狭い空間で使うことも考慮されていない。

 最悪の場合はダンジョンごと崩落の危険もあるような魔法は使うことはできなかった。


「絶対防御的な能力は、だいたい口の中とか、内部から破壊するのがセオリーなんですけどねぇ」


「あの高さを高速で動く口が開いた瞬間はさすがに狙えないかな」


 巨人族をも丸のみにするミズガルズオルムの口は大きい。

 しかし今は竜輝を飲み込んだ直後のため、開くことはないだろう。

 普通であれば眼球なども弱点になりうるのだが、かの大蛇は暗闇に適合し、眼球が退化している。

 世界の土台にとぐろを巻き、支え、自らの尾を咥えていると神話に語られる大いなる精霊(ミズガルズオルム)を倒すのは、簡単なことではなかった。


“しんかい。りゅうきはルキウスだ。傀儡かいらいの種がまだ残っている”


 頭を悩ませる海流の視線の端に、チャットが流れた。

 ルキウスという名には聞き覚えがある。

 大賢者ルキウス・キケロ。

 それは前世で勇者パーティに居たマジック・キャスターの名だった。

 大戦末期、すでに戦の意味などなくなった世界で、魔王との話し合いによる決着を望んだ大賢者。

 しかしその思想を危険視され、人間に暗殺されかけたところを魔王カイルに救われた。

 敵ではあったが、そのマジック・キャスターとしての――魔法という学問の究極を目指す同志としての――力量を高く評価していた魔王は、彼に『傀儡かいらいの種』を埋め込んだのだ。

 それは、魔王の魔力への反応を高め、人間の生物としての弱さを魔族と同程度までに高めることのできるマジックアイテムだった。


「だれだ? なんでそんなことを知っている」


“今はしがない『しんかいチャンネル』のリスナーだ。そんなことは今は置いておけ。りゅうきの生命反応が消えてしまうぞ”


「……確かに」


 一刻を争う事態であることは間違いない。

 そして、竜輝の身体に傀儡かいらいの種が残っているのであれば、海流の魔力を()()()()()()で流すことができる。

 右手を伸ばし、長いミズガルズオルムの身体をスキャンするように動かすと、ほぼ中央の位置に確かに傀儡かいらいの種――竜輝の生命反応が感じられた。


「なるほどな。だからあいつ、オレの魔力に反応して魔法が使えるようになったのか」


「カイル?」


「しんかいさん、どうしました?」


「よし! イケる! 今からミズガルズオルムをぶっ倒すぞ! りゅうきの位置が動かないように、あの蛇野郎を足止めしてくれ!」


 竜輝の位置を視覚的に把握できるようにして、海流は魔法に神経を集中する。

 サーモセンサーの画像のように、ミズガルズオルムの体内に浮かび上がった人の形を見て、玲菜と虹愛は何も質問することなく、即座に動いた。

 その映像は、配信中の画面にも反映される。

 チャット欄は盛り上がり、スパチャも大量に投下された。

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