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第25話「幻獣神ミズガルズオルム」

「あれ? なんかピリピリしません?」


 扉を目視できる距離までに近づいたとき、一番最初に異変に気付いたのは虹愛にあだった。

 海流かいる玲菜れいなも、とくに何も感じていない。

 次に異変に気付いたのは、意外なことにその場にいないリスナーだった。


“ん? ノイズ乗ってね?”

“しんかい、音声も飛んでるぞ”


「マジで? なんかトラブルかな」


 念のため、先行していたドローンを手元に戻し、確認する。

 特に問題なさそうに見えたドローンだったが、実際に手に取ってみると、それは海流の手にぬるりとネバついた。


「うわ、ねちょってる……あ、腐食か?!」


「毒の影響がドローンに出てるってこと?」


 海流が慌ててドローンにもシールドを展開する。

 そのとたん、今まで断続的に通信障害が発生していたのだろう、大量の「ノイズ」や「音飛び」「ブラックアウト」の報告がチャット欄に一気に流れた。


『……んかいさん! れいぽむさん! にゃんぴさん! 聞こえますか?!』


「え? あぁ大丈夫だ。たぶん扉の向こう側にいるモンスターの毒の影響が出てるっぽい」


『いえ! その扉が!』


 ヘッドセットから聞こえる緊迫した声に、海流たちは扉へと視線を向ける。

 いつの間にかじわじわと開き始めた扉の隙間から、「とぷ」と青紫色の液体があふれた。

 毒の波が、扉の前に倒れている何人かの冒険者をじくじくと蝕む。

 そのはるか上方で、同時にチロチロと姿を現したのは、以前倒した竜の幼体(ドラゴン・パピー)の首ほどもある舌先だった。

 先が二つに割れたピンク色の舌は、空気中に存在する匂いや魔力を検知し、海流たちの位置や強さを正確に把握する。

 魔王である海流の内包する魔力に気づいたミズガルズオルムは、扉の前に倒れている侍ismのメンバーを一人咥えると、さっと巣穴に戻った。


“あ! 今一人食われたんじゃね?!”

“うわぁぁぁ! グロぉぉぉ!”


 チャット欄がザワつく。

 当然、そんな状況を放っておく玲菜ではなかった。


「カイル!」


「わかってる! 突っ込むぞ!」


「いきますよぉ!」


 前世の運動能力で言えば虹愛が一番速い。

 しかし、現在の身長――端的に言えば足の長さ――で玲菜に大差をつけられたせいで、二人のスピードはほぼ同じだった。

 一人、海流だけが後れを取る。

 その陣形は、美少女二人が高さ20メートルの白い扉に突っ込む瞬間、後ろから魔法をかけるにはちょうど良かった。


「無限に落ち行く暗き大穴よ。光を喰らい円を描き、時を歪めよ」

「白き輝きに満ちよ、天の一等星。崩壊せし光の罪過を空に放て」


 海流の詠唱は、まるでエコーがかかっているかのように二重に発せられた。

 すべての魔法、すべての詠唱を極めた魔王にのみ可能な秘奥義『二重詠唱』である。

 左右両方の手に同時に作り出された純粋な『重さ』と光の奔流は、空間をゆがめ、ドローンにより配信された映像を、美しい曲線として映し出した。


崩壊せし星の躯(コラプサー)

矮星爆発ノヴァストライク


 白い輝きは玲菜の剣に、黒い重さは虹愛の爪に。

 振りかぶった二人の武器が同時に扉に振り下ろされた。

 衝撃波が周囲に広がり、重低音が鼓膜を揺らす。

 しかし瞬きののちにすべては収縮し、20メートル四方もある巨大な扉には、完全な真円の大穴だけが残った。


“やべぇ! 震える!”

“しんかいの魔法つよすぎ”

“さすがにこれはCG”

“CGだとしたら雑コラすぎるw”


 チャットは無視して、三人は扉の中に飛び込む。

 通り過ぎざまに、扉の前で倒れている侍ismのメンバーに解毒の魔法をかけるのを、海流は忘れなかった。


『しんかいさん、ドローン映像でりゅうき以外のメンバー生存を確認しました。さきほどモンスターに連れ去られたのが最後のメンバー……りゅうきです』


「そいつはよかった」


「しんかい! れいぽむ! 正面に敵いますよぉ!」


 扉を抜けた先には、大量の巨人族の骨が積み上げられた山があった。

 その上で、とぐろを巻くミズガルズオルム。

 胴回りは8メートル、五角形の頭は、それだけでマイクロバス2台分ほどの大きさがある。

 うねうねとうごめく胴体は縦横じゅうおうに延び、その全長を把握することもできない。

 ぐぐっと暗闇の中に持ち上がった頭を、海流の照明魔法が照らし出した。

 咥えられた侍ismのマジックキャスター竜輝りゅうきが、苦しそうに唸り声をあげる。

 まだ生きている。

 海流たちがそう考えた瞬間、ミズガルズオルムは竜輝を咥えなおし、そのままごくりと飲み込んだ。

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