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第01話「ダンジョン配信ゆずチューブ」

【LIVE】


 赤い文字が画面左上に点滅していた。

 画面中央には金属製のマスクをつけた配信者《ゆずチューバ―》、『しんかい』の姿。

 ドローンがぐるりと回り込み、背後から撮影すると、その視線の先には醜悪な小鬼の姿があった。


「はいゴブリン居たぁ!」


 しんかいはダダダっと走り出す。

 画面右のチャット欄も、にわかに活気づいた。


“やっちまえしんかい!”

“うわゴブリンきめぇ”

“まぁたゴブリンかぁ。ドラゴンとかいねぇの?”


「ドラゴンとか死ぬから! オレってソロだし!」


 チャットと会話しながら、しんかいは背中の金属バットを取り出した。

 何やらごにょごにょと口の中で呪文を唱える。

 とたんに金属バットは青紫色の光をまとい、まるで両手持ちの剣のような形になった。


“でたー! しんかいのリアルタイムCG合成!”

“え? すげー! これどうやってんの?!”

“ニワカ乙w しんかいの配信はこれがあるからたまらんw”

“正直これを見に来てるとこある”


「CGじゃないから! 魔法だから!」


 叫びながら、袈裟懸けにバットを振り下ろす。

 ゴブリンは肩からわき腹にかけてまっすぐに切り伏せられ、画面にはリアルタイムでモザイクがかかった。

 しんかいはヒュッとバットを振り、血のりをはらう。


「あいかわらずキモイわ。なんどやってもこれだけは慣れない」


“なんだよー、モザイクはずせよ”

“そのCG合成どんなアプリ使ってんの?”


「モザイク外すのはちょっとムリだ。ゆずチューブから収益化外されたら困るし。あと、何度も言ってるけどこの剣はCGじゃないからな! オレの魔法だから!」


“はいはい”

“え? ここ「しんかいチャンネル」なのに深海じゃなくてダンジョンに潜るの?”

“定番ネタ今日も来たか”

“ところで使ってるドローン高性能すぎ、機種教えてください”


「このドローンも一般に売ってるやつだよ。ただ魔法で操作してるだけ」


“ウソ乙www”

“はいはい、そういう設定だもんな、しんかい”

“世界にただ一人のマジックキャスターしんかいパネェ”

“応援してます!” 500円


 チャット欄にカラフルな背景のメッセージが表示される。

 そこに踊る500円の文字に、しんかいは「おおおー!」と叫んだ。


「スパチャあざっす! これ来週発売のドラゴンファンタジー18の資金にする!」


“しんかいのゲーム実況はつまらん、ダンジョン配信だけやってくれ”

“それな、チャンネル分離しろ”

“次の敵は手から雷出すやつで倒して!” 400円


 また金額が表示され、しんかいのテンションが上がる。

 それから何匹かのゴブリンを倒し、とくにピンチもないまま今週の配信は終わった。


「チャンネル登録、高評価、よろしくおねがいします!」


 ◇ ◇ ◇


 言わずと知れた世界最大の動画配信サービス『ゆずチューブ』

 様々な動画が配信されているが、ここ数年のトレンドは何といっても『ダンジョン配信』だ。


 十数年前、突如として世界各地に現れた『ダンジョン』には、地球上には存在しえないモンスターや、歴史のどこにも登場しない国の金貨や財宝が眠っている。

 中に入ることができる人は謎のルールにより限られていて、各国の軍や組織も手を出せないため、国連の下部組織『世界ダンジョン管理機構』――通称WDOが一括管理し、登録をした『冒険者』による内部での事故や取得した財宝などに関する一連の管理を行っていた。


 ゆずチューバー『しんかい』も、そんな冒険者の一人である。

 ただし、チームを組んで本格的にダンジョンの財宝を取りに行くプロ冒険者ではない。

 ソロでダンジョンに潜り、敵の弱い低層での活動をゆずチューブで配信することで対価を得ている、底辺に近い冒険者だ。

 ただし、彼は知っていた。

 この世界にダンジョンができた理由も、モンスターや財宝がどこから来たのかも。

 そして、冒険者としてダンジョンに入れる者と入れない者の、どこが違うのかも。

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