悪役令嬢「婚約破棄されたから王子殺した」
今日、ついに運命の日だ。
私を虐げてきた公爵令嬢に復讐する。
魔法の成績が優秀で、王都魔法学園に入れた。
そこまではよかったがそこでの学園生活はまさに地獄だった。
貴族ばかりの学園で、平民の私がしかもなまじ成績が優秀だったばかりに目の敵にされた。
でも、それもここまでだ!
「婚約を破棄する!」
王子が、私の愛しの彼がそう宣言した。
ざまぁ
王子と公爵令嬢は婚約者だった。
でも、あくまでも親の都合で決められた婚約。
そんなの正しくない。
私たちはお互いに愛し合っている。
それならば、立場も親に決められた婚約者も生涯になんてならない。
そうでしょ?
苦痛に歪む公爵令嬢の顔が見たくて、だから気づけたのかもしれない。
彼女の口角が上がり、まるで悪魔のような笑みを浮かべたことを
『ディススプリーティ、切り裂け』
「え?」
「逃げて」
王子が叫び、私は突き飛ばされた。
痛っ……
立ちあがろうと床に手をつくと、べっとりと生暖かいそれが、
なに、これ?
赤い?
王子が倒れている。
意識がないのか、起き上がる気配がない。
どこか打ち所を悪くしたのかもしれない。
王子を起こそうとして顔に触り、
ころころと転がっていった
……
「きゃーー!!」
静まり返っていた会場が一瞬にして喧騒に包まれた。
今日何が起こるか知っていてニヤニヤと婚約破棄の宣言を見守っていた貴族たちが顔を歪め逃げ惑う。
私は現実を受け入れることができなかった。
ただ、呆然と王子の首を見ていることしかできなかった。
「あの魔女を捕らえよ」
「国にあだ名す国賊よ」
「観念しろ」
「王城の中でこのような無法、許されるとお思いか」
兵士に囲まれた公爵令嬢は、ただ不気味に笑っていた。
まるで兵士のことなんて見ていない。
ぐるりとあたりを見渡し、私と目が合った
「私は特別、それは私が公爵家に生まれたからでも、ましてや王子の婚約者だったからでもない」
「私が、私だから」
「世界は私を中心に回っているの」
「……何を言って」
「いいからとらえろ、でないと」
『ディススプリーティ、切り裂け』
「ひっ」
私のことを見ながら、まるでお手本でも見せるかのように彼女はさっき使ったのと同じ呪文を唱えた。
私の隣に居た兵士の体が、縦に裂けた。
飛び散った血が私に頭から掛かる。
なにが、起きてるの?
理解できなかった。
人が簡単に死んでいく
彼女はそれを笑みを浮かべ眺めている。
彼女の言葉は私に言っているのだと思う。
私は彼女を馬鹿にしていた。
血しか取り柄のない、ただたまたま公爵家に産まれただけの無能だって……
学園でのそれは正しかった。
皆、口には出さないまでも心の中ではそう思っていた。
彼女は成績はいつもトップだったけど、授業中使う魔法は大したことなくて
家の権力で学園の教師が逆らえないだけだとみんな思っていたから。
「この国が私と敵対すると言うのなら、私は国を捨てよう」
「世界の中心にいる私と敵対すると言うことがどう言う意味を持つのか、教えてあげる」
「囲め」
「周囲の被害はこの最無視しろ、いくぞ」
『ブルリーギ、火よ』
『フォント、水よ』
『シュトルミ、風よ』
『ラヴァンゴ、土よ』
『エレクトリ、雷よ』
彼女を兵士が囲み、強大な精霊魔法を唱えた。
兵士の背後には人の視界で捉えられるほど濃密な魔力の柱が、
才能なき者には一生かかっても到達できない領域。
私たちの国の最高戦力。
でも……
「あら、宮廷魔道士ってこんな物なのね」
「無傷だと?」
彼女は何事もなかったかのようにただそこに佇んでいた。
「何をした」
「あれは、魔力障壁?」
「まさかそのような低級の魔法で我らの部隊の魔法を受けきったとでも言うのか」
「精霊魔法っていうのはこう使うのよ」
『レーギ、精霊よ』
「あ、あぁ……」
彼女の背後に濃厚な魔力の柱が5つ
宮廷魔道士が1人でうっすらと一本生み出すのがやっとなのに。
彼女の手に眩いぐらいの圧縮された魔力が集まり、それが弾けた。
目を開けるとそこは地獄絵図だった。
血の匂いが充満している。
人の肉の焼ける匂いも
彼女は変わらずそこに立ち、
それ以外に立っている人物は……
1人だけいた。
「お嬢様ご無事ですか?」
期待したのが馬鹿だった。
そうだ、
あの魔法の中で彼女の敵が立ってられる訳がない。
「遅いじゃない、もう終わってますよ」
「……いえ、ちょうどいいですね。後片付けは頼みます」
「お父様にはいかが」
「別にどうでもいいじゃない、あんな無能」
「ぐだぐだいうなら魔法かければ?」
「あと、あんなの私の親じゃないから」
「私ではお父様の魔力障壁突破できませんので、その時はお願いしますね」
「はいはい、元特殊部隊の隊長が聞いて呆れるわね」
「この国最強の魔道士をそんな扱い出来るのはお嬢様ぐらいですよ」
彼女たちは、まるでこの光景をなんでもないかのように会話をしている。
私とは根本から精神構造が違うのだろう。
会話の内容も衝撃的な物だった。
あの、最強と呼ばれた公爵が私と年の変わらない娘の操り人形だったなんて。
近年は戦場に出てこなくなっていたと聞くが、
王都にいることこそが王国の守りに最も役立つなどの理由ではなく、まさか……
「それで、あなたが主犯かしら?」
「ひぃ」
あ、終わった。
彼女と目があった。
私が今まだ生きているのは運が良かったからでも、ましてや私があんな魔法に耐えられるからでもない。
彼女がそう決めたからだ。
そして、彼女がそう決めた理由は一つしかないだろう。
簡単には殺してあげないよ、と。
「庶民が私から王子を寝取る、ね」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
ただ謝る。
それ以外の選択肢はない。
髪と服には血がべったりと付着して、頭をつけるたびに血と肉の混ざったものに顔をつけることになる。
それでも、私は死にたくなかった。
血の海でひたすら土下座し続けた。
「あら、怒ってないわよ」
「え?」
助かった、の?
一瞬ホッとした。
でも、彼女の方を見たとき、そこに彼女はいなかった。
彼女が視界から消えた。
「だから褒美に私の手で直接殺してあげる」
背後から彼女の声が聞こえる。
振り返ろうとして、体が動かなかった。
そこに縫いつかられたかのような、体に一本の鉄柱が入ってるかのようだった。
下を見ると、彼女の腕が私の胸を貫通していた。
王子が誉めてくれた、自慢の胸が内側から突き破られ爆ぜていた。
私の心臓がどくどくと彼女の手の中で脈を打っている。
不思議と苦しくはなかった。
不思議と痛くはなかった。
ただ……
「あなた、レアみたいだからコレクションしなきゃね」
「ホルマリンがいい? 樹脂がいい?」
「選ばせてあげる」
何を言っているのか、理解できない。
「心臓と、脳と、子宮、この三つは必須よね」
「あ、卵子は有効に使わせてもらうわ」
「まだ若いし結構残ってるでしょ?」
「私精巣も沢山持ってるの」
「かつての英雄との子供、ロマンではなくって?」
私はここで終わりなの?
私はどうなるの?
分からない、分かりたくない。
「メイド」
「はい」
「あなた、お腹は?」
「今は3ヶ月ですのであと7ヶ月ほどお時間をいただければ」
「そう、」
だめだ。
このまま殺されたくなんてない。
「わ、私」
だから、
「なに?」
「私昔から風邪とかひいたことなくて、体も丈夫なんですよ」
なんでもするから、
「ふーん?」
「それに、私の卵子なら私と相性いいはずです」
私を生かしてください。
「いいわ、あなたのこと使ってあげる」
「よかったわね。あなたの卵子がなくなるまで、あなたの寿命は伸びることになったわ」
「よかっ……」
視界がぐるりと回転した。
ぐるぐると転がり、何かにとぶつかって止まった。
……え?
「でも、体以外いらないから」
「脳と心臓は先にホルマリンにつけとくわね」
「魔術道具として卵子を使い切ったら一緒に樹脂に入れて飾ってあげるから」
「それまでおとなしく待ってるのよ」
「……もう聞こえてないと思いますよ」
「あら、知らないの?」
「人間聴覚は最後まで残っているものなのよ」
「そんな雑に扱ってると傷んでしまいますよ……あら?」
「どうしたの?」
「これは、ふふ」
「やっぱりこの子はレアね、誓いのキスかしら」
「……」
「ここまで転がってきたのね」
「私に逆らって本懐を最後まで果たすなんて、きっと貴女も特別だったのね」
「病めるときも、健やかなるときも、たとえその命尽き果てようとも……みたいな?」
「いい話ね、あなたもそう思うでしょ?」
「はい、お嬢様」
……
感想、評価、なんでもいいので反応もらえると嬉しいです。




