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螢惑守心の煌仙子  作者: 智郷めぐる
第一章
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第零集:嚆矢濫觴

 花丹(かたん)国には聖軍大二柱(せいぐんだいにちゅう)と呼ばれる軍があった。

 皇長子の義父が率いる『瑞泉(ずいせん)軍』。

 武人、第三皇子率いる『梅寧(ばいねい)軍』。

 二つの軍は護国のため命をかけ、大陸中原(ちゅうげん)全土で戦に臨み、武功を積んでいた。

 軍の規模で言えば瑞泉軍はわずかに梅寧軍を上回っており、大きな後ろ盾となって皇長子を支え続けていた。

 皇長子が帝位を継ぐのは確実だと思われていたが、当時は家族でも家督を継ぐために平気で殺し合う時代。すべてが順調というわけではなかった。

 軍功誉れ高い梅寧軍を率いる第三皇子は庶出ではあったが、心優しく誠実な兄である第二皇子を慕い、梅寧軍もそれにならった。

 清廉潔白な第二皇子は朝政で皇帝を補佐しながら善政を行い続け、評価はまさに天翔ける龍の如し。

 その結果、おぼえめでたく第二皇子が皇太子に冊封(さくほう)され、祝いの宴が開かれた。

 皇長子は幼き頃より天子になることを期待された存在だったにもかかわらず、寵愛でも朝臣からの信頼でも、実の弟に敗れることとなったのである。

 十年後、三十二歳となった皇太子は譲位により皇帝となり、治国においてその優秀さをいかんなく発揮していた。

 民からの評判も高く、他国との関係もみごとな外交政策によりおおむね良好。まさに順風満帆だった。

 そして十五年ほど経ったある日、事件は起こった。花丹国を揺るがす、悲惨な事件が。

 常勝を誇っていた皇弟弥王(やおう)の梅寧軍八万が、派兵先で一夜にして壊滅してしまったのだった。

 弥王(やおう)の若き世子(せし)も戦の中で亡くなり、その訃報は花丹国を悲しみで包んだ。

 戦場は凄惨を極め、まともな遺体は一つも残っておらず、身に着けていた腕輪や首飾りに押されている印と名前によってかろうじて誰の遺体かを判別するしかなかった。

 腕だけが残った遺体。頭部だけが残った遺体。下半身だけが残った遺体……。共通している傷は人間よりも大きな歯形。遺体は、〈何か〉によって喰われていたのだ。

 皇帝はすぐに皇兄英王(えいおう)を呼び、瑞泉軍を調査に向かわせたが、何の成果も得ることは出来なかった。

 ただ、この時、一部始終を目撃し、梅寧軍の中で唯一生き残った者がいた。

 皇帝の妹綺珠(きしゅ)長公主の息子であり、梅寧軍の軍医、(きょう)医師である。

 (きょう)医師は回復後、すぐに参内を命じられ、皇帝の御前で説明を求められたが、酷い恐怖に曝されたせいか、まったく記憶がなく、何も話すことが出来なかった。

 皇宮の太医(たいい)も「(きょう)医師は記憶喪失である」と結論付け、それ以降は何の追及も受けることはなかった。

 数週間後、夫の死に耐えられなかった弥王(やおう)世子妃は首を吊り、身籠っていた赤子ごとこの世から去った。

 弥王(やおう)妃も家族の後を追うように毒を飲み、永遠の眠りに。

 皇帝は愛する弟とその家族を失った悲しみで精神と体調を崩し、まだ十二歳の嫡子を皇太子に冊封し、朝政を任せることが多くなっていった。

 その傍らには常に英王(えいおう)がおり、表向きは甥を支えているようだったが、軍務について己に有利に働くよう、口を出し続けた。

 巨大な軍を持つ英王(えいおう)に諫言できる者は少なく、意見を言ったとしても、功績と経験を盾にされては、成すすべもない。

 花丹国はその内に膿を貯め続け、それはもはやどうすることも出来ないほど膨らんでいった。

 同じ時期から花丹国の周辺では奇怪な事件が頻発。人ではない〈何か〉が人間を襲っているというのである。


 そして(とき)は流れ十七年後。

 一人の少年がある志を持って花丹国へと帰って来た。

 その手に、大きく輝く〈針〉を持って。


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