婚約者が私の見た目を好きな件
ふと思いついたので息抜きに書いてみました。
「リリアーナ様は殿下と本当に仲睦まじく、羨ましいですわ。」
「えぇ、お二人ともお互いを愛しておられるのがわかりますもの。素敵ですわ。」
「わたくしも、婚約者の方とリリアーナ様と殿下のように政略結婚といってもお互いを想いあえる関係になりたいのですけれど、月1回お会いするくらいではなかなかお相手のことを知ることも難しいんですの。」
「わたくしは学園でお会いできますけれど、好きなところ尊敬できるところと考えてみても思いつかなくて…。」
「リリアーナ様は殿下のどういったところがお好きなのんですの?ぜひ教えていただきたいわ!」
リリアーナと呼ばれた令嬢はそれまで周りの令嬢たちの話を大人しく聞いていたが、カップを置き、周りがついうっとりとしてしまうほどに美しい笑みを浮かべ答えた。
「わたくしは、レオ様の見た目をなによりも愛しておりますわ。」
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「というわけなんだ、リリーは私の見た目だけが好きなのか?見た目しか取り柄がないということなのか?それではいつかリリーに飽きられてしまうのではないか?もし私以上の見目のいい男が出てきたらリリーは私を捨ててそいつのところに行ってしまうのではないか?なぁ、どう思う!?」
「殿下、仕事してください。」
ここは王宮にある王太子の執務室。嘆いているのは王太子レオナルド。そしてレオナルドの訴えを受け流したのは側近の侯爵家令息フィリップである。
「無理だ、リリーのことが気になりすぎてそれどころではないんだ。リリーから婚約解消でもされたらどうするんだ!?」
「はぁ。わかった、一応、話は聞いてやる。さっさと終わらせて仕事に戻るぞ。」
フィリップはレオナルドと幼馴染であり、公式の場でもないためその対応は雑の一言である。
「それで?どうしてそんな話になったんだ?」
「だからだな、今日学園で偶然…偶然だぞ!リリーが他の令嬢と茶会をしている庭園の側を通ってだな、バラの垣根を挟んでいたからリリーとは会ってないぞ!」
―まさかリリアーナ嬢が好きすぎてストーカーしてたんじゃないだろうな…まぁリリアーナ嬢のことだ、とりあえず置いておこう。
「そこで令嬢たちがリリーに私の好きなところを聞いてたんだ。そうしたら『わたくしは、レオ様の見た目をなによりも愛しておりますわ。』とリリーが…。あの時のリリーの微笑みは令嬢たちにすら見せるのが惜しく、バラの妖精も嫉妬してしまうほどに美しく、あぁ、あの笑みの姿絵が欲しい、いや、リリーの美しさは姿絵なんかでは表現できない!!!!!」
「はいはいはいはい、一旦落ち着け。つまり、そのときはリリアーナ嬢に見惚れてたけど、のちのち考えたら、見た目だけが好きだから、自分以上に見目のいい男が出てきたらリリアーナ嬢をかっさらわれないか不安だと。」
「そうなんだ!!!!!私はどうしたらいいんだ、フィリップ!!!」
そう言うと、またもや頭を抱えたレオナルド。
『頭を抱えたいのはこっちのほうだ仕事しろ』と思いながらもこの話を終わらせないとレオナルドが使い物にならないのが分かりきっているフィリップは解決に向けて話を進める。
ちなみに、問題のレオナルドであるが、金髪碧眼で端正な顔立ち、身体は均整の取れた身体でそれはそれはおとぎ話から出てきたようなを体現したような見目である。まぁ、実際に王子様なのだが。
「見た目を褒められてよかったじゃないか。見た目も大事な個性のひとつだぞ?むしろ好かれてるならいいことだ。」
「うっ…それはそうなんだが、嬉しいのだが………リリーはあんなに愛らしいんだぞ?もし、私以上の見目のやつがいたとして、そいつがリリーに惚れてしまったらどうするのだ!いや、惚れる、絶対に惚れる、リリーに惚れないわけがない!!!私以上に好みの見た目に出会ったらリリーがそいつに惚れてしまうやもしれん!!!」
「見た目が一番で、中身を愛されてる自信はないのか?だいたい、リリアーナ嬢は見た目だけで人を判断するような令嬢なのか?」
「そんなわけないだろう!!!!リリーはな見た目の美しさ愛らしさはもちろんのことだが、人を見た目で判断せず、公爵令嬢という肩書もひけらかさず、誰にだって分け隔てず接する女神なんだ!昔、太っていた私が参加していたお茶会で笑顔で手を差し伸べてくれたのはリリーだけなんだ。他の令嬢は、嫌そうな顔をしたり目を背けたり…。だから、そんなかわいくて優しいリリーにふさわしい男になれるよう私は努力した!」
「なら、いいじゃないか、別に。リリアーナ嬢がお前の見た目を好きだって言ってたって。」
フィリップはもはや面倒くさい気持ちしかない。
「それはそうなんだが、でも、やっぱり、不安なのだ…。」
レオナルドは恋する乙女モードである。こうなったら、不安が解消されるまで使い物にならないのである。
「そうは言ってもだな、お前以上に見目のいいやつなんて然う然ういないぞ?」
「まったくいないわけじゃないだろう!?以上じゃなくとももしも万が一にも私と同じ顔で男らしく頼れる性格の男がいたらどうするんだ!?」
―そんなやつ、いるわけないだろう…だがしかしこれじゃ堂々巡りだな。
「わかった、リリアーナ嬢の見目の好みの詳細は分からん。だから、お前が今言った、同じ顔で男らしく頼れる性格の男にリリアーナ嬢が靡かなければ安心するか?」
「あ、あぁ、まぁそうだな…」
「じゃあ、こうしよう。よく聞け。」
フィリップが練った作戦はこうだ。
演技の上手い役者を用意し、その男にレオナルドと同じ見目になる魔法をかける。そしてリリアーナにアプローチをかける。性格も考慮してほしいので期間は1週間。
つまりはハニートラップである。
「そんな、リリーを試すようなことをしてもいいんだろうか…嫌われてしまうのではないか?」
「リリアーナ嬢なら大丈夫さ。安心して任せろ。」
フィリップはもはやレオナルドにイライラしていた、だから八つ当たりの気持ちもあったりなかったり…。
そんなこんなで、フィリップの≪リリアーナ嬢誘惑大作戦≫は幕を開けたのである。
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そうして、1週間、男前版レオナルド(ハンス)は全力でリリアーナ嬢にアプローチした、途中、嫉妬した本家レオナルドが介入しそうなことが何度もあったがそこはフィリップが止めた。
そして今日は男前版レオナルド(ハンス)がリリアーナ嬢に告白する日である。
「リリアーナ嬢、どうか俺と婚約していただけないだろうか?君の婚約者のことなら心配ない、黙っていたけど俺はこの国よりもっと広い他国の王子なんだ。だから君が望むなら俺は君を手に入れることは容易いんだ難しくないのさ!」
「ハンス様、謹んでお断りいたしますわ。わたくしはレオ様を愛しておりますの。」
それはそれは、美しい微笑みでリリアーナは返した。
「リリアーナ嬢、レオナルド殿と俺は同じ容姿だろう?俺ではなにが駄目なんだ?」
あまりの美しさに一瞬ハンスは惚けてしまったが、気を取り直しリリアーナに聞いた。
「ハンス様とレオ様は同じ容姿ではありませんわ?よく聞いてくださいまし。わたくしはね、レオ様のすべてを愛しておりますの。生まれもったモノもこれまで生きてきて培ったモノもすべてよ。人ってねうまく隠してもそういう内面は必ず外側に出るものだわ。だからね、私の愛するレオ様と、ハンス様では似ている容姿ではありますが、全く違いますわ。私はレオ様だからこそレオ様の見目が大好きなのよ。分かってくれましたかしら?」
そう言うと、リリアーナはなにもなかったように、優雅にお茶を飲み始めた。
男前版レオナルド(ハンス)は返す言葉もなく、そっとその場からフェードアウトした。
ちなみに、隠れて様子を見ていたフィリップとレオナルドだが、レオナルドは顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに泣いており、フィリップは付き合ってられるかと苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
そうして、見事不安を解消したレオナルドはこれまでの溜まっていた仕事を怒涛の勢いで終わらせ、
リリアーナをデートに誘い、気が済むまで存分にイチャイチャしたのであった。
なにせ、リリアーナが関わらなければ見目よし、性格よしの仕事が出来る文句なしの男なのである。
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「フィリップ様、ごきげんよう」
フィリップがひとり廊下を歩いているとふと呼び止められた。
「リリアーナ様、ごきげんよう。どうかされましたか?」
「えぇ、フィリップ様、先日はお疲れさまでしたわ。あなたがいてくれてレオ様も助かってるわ。」
「いえいえ、私などまだまだですよ。それにしても、リリアーナ様。やはり分かっておられたんですね。」
「レオ様が、女性同士の話を盗み聞きするからいけないんですわ。ちょっとしたお仕置きですわ。それに、かわいらしいレオ様がまた見られましたしね。」
「リリアーナ様、イタズラもほどほどにお願いいたします。仕事が滞ってしまいます。」
「まぁ、それはごめんなさいね。でもわたくし、そんなレオ様が大好きなんですもの。フフッ、レオ様にはこのことは内緒ですわよ。今後もレオ様をお願いいたしますね。」
そう言うと、リリアーナは去っていった。
―やっぱり、最初から最後までリリアーナ嬢の手のひらの上だったってことか。
そう思いながらうんざりした顔をしてフィリップもその場をあとにした。
結局のところ、リリアーナとレオナルドはお似合いのカップルなのである。
最後まで読んでいただきありがとうございました!