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 学校が終わって放課後。

 生徒たちの大半は部活動だ。

 特にここはスポーツ特待生や奨学生が多い。

 充実した奨学金制度と設備投資がなければ、この辺境の島に百人も生徒は集まらないだろう。


 そうした学生たちを尻目に、一人で裏山に入る。

 基本的に何もないので、島民も滅多に入らず、たまに悪ガキや酔っ払い、カップルがしけこみに来る程度だ。

 ショベルを回収し、いつもの場所で穴を掘って、埋められた木箱を持ち上げる。

 中身はケースにしまい込まれたエアソフトガン。

 モデルはリコイルバッファを入れたM4MWSとデザートイーグル。

 デザートイーグルは実戦では到底使い物にならないが、トイガンはただでさえ反動が小さいため、このくらいじゃないと意味がなく、それでも役者不足は否めない。

 M4も米軍に押し売りされている感があり、動作不良が多いことで悪名高い。

 精密に作られているだけあって命中精度は高いが、その分少しの異物で故障するため、手入れが面倒で、野外の使用に不安がある。

 反動を抑えるためにガスピストンを取り払っておきながら、元から反動の少ない小口径高速弾を使う設計思想にも首をかしげざるを得ない。

 そのせいで直接ガスが機関部に吹き込むので、ただでさえ故障しやすい設計にダメ押しをしている。

 だがそれは練度の低い兵士には向かないという事を意味しているに過ぎない。

 銃に知悉したプロフェッショナルなら、M4の高い集弾性能と反動の少なさは有用だ。

 世界各国の特殊部隊による採用率が、それを裏付けている。

 それでも異物に弱く、使っていると機関部が汚れるのは事実なので、使えるシチュエーションは限られる。

 つまり室内での短期戦用であり、とてもじゃないがこんな夾雑物の多い自然環境の中で、長距離移動をしながら使うべき小銃ではない。

 ベトナム戦争ではM4の元になったM16を、即席の訓練を受けさせただけの徴兵された兵士に、夾雑さの極みともいえるジャングルで使わせるという、戦略的に完全に破綻した運用をしたため、その悪評は今日まで残ってしまったのだ。

 実銃ではそんな具合のM4だが、エアソフトガンでは最も反動が強く本物に近いと書かれていた。

 書かれていたというのは、全ての市販品を片っ端から買って試す資金力などないため、ネットやカタログの評価に頼るしかないからだ。

 といっても実銃とエアソフトガンの反動はだいぶ違う。

 実銃は後ろへの反動だけだが、エアソフトガンは前後に揺さぶりが来る。

 そもそもエアソフトガンとしてどれほど反動が強くても、実銃とは比ぶべくもないのだから、この訓練に実用的価値があるのか疑問も残る。

 これが経験者による指導のない者の限界だ。

 何事も手探りでやっていくしかない。


 マガジンにガスを注入してBB弾を装填し、米軍の払い下げ品であるボディアーマーにアサルトヘルメットを着ける。

 ボディアーマーには防弾プレートは付いていなかったが、代わりに鉄板を入れて重りにする。

 それらを担いで山の中を疾駆する。

 山林は天然のトレーニング施設だ。

 木登り、崖下り、坂上がり。

 低く狭い場所を匍匐で移動し、岩から岩へ飛び移る。

 無為自然の起伏で作られた障害物コースが、柔軟な筋肉を作ってくれる。

 木の枝や藪に隠れて、各所に標的が設置してある。

 山の中を駆け巡りながら、ターゲットを打ち抜いていく。


 一通りのルーティンを済ますと、エアソフトガンをしまい、湖に泳ぎに行く。

 太古の火山活動で出来たそのカルデラ湖は、エメラルドグリーンに透き通っている。

 この黄木島には手付かずの自然がまだ残っている。

 いつもなら無人で貸し切り状態のそんな楽園に、人影があった。

 反射的に身を隠す。

 エアソフトガンを持っているところを見られたとしたら厄介だ。

 訓練中は神経を張り詰めて注意を払っているからその可能性は低いが、念のために確かめなければ。

 僕は意を決して人影に向かっていった。

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