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落ちこぼれの冒険者1

「うーん。まずは動かないとなぁ」

 この姿になって初めて声を発してみる。耳に響く自分の声は、以前よりずいぶんと高い。

 ずっとここに留まっているわけにもいかないので、どうしようかと迷っていると、近くでガサガサと草を踏む足音が聞こえた。

「……ん? 子供?」

 足音の主たちはすぐに姿を現し、私を見て驚いた顔をしてそう言った。

 背の高い強そうな男性と、へらへらと笑っている男性と、妖艶な女性の三人組だ。

 防具や剣などを身に纏っていることから、ここは前世の日本とは違い、ファンタジー世界だと察する。

「あら。こんな小さな子が森の中にひとりでいるなんて。モンスターに襲われたりでもしたらたいへんよ。お嬢ちゃん、どうしてこんなところに?」

 女性が私に話しかけてきたが、なんて答えたらいいのかわからず口をつぐむ。だって、私だってなんでここにいるのかわからないのだ。

ついでに〝モンスター〟という言葉を聞いて、先ほどの自分の考えが当たっていたことを確信する。

「……わ、わかりません」

 ここは素直にわからないと答えることにした。

「わからない? お前、名前はなんていうんだ?」

 女性を押しのけるようにして、強そうな男性が私の前に立ちはだかる。彼の威圧感に、おもわず体がビクッとしてしまった。

 それを見て、男性は私が怖がっていると感じたのか、ケラケラと陽気な笑い声を上げた。

「はは! そんなビビんなくても大丈夫だって! 別になにも怖いことはしないさ」

 威圧感は一気に消え去り、眩しい笑顔を私に向けたまま、彼は話を続ける。

「名前を聞くなら、まずは先に名乗るのが礼儀だったな。俺はグレッグ」

「俺はチャド」

「あたしはコーリーよ。よろしくね」

 グレッグさんに続き、残りのふたりも私に自己紹介をした。

「俺たちは冒険者。全員が上位ランクのパーティーなんだ」

 ……冒険者。ランク。パーティー。前世では、ゲームの中でよく聞いたことのある単語だ。だんだんと、世界観を理解してきた。

「よし、改めて聞こう。お前の名前は?」

「え、えっと……私は……」

 芽衣子という名前はいかにも日本人という感じで、このファンタジーの世界に合わない気がした。

「メイ、です」

 そのため私は、メイと名乗ることにした。

「メイか。かわいい名前だな。今いくつなんだ?」

「な、七歳です」

 実年齢は知らないが、水たまりに映った自分がそれくらいに見えたので、適当にそう答える。

「わかってるのはこれだけなんです。自分でも、どうしてここにいるのか、ここがどこなのかわからないんです。気が付いたら、ここで寝てて……」

「……気が付いたら勝手にここに?」

 グレッグさんに言われ、私はこくんと頷いた。三人とも、悪い人には見えない。正直に話せば、私のこれからの生活の手助けをしてくれたり、ここの世界について詳しく教えてもらえるかも。

 グレッグさんはしばらく黙ったまま、じぃっと私の瞳を見つめた。そして、後ろにいるふたりのところに戻り、なにかを話している。

「もしかして――」

「いや、でも――」

 小声で話しているせいか、私にはところどころしか三人の会話が聞こえてこない。

 なにを話しているんだろう? 首を傾げ、三人の様子を見守っていると、グレッグさんが私のところに戻ってきた。

「メイ、お前、なにか能力を持ってたりするか?」

「能力?」

「ほら、得意な魔法があったりとか、そういうのなにかないか?」

 能力、魔法……。そう言われましても、試したことがないのでわからない。そもそも私はまだ子供だし、そういったことは今から身に着けていくのではないだろうか。

 私が頭の中でいろいろ考えているうちに、グレッグさんは突然腕を捲り、傷跡を私に見せてきた。

「これ、さっきモンスターを倒したときに噛まれた傷なんだ」

「痛そう……」

 そこまで大きな傷ではないし血は既に止まっているものの、痛々しい傷跡を間近で見て、おもわず顔をしかめる。

「これくらいなら平気さ。でも、メイならこの傷跡を癒してくれるんじゃないかと思ってね」

「……私が?」

「ああ。試しにやってみてくれないか?」

 傷を癒すって――治癒魔法みたいなものだろうか。

 グレッグに言われるがまま、わけもわからずに私はグレッグさんの傷跡に手をかざしてみた。すると、途端に手のひらが温かくなり、みるみるうちにグレッグさんの傷が治っていった。

 それを見て、自分でも声が出ないほど驚く。こんな能力を最初から持ち合わせているなんて……。でもどうして、グレッグさんはそのことに気づいたのだろう。

「すごい。すごいぞメイ!」

 治った傷を見て、グレッグさんは興奮気味に私の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。

 チャドさんとコーリーさんも、〝こんなに幼いのに治癒魔法を使えるなんて〟と驚きの表情を見せ、私のことを褒めてくれた。

「メイ、この能力があれば冒険者としてやっていける。なにもわからないみたいだし、俺たちがこの国や町のことを教えてやるよ」

「え、本当ですかっ?」

「ああ。とりあえず森を出よう。町まで歩きながら、いろいろと教えてやる」

「ありがとうございますっ! グレッグさん、チャドさん、コーリーさんっ!」

 感謝の気持ちを込めて、三人に深くお辞儀をした。さっそく心強い味方ができたような気がして、一安心だ。

冒険者になるつもりはなかったので、そこは少し引っ掛かるけど……今は贅沢を言っていられない。まずは暮らしていける環境を作るのが最優先だ。

「礼儀正しい子だな。よし、行こう」

 グレッグさんは笑いながら、大きな手を私に差し出した。小さな手を伸ばし、その手をぎゅっと握る。

 私の姿は幼女だとしても、中身は立派な大人だ。

ちらりとグレッグさんを見上げてみる。程よい筋肉質な体に、赤い髪に鋭い茶色の瞳。こんなかっこいい人と手を繋ぐなんて初めてで、なんだか緊張する。

 三人は町まで歩きながら、私にいろんなことを教えてくれた。

 ここは〝フェルリカ王国〟という国で、私たちがいた森は、王都からは離れた町の近くにある森だったよう。三人はモンスター討伐の依頼を受け、あの森にいたらしい。

「メイは行く当てもないんだよな?」

「はい……知り合いもいないので」

「だったら、俺たちと同じ冒険者ギルドに登録しておけばいい。ギルドに登録すれば自ずと知り合いも増えるし、俺たちが近くで面倒を見ることだってできる。住む場所が正式に見つかるまで、俺たちの暮らす家にいてもいいぞ。ちょうど一部屋余ってるしな」

「えぇ……! なにからなにまで……! みなさん、私、このご恩は忘れませんっ!」

 グレッグさんの提案のお陰で、住む場所にも困らなくなった。なんとも幸先のいいスタートに顔が緩む。最初にこんないい人たちに出会えたのは、かなり運がよかったと言えるだろう。前世では受けたことのない優しさに、心がじーんと温かくなるのを感じた。


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