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泥棒カラスを捕獲せよ!

 あの後、予想通りグレッグはギルドを追放されたようだ。チャドとコーリーも追放になる予定だったが、ふたりはグレッグの私情に振り回された可能性が高いとして、Fランクからやり直すことを条件にギルドに置いてもらえることになったらしい。たびたびギルドでふたりの姿を見かけるが、以前とは打って変わってかなりおとなしくなっていた。

 グレッグがいなくなり、ギルドには以前より穏やかな空気が流れていた。私たちに積極的に話しかけてくる冒険者も増えた。今まではグレッグが怖くて話しかけられなかったようだ。フレディやマレユスさんも、少しずつだがほかの冒険者とまた交流するようになり、私はそんなふたりを見てうれしく思った。

 そして家では、フレディとスモアと平和な毎日を送っていた。

【メイ、起きろ。朝だぞ】

【う~ん……もふもふきもちいぃ……もっと寝てたいよぉ】

【今日はミランダに町のカフェに連れて行ってもらうんだろう? 遅刻するぞ】

 スモアのその言葉を聞いて、私はがばっと飛び起きた。

【そうだった! 早く準備しないと! と、その前に……おはようスモア!】

【おはようメイ】

 毎朝私は、目が覚めるとスモアを思い切り抱きしめる。朝から極上のもふもふを独り占めできるのは私にとって至福の時間だ。これをすることで、今日も一日がんばろうとさえ思える。

 スモアと従魔の契約をしてから、新しい発見があった。スモアと会話をする時、私は声に出さず、心の中でスモアと会話ができるということだ。主従の関係を結んだので、そういったことが可能になったみたい。たまにくせで声に出して返事をしてしまう時もあるけれど、今から慣れていくだろう。

【スモア、私は朝ごはんの準備をするから、フレディを起こしてきてくれる? 多分まだ、ぐっすり眠ってると思うから】

【……メイの頼みならば仕方ない。承知した】

 あまり乗り気ではなさそうだったが、スモアは屋根裏部屋から飛び降りてフレディの部屋へと向かった。

 顔を洗い歯を磨いて、朝食の準備をしていると、フレディの部屋から叫び声が聞こえてきた。

「スモアっ! やめろ! 起きるから!」

 なにやらバタバタと騒がしい音もする。これも日常茶飯事だ。ふたりがちょっと激しいじゃれ合いをしているうちに、私は出来立てのチーズオムレツをテーブルに並べた。あとは昨日の残りのクリームシチューと、クロワッサンを置いて完成だ。

 朝食の準備が終わったので、そろそろふたりの様子を見に行こうと思ったら、部屋からやけに衣服の乱れたフレディが出てきた。……無駄にセクシーで目のやり場に困る。

「……はぁ。どうしてスモアはもっと優しく起こしてくれないんだ。いつも体の上に思い切りのしかかって暴れるもんだから、毎朝ボロボロだよ」

 私のことは優しく起こすスモアだが、フレディにはそうもいかないようだ。というのも、ここ数日スモアと一緒に過ごして気づいたことがある。スモアはかなりのやきもちやきで、私がフレディと仲良くしているといつも嫉妬心を露わにしている。何百年も生きてきて、初めてできた主である私のことを、スモアはとっても好いてくれているようだ。

「たまには前みたいにメイに起こされたいなぁ」

【ふざけたことを言うな! それにお前のほうがずっと大人なのに、メイにばかり家のことを任せるな!】

 フレディにはスモアの怒りの声が聞こえない。スモアは体で怒りを表現するように、後ろからフレディに突進した。フレディは痛そうに背中を抑え悶えている。

「スモア、人間を傷つけたらだめなんじゃなかったのか!?」

【今はメイがオレの絶対的主だ。昔の約束の効力は消えている】

「もうその約束の効力はないって言ってるよ。……スモア、あんまりフレディをいじめたらだめだよ」

 スモアに軽く注意をすると、スモアは私がフレディを庇ったことに拗ねてしまった。こういう時は秘策がある。

 私はスモアに抱き着くと大きな体を仰向けにし、お腹をさすった。こうすると、スモアの機嫌は一気によくなる。

「ふふっ! じゃあみんなで朝ごはんにしよう!」

 騒がしい朝の一幕が一旦落ち着いたところで、私たちは仲良く朝食をとった。


 朝食後、フレディはギルドへ向かい、私はスモアと一緒にミランダさんとの待ち合わせ場所へ向かった。先日ギルドでミランダさんに会った時、ミランダさんから〝メイちゃんとお茶したい〟とのお誘いを受けたのだ。女性としても、聖女としても憧れの相手であるミランダさんのお誘いに、私は二つ返事で快諾した。

町の時計台の前に、レースがふんだんにあしらわれた真っ白のワンピースを着たミランダさんが立っていた。

「ミランダさん、お待たせ!」

「メイちゃん! 今日はよろしくね。スモアもこんにちは」

「こちらこそよろしくです!」

「じゃあ早速行きましょう。カフェはすぐそこだから」

 ミランダさんお気に入りという町のカフェに行き、私たちは向かい合って席に座った。スモアは私の足元に丸まり、おとなしくしている。

 メニューはどれもおいしそうで悩んだが、ミランダさんのおすすめというフルーツパフェを頼むことにした。町の青果店で仕入れた果物をふんだんに使ったいちばんの人気メニューで、使う果物は日によって変わると言うお楽しみ要素まであるそう。

「うわぁっ! 美味しそう……!」

 運ばれてきたパフェを見て、自然とそんな言葉が出てくるほど。旬の果物をふんだんに使われたパフェは、盛り付けもかわいらしく女子ウケ間違いなしだ。今日のパフェは桃が多めに使われていて、桃が好きな私にとっては大当たりだ。スモアにも分けてあげようっと。

「私、今日が待ち遠しかったの。こういうの久しぶりだから。女子会っていうのかしら」

 パフェを頬張りながら、ミランダさんは言う。女子会といっても、相手がこんな年の離れた幼女で申し訳ない。中身は大人だからと言えたらどんなに楽か。

「私もミランダさんとゆっくりおしゃべりできてうれしい! いつも邪魔が入って中断しちゃうから」

「邪魔って?」

「フレディとかマレユスさんとか。あのふたり、ミランダさんを見ると緊張してうまく話せないの。だからいつもむすっとしてるけど、照れているだけだから気を悪くしないでね」

 そう言って桃にかぶりついていると、ミランダさんがくすくすと笑いだした。

「メイちゃん、それは多分違うと思うわ」

「違うって?」

「あのふたりはね、私が来ると大好きなメイちゃんを私にとられるから嫉妬してるのよ。私のことなんてどうとも思ってないわ。……ついでに、そこの魔獣の彼もね」

 私から分けてもらった桃を美味しそうに食べているスモアを見ながら、ミランダさんはにこりと笑う。スモアはぎくりとした反応をした。

「もちろん私もメイちゃんとの時間を譲る気はないから、見て見ぬふりをしてるんだけどね」

 そうだったのか。全然気づかなかった。ミランダさんの言っていることが本当なのだとしたら――。

「どっちが子供なんだか」

 ぽろっと本音が漏れる。すると、ミランダさんは小さな口を大きく開いて大笑いした。

「ふふふっ! 本当にね! 逆にメイちゃんが大人すぎるのかも」

「それは……よく言われる」

 子供なのは見た目だけで、マレユスさんなんかは実際私より年下だし。

「きっとみんな心配なのよ。大事なメイちゃんが自分以外の人になにかされないか。嫉妬だけじゃなくそれもあると思うわ」

 みんなが過保護で心配性なのは、もう嫌というほどわかっている。今日もスモアが一緒じゃなければ、確実にフレディかマレユスさんが着いて来て、こんな穏やかな女子会にはならなかっただろう。

「仲間に愛されてるわね。メイちゃん」

 できればもう少し、愛が軽くなることを願いたい。

「……あ、そういえばミランダさん」

「うん? なあに?」

 〝仲間〟と聞いて、私はあることを思い出した。

「グレッグとはあの後会ったの?」

 そう聞くと、ミランダさんのパフェを食べる手が止まった。

「……ええ。ギルドを去る前に、最後に一度だけ」

「どんな様子だった? 私たち、また恨まれてないかな」

 私はずっとそのことが気がかりだった。グレッグの悪だくみも失敗に終わったし、私たちの報告のせいでギルドを追放になったわけだし。またなにかの形で報復しにこられるのではないかと、頭の片隅でいつも思っていた。

「安心して。あそこまで追い詰めたのに魔獣を仲間にして戻ってきたことを聞いて、グレッグ、すっかり戦意喪失してた。彼なりにやっと気づいたんだと思う。メイちゃんたちは自分より遥かにすごいんだってこと」

 つまり、グレッグはもう私たちに手出しはしないってことか。よかった。これで悩みがひとつ解消された。

「それに、もうこの町からも出たようだし、関わってこないと思うわ」

「町を出たの!?」

「あんなことがあったんだもの。噂も広まっているし、グレッグの印象はギルドのみならず町全体で最悪だから。今頃また懲りずにどこかのギルドに入って、新しい仲間を募って、悪知恵を働かせてるんじゃないかしら」

 窓の外を眺めるミランダさんの横顔は、どこか寂しそうに見えた。

「ミランダさん、最後までグレッグのこと気にかけてたよね」

「まぁ、あんなのでも一緒にやってきた仲間だったから。仲良しなパーティーってより、みんな互いの能力を利用し合ってるだけだったけど、それでも仲間だったから」

「……仲間」

「メイちゃんはすごくいい仲間に恵まれてるわ。今の仲間を一生大事にしてあげて。……あーあ。私もそんな仲間に出会いたかったなぁ。あんな最低最悪なリーダーじゃなくて」

 たしかに、ミランダさんのいたパーティーはよくなかった。グレッグも、最低最悪なやつだったと私も思う。でも――。

「私がほとんど記憶もなくここへ来た時に、グレッグが私を見つけてくれてすごく安心したの。私に近づいた目的がなんにせよ、そのことについてはありがとうって今も思ってるよ」

「……メイちゃんは優しいのね。その言葉、グレッグに聞かせたかった。聞いたところで、なにかが変わるとは思わないけどね。あいつ、性格ひん曲がってるから」

 皮肉まじりに苦笑するミランダさんを見て、ミランダさんは仲間として、グレッグのことを本当は今も心配していることが伝わってきた。仲間と絆というのは一度壊れても、当人にしかわからないところで、思ったより深く繋がっているのかもしれない。

【仲間というのはむずかしいな。オレもこれから、仲間とはなにかをメイと一緒に知っていきたい】

【うん。そうだね】

 黙って会話を聞いていたスモアが話しかけてきたので、心の中で返事をした。

 パフェを食べ終わり、ミランダさんは王都へ戻る時間になった。楽しい女子会は、これにてお開きのよう。

「今日はありがとうメイちゃん。すごくいい時間だったわ。また誘ってもいい?」

「ぜひ! またギルドにも絶対遊びにきてね!」

 ミランダさんと手を振り合って、私たちは別方向へと歩き出した。


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