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【続】

本日は、ジェズアルドとフィオレンツァの模様をお伝えしまーす。














「動物園に行かないか。二人で」


 その一言を発するのに、ジェズアルドは一年分の勇気を振り絞ったと思う。少なくとも幼馴染の双子の片割れは「ジェズにしては頑張ったわね」と笑って言った。いや、馬鹿にされたのか? だが、幼馴染の性格上、それはないと思う。

 幼馴染の双子、フィオレンツァとベアトリーチェ。領地が隣同士で、幼いころかよく一緒に遊んだ。その二人の、フィオレンツァが好きだった。本人には通じていなかったが、双子の姉の方、ベアトリーチェは察していて、微笑ましそうに見られたことが何度かある。


 そのベアトリーチェに恋人ができた。大学に実習に来ていた時に出会った近衛騎士だ。足が不自由なベアトリーチェは自分が恋をする姿がうまく想像できないのだ、と言っていた。

 その彼女に恋人ができた。その姿はちゃんと恋する少女だった。大学の学生たちがあれるだろうな、とジェズアルドは遠い目をした。ベアトリーチェは結構モテる。車椅子だから貴族の社交が難しいと言う欠点もあるにはあるが、それを補うくらいには性格がいい。愛想もいいし、しかも美人だ。しかし、ベアトリーチェ自身は自分がそれなりにモテると言うことに気づいていないようだった。


 そうなると、フィオレンツァがジェズアルドの好意に気づかなかったのも不思議ではない話なのだろうか。双子そろって自分への好意に鈍いところがあるらしい。

 無事にフィオレンツァを誘えたジェズアルドだが、彼女はからりと笑って「ビーチェも誘っておくよ」と言った。違う。そうじゃない。

「俺は、フィオと二人で行きたいんだ」

「なんで?」

 すぐそばでレナートと二人で出かけるベアトリーチェを見て察せないらしい。やけくそでジェズアルドは叫んだ。


「お前のことが好きだからだよ!」

「えっ」


 その驚いた表情で見上げられた。自分の顔が熱い。きっと赤くなっているだろう。フィオレンツァもじわじわと頬を赤くする。

「そ、そうなんだ……考えて、みる」

「う、うん」

 どうやら全く脈なしでもないらしい。帰ったらフィオレンツァはベアトリーチェに相談するのだろうな、と思いつつ、ベアトリーチェならフィオレンツァの背中を押してくれるだろうと思う。たぶん……。


 フィオレンツァから返事が来た。簡潔に言うと、はい、という内容にジェズアルドは内心舞い上がる。これで断られていたら、憤死した自信がある。

 約束の日、ラ・フェルリータ伯爵家まで迎えに行く。ラ・フェルリータ伯爵夫人ににやにやと見つめられたが、いつも通り車椅子のベアトリーチェに、大丈夫よ、とばかりに手を振られたので信じることにする。

「い、行こう。フィオ」

「う、うん」

 ぎこちなさを見せたままジェズアルドはフィオレンツァの手を取って歩き出した。伯爵夫人の「気を付けてね~」という声が聞こえてくる。少々不安はあるが、ベアトリーチェが残っているので大丈夫だろう。

「あの、母がごめん……ビーチェがいるから変なことはしないと思うんだけど」

「ああ、うん。そうだね……」

 ベアトリーチェに対する信頼がすごい。いや、ジェズアルドも同じことを思ったけれども。


 そのベアトリーチェが送り出してくれたのだ。何とかこのデートを完遂しなければ、とジェズアルドは思うが、何より緊張が先立つ。それはフィオレンツァも同じようで、馬車の中には沈黙が降りていた。世の男女は、こういう時何を話すのだろうか。

 というか、いつもはくだらない話ができていた気がする。なのに、好きだと告げた瞬間、何も言えなくなってしまった。何を話せばいいのだろう。


 そのまま動物園についた。弟妹達には「動物園?(笑)」みたいな反応をされたが、フィオレンツァは動物が好きだ。実際、楽しんでいるように見える。馬車の中ではこわばっていた表情も和らいでいる。

「ジェズ、こっち! ライオンを見てこよう!」

「え、うん」

 引っ張られて駆け出す。小さいころからこのおてんばは治らない。まあ、そんなところが好きなのだが。

「うわあ。初めて見た!」

「俺も」

 フィオレンツァがライオンに餌をやりたいと騒ぐので人目を引いていたが、結構楽しんだのではないだろうか。餌やりは結局できなかった。

 こんなにはしゃいでいるフィオレンツァを見るのは、実は初めてかもしれない。いつもはベアトリーチェが一緒なので、彼女を気遣っているのだろう。ベアトリーチェも自分がいるとフィオレンツァが気を遣うことをわかっているから、快く送り出してくれたのだ。尤も、ベアトリーチェに関して言えば、気を遣うな、という方が無理がある。


「楽しかった。誘ってくれてありがとう」


 朗らかにフィオレンツァに言われ、ジェズアルドは自分が赤くなったのを自覚した。フィオレンツァが瞬きする。小首をかしげてジェズアルドの顔を覗き込んできた。

「な、なんだ」

「ううん……本当にあたしのことが好きなんだなってびっくりしたの」

「……」

 今更そこを確認されるレベルなのか……と思ったが、こういうのは第三者が見るほうがよくわかるらしい。フィオレンツァはレナートのベアトリーチェへの思いに気づいていたので、全く勘が悪いわけでもないのだ。

「……当たり前だろ……」

 赤い顔のまま小さな声で言うと、フィオレンツァは笑って、うん、とうなずいた。ジェズアルドの手をつかむ。


「ちょ……」

「ねえ。あたしもジェズのことは好きだよ」

 そう言われて舞い上がりそうになったが、たぶん、そうではなくて。

「友達としてってことだろ……」

「うーん。どうだろう」

「え?」

 少し悩むようなそぶりを見せてフィオレンツァは首を傾げた。その頬はかすかに赤い。

「だって、ジェズがほかの女の人と二人で出かけていたら……嫌だもの」

「えっ」

 ちょっとすねたようなフィオレンツァの言葉に、ジェズアルドは反射的にフィオレンツァの手を握った。このあたりでベアトリーチェのツッコミが欲しいが、残念ながら彼女はいない。フィオレンツァが羞恥からうつむく。

「だっ、だから……また誘ってくれると嬉しい……」

「うん……うん!」

 ジェズアルドはこくこくとうなずいた。この返事を引き出せただけでも、誘った甲斐がある。

「あと……あたしが行きたいところにも連れて行ってくれる?」

「も、もちろん」

 往来でそんな会話をしているので人目がすごいが、二人とも気づいていなかった。そして、双方から相談されたベアトリーチェが、笑顔のままキレたが、そんなことなど二人は知る由もないのだった。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

これでホントの最終話です! ありがとうございました!

そういえばこいつらのフラグを回収してないな、と思い至り、書きました。幼馴染から恋人になるってどんな感じだろう……某見た目は子供頭脳は大人な名探偵の話の、しん〇ち君とら〇ちゃん!ほどではありませんが、感覚的にはそんな感じかな、と思って書きました。全然違うけど…。


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