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リビュア王国で一番可愛いメイド

闇の中をヒルコは浮遊している。


暗い闇の底では、青い光を放つ巨神が拘束されていた。巨神の身体は邪な文字と呼ばれる異界の国の文字で構成されていた。邪な文字は闇の中で青い光を放っている。『邪な言葉を操る神』だ。


周囲には憎悪が、怨恨が、殺意が溢れていた。


「何故あの時、『蛭子』は俺の助けに応じてくれたんですか?」


先日、『神器』を持ったアレンとの闘いを振り返った。正直なところ、不出来な化身(アヴァターラ)であるヒルコ個人の力ではアレンに勝利することはできなかっただろう。ヒルコの能力は邪な文字を操り、ささやかな強化と弱体化をかけるものだ。効果時間も3分前後と短い。拙い支援系統の能力だ。


パワー系であるアレンの『神器』に勝ち目がないと悟り、一か八かの思いで本体である『邪な言葉を操る神』に助けを求めた。


「いつもは、無視するのに」


恨みがましくヒルコは呟いた。


『邪な言葉を操る神』は黙ってヒルコを見上げていた。


ヒルコはため息を吐いた。


「たまたま封印が緩んだって説が有力ですかね? だとしたら何故、封印が緩んだんですかね?」


沈黙する『邪な言葉を操る神』を前に、独り言のように疑問を投げかける。


『ワガ『ジンキ』ヲサガセ』


闇の底から声が響いた。


『ソシテ、エラブノダ。『ジンキ』二、フサワシイ、ニンゲン、ヲ』


一方的に『邪な言葉を操る神』が告げた。


その言葉を最後に、ヒルコは意識が遠のいていくのを感じた。





目を覚ますと見慣れぬ天井があった。フカフカのベットから上体を起こして、異変に気付いた。


「あれ?」


同じベットの上、隣でラミアが眠っていた。


ここはリミュア王城のラミアの部屋。昨日、ヒルコは床で眠っていたはずなのにと首を傾げた。


「うーん。もう、朝?」


寝ぼけ眼でラミアがヒルコを見上げた。


「あら、おはよう。ヒルコ」


「おはようございます。あの、何で俺もベットで眠っているんですか?」


「私がここまで運んだから」


「どうして?」


「床で寝るなんて可哀そうだと思って」


「いやいやいや、俺は男でご主人様は女なんです。もしも誰かにばれたら」


「大丈夫、大丈夫。だって、貴方のことは、私のメイドってことになってるから。それに今の貴方を見ても、誰も男だと思わないわ」


そう言ってラミアは笑った。


ヒルコは現在、メイドの服を着させられていた。黒を基調としたメイド服で、スカートは足首までと長めになっている。


もともと中性的というよりも女顔のヒルコ。身体も男にしては華奢だった。髪も奴隷のため頻繁に切る習慣もなく、女のように長かった。


ラミアによって髪を整えられ、女性用の衣服を身に付ければどこからどう見ても少女に見えた。というよりもそこら辺の子よりも華憐だった。


ため息を吐くヒルコの頭をよしよしとラミアが撫でた。


「しょうがないじゃない。女王の私が奴隷の男の子と一緒に行動していたら、変な噂が立ってしまうもの」


もともとラミアは王城内で冷遇されている。専属の使用人もいない。故に、彼女は自分自身で付き人を探すしかなかった。信頼でき、護衛も任せられる人間。できれば周りから邪推されないよう女性が良かったが。


「貴方を一目見て、女装させたらきっと可愛くなるだろうなって思っていたの。私の目に狂いはなかった。だって今の貴方はこの国で一番可愛いもの」


自信満々に頷くラミアに、ヒルコは愕然とした。


「そんな理由で俺は買われたのか」


顔を覆いヒルコがシクシクと泣き出す。


「もう嫌だ。こんな生活」


奴隷になれば、辛い生活がまっていると覚悟はしていた。しかし、予想よりも斜め上の辛い生活にヒルコは音を上げそうになっていた。


「何だかお腹が減ってしまったわ。着替えて食堂に行きましょうか」


そう言ってラミアが着替えだした。


ヒルコは顔を背ける。できれば部屋を出ていきたいが、部屋の外はヒルコに対して好意的ではないため、仕方なく主人の身支度が整うのを待つ。


ヒルコは寝巻まで女性用のものを着ることに抵抗があった。かといって誰かが突然、ラミアの部屋に入って来る可能性も低いがゼロではない。そのため、彼は常にメイド服を着る羽目になっていた。


「さて、今日もご機嫌に、出かけるとしましょう」


ラミアが嫣然と笑いながら言った。

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