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獣の神の化身

大広間には大量の死体が転がっていた。『蛭子』の青い腕が現れた瞬間、邪な文字の呪いの力が跳ね上がり、ヒルコとラミア以外の人間は絶命してしまっていた。


「派手にやったな」


死屍累々の空間で、声が響いた。


ヒルコとラミアが振り向く。


そこには一匹の白い犬がいた。白い犬は目を細めてヒルコを見つめていた。


「この挨拶で良いのか分からんが、久しぶり。俺様は獣の神『フェンリル』の化身(アヴァターラ)。名前は不要故、無い」


白い犬が喋った。


ヒルコは眼を細めた。


「『蛭子』を封印した神々の化身(アヴァターラ)か。よくもまぁ、俺の前に姿を現せられるな」


犬はやれやれと首を振った。


「俺様は、お前の封印に何の関与もしてないよ。俺様は獣の神。人間にも神々にも興味はない。お前がどれだけ人間に慕われても、お前に嫉妬する理由などない」


「俺に、お前の言葉を信じろと?」


「別に、信じろとは言わない。確かに、俺様はお前が封印されることに興味の一つもわかず、封印に反対しなかった。お前からしたら復讐対象なのかもな。まぁ、俺様はお前にどう思われてもかまわないが」


「……」


「何だったら、俺様を殺しに来てもいいぜ。今のお前に余力があるならな」


ヒルコは黙り込んでいた。


犬はため息をついた。


「悪い。冗談だ。今日はただ、久方ぶりに俺様の『神器』の様子を見に来ただけだ。俺様の『神器』を悪用して妙なことをしているって噂を聞いたから。お前に俺の仕事を奪われちまったがなぁ」


犬はアレンの残骸を見つめた。


「こいつの祖先は動物に優しい良い奴だった。こういう人間もいるんだなぁって感動して『神器』をくれてやったんだけど。やっぱり人間は駄目だなぁ」


トコトコと歩いて、『真神の毛皮』を見下ろす。


「獣の生き方はシンプルだ。喰うために生きている。でもお前達人間は、よく分らんことに情熱を注ぐ。そもそもどうしてこんなに無駄にでかい屋敷を造るんだ? 料理もそうだ。何でわざわざ僅かな味の違いを出すために無駄に時間を費やす? アレンも美味い人肉を育てるため、奴隷に様々な工夫をして飼育していたと聞いた。よく分らんな」


その言葉はラミアに向けて言っていた。


ラミアは何も答えられなかった。


「まぁ、よい。今回は俺様のミスだ。尻拭いは俺様がしてやろう。安心しろリビュア王国の第四王女よ」


犬は『真神の毛皮』を咥えた。


歩き出す犬にヒルコは声をかけた。


「お前が、最近噂になっている化身(アヴァターラ)なのか?」


「最近、噂になっている化身(アヴァターラ)? あぁ、そういえばベール村で新しい『神器』を授けた化身(アヴァターラ)がいたらしいな。そいつは俺様じゃねぇよ。俺様は獣にしか興味はない。他の奴だろう」


「そうか」


「『邪な言葉を操る神』よ。あまり派手に動かない方が良いぞ。多くの神々はお前を恐れているのだから。お前は今、封印されているのだろう? あの頃のように力は使えまい」


「お前は『蛭子』の封印を解く方法を知っているか?」


「悪いが、専門外だ。というか、多くの神々が協力して創った封印だ。解き方なんて検討もつかんよ。敢えて言わせてもらう。封印を解くのは諦めるのが賢明だ。その方が、化身(アヴァターラ)の『お前』は楽に有意義な生を残せるだろう」


忠告を残して、犬は走り去った。


その後ろ姿を見つめながら、ヒルコは「それでも、諦める訳にはいかないんだ」と呟いた。


「あの喋る犬は化身(アヴァターラ)と言ってたけど、ヒルコの知り合い?」


ラミアが訊ねた。


ヒルコは首を振る。


「俺の知り合いではないです。『邪な言葉を操る神』の知り合いでしょう」


「そう。何というか辛辣な方ね」


「まぁね。口が悪いけど、性格は悪くない。『邪な言葉を操る神』の数少ない友だった」











翌日後、リビュア王国に衝撃的な知らせが広がった。


化身(アヴァターラ)がリビュア王城へ姿を現したのだ。美しい銀色の巨狼に国民は皆、見惚れた。銀色の巨狼は、人食いアレンの非道な行いを白日のもとに晒した。


アレン伯爵は人肉を食すのを好み、密かに奴隷を殺し食べていることを知り、『神器』を所有する資格が無いと、伯爵とその関係者を大粛清した、と。


非道なアレンを喰い殺したことを告げ、今後は人間に『神器』を与えないと獣の神の化身(アヴァターラ)は宣言した。


それから化身(アヴァターラ)はたまたま現場で出会ったリビュア王国の第四王女とその奴隷を褒め称えた。


『王女と奴隷は人食いアレンに果敢に立ち向かった。彼女達のおかげでスムーズに仕事をすることができた。リビュア王よ。立派な娘を持ったな』


滅多に聞くことのできない化身(アヴァターラ)の称賛で、忌み子と呼ばれた少女に国民の関心が集まった。


第四王女の話題で盛り上がる国民達を王妃は唇を噛みしめて見ていた。





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