迷宮の中
迷宮ラビリュントスの中へとヒルコ、ラミア、ゴルゴーン、アリアドネ、オトヒメ達5人は足を踏み入れた。
「建物の中なのに空があるわね」
煌々と光り輝く、星空が真上に広がっていた。ラビリュントスの外は昼だったのに、中は夜の光景が広がっていた。
地面には草が生えている。周囲に目立った建物はない。ところどころに背の高い木が生えている。
夜の草原をヒルコ達はアリアドネの案内のもと歩いている。
「じ、実を言うと、このラビリュントスこそがアタシの『神器』なんです」
アリアドネが言った。
「へぇ。どんな力があるの?」
ラミアが訊ねた。
「あ、亜空間を造るだけの神器です。み、ミノタウロス様が好む亜空間を造るのが、アタシの仕事なんです。ふ、普段はモンスターを配置したりするんです」
雑談をしながら、進んでいくと複数の人影が見えてきた。
「ニャはははは。ここは通さないニャ」
獣人の女マダラグーチが言った。彼女の後にも10人の女がいる。
「はぁ、やっぱりこうなりますか」
アリアドネがため息を吐いた。
「知っているニャ。そいつは『邪な言葉を操る神』の『化身』だニャ。そんな危険な奴をミノタウロス様に近づけてはいけないニャ」
マダラグーチがヒルコを指さす。
「ですが、これはミノタウロス様のご意思です」
「それでもだニャ」
「貴女方も同じ考えですか?」
マダラグーチの背後に集まる10人の女達に問う。彼女達も全員がミノタウロスの『使徒』だった。
集まった『使徒』は首肯した。
瞬間、無数の青い光が浮かび上がる。その青い光こそが邪な言葉。
「邪魔する者は、殺す」
目を赤く輝かせたヒルコが呟いた。『邪な言葉を操る神』に操られ、ヒルコが剣を抜き走り出す。
邪な言葉によって弱体化したマダラグーチへと斬りかかった。
「それでも遅いニャ」
マダラグーチから電気が生まれる。そして黄色い閃光を残して、消え去った。
「これが私の『神器』。電気を発生させることができる武器だニャ。まぁ、私は身体強化に使ってるけど、電撃を飛ばすこともできるニャ」
距離を取ったマダラグーチがペンダントを見せつけた。
他の『使徒』もマダラグーチと同じ『神器』を持っていた。
『使徒』達が電撃を造り出し、ヒルコへと放つ。ヒルコは即座に反応して電撃を避ける。
「隙ありだニャ」
雷光を放ちながら、いつの間にかマダラグーチが距離を詰めていた。鋭い爪でヒルコを切り裂こうと振りかぶる。
「ニャ?」
ゴルゴーンが剣を振りかぶり、マダラグーチへと振り下ろす。
間一髪でマダラグーチは避ける。
「お前も、『邪な言葉を操る神』の仲間なのかニャ?」
「その神のことは詳しく知らない。だが、ヒルコは友人だ。友人を助けるのは当然だろう」
「ふむ。では、お前も殺すことにするニャ。お前もなかなかやるようだけど、私のスピードには追い付けないニャ」
ゴルゴーンとヒルコへ『使徒』達からの電撃が放たれていた。
『【鏡盾】』
どこからか男の声が響く。
二人に直撃する瞬間、巨大な鏡が現れる。
鏡は電撃を反射し、『使徒』2名に直撃した。
『ゴルゴーンよ。ピンチの時に唱えろと言った言葉を忘れたか?』
ゴルゴーンの剣にボロボロの布を纏った男の姿が映し出される。その姿はかつてカスレフティスと呼ばれた男のものだった。それを見てゴルゴーンが驚く。
「先生」
『先生はもういないよ。俺は『魔鏡』。それよりも早く唱えろ』
「カスレフティスよ。カスレフティス。一番強いのは誰だ?」
『ゴルゴーンだ』
ゴルゴーンから青い光が放たれる。
『魔鏡』による【狂化】の光だ。
ゴルゴーンの身体能力が跳ね上がる。
邪な言葉による身体強化の恩恵と、【狂化】を付与されたゴルゴーンがマダラグーチへと突撃する。
「ニャ? 急に早くなったニャ。でも、まだ私の方が早いニャ」
ゴルゴーンの攻撃を避けながらまだ余裕のある笑みを浮かべていた。
『【鏡盾】』
再び男の声が響き、ゴルゴーンの背後に鏡の盾が現れた。
ゴルゴーンは鏡を足場にして割れるほど強く蹴り上げた。反射の勢いによってゴルゴーンは弾丸の如く発射された。
一瞬ではあるが、ゴルゴーンはマダラグーチの速さを超える。ゴルゴーンの剣がマダラグーチを捉えた。
「ニャ?」
ゴルゴーンに斬られマダラグーチが倒れた。
それを見届け、ヒルコは残りの使徒へと走り出す。
『使徒』達は電撃を放ち続けるが、ヒルコは避け続けた。
「ボクも手伝うよ」
オトヒメはそう言って、長い筒を二本取り出した。それは銃だった。
「それは何?」
ラミアが訊く。
「ボクの国の武器だよ」
銃声が轟く。弾丸は見事『使徒』にあたり、また二人倒れていく。
「麻酔銃だから安心してね」
そう言ってオトヒメは再び銃を放つ。
見たこともない攻撃に『使徒』達が慌てているところに、ヒルコが接近して残りの『使徒』も先頭不能にした。
「おいおい、何やら騒がしいと思って来てみれば、変なことになってんなぁ」
牛の面を被った男がヒルコの目の前に現れた。
「ミノタウロス様」
アリアドネが叫ぶ。
「あぁ、アリアドネ。ご苦労だったなぁ。そんでお前が『邪な言葉を操る神』の『化身』か?」
ミノタウロスがヒルコを見る。
「何だよ、何だよ。『化身』と話せると思って楽しみにしてたのに。ただの人形じゃねぇか。つまんねぇの」
いつの間にかミノタウロスの手に斧が握られていた。
そして気づけば、ヒルコはその斧で斬られていた。




