冒険者の少女
「許せない。許せない。許せない。ノルン姉様に言ってクレタと戦争するしかないわ」
ラミアは椅子に座り、暗い瞳でブツブツ呟いている。
「も、申し訳ありません」
アリアドネがラミアに向かって土下座している。場所は再びホテルのロビー。
ヒルコ達はホテルに戻った。彼は浴場で彼の身体を洗い、替えのメイド服へと着替えて、ラミアの隣に座っている。
「獣人の中には、尿をかける行為で求愛行動をする習慣がある。私のヒルコに何てことをしてくれたのよ。あの泥棒猫」
「落ち着け、ラミア。確かに、異性同士ではそういう行為すると聞くが、ヒルコは女だろう?」
ヒルコが女であると思っているゴルゴーンがラミアを窘めようとしている。珍しい光景だ。
「ほ、本当に申し訳ありません。後で、マダラグーチを連れてきます。に、煮るなり、焼くなりしていいですから、どうか戦争だけは勘弁してください」
「ええ、そうね。あの様子だと、どうせまた私達の邪魔をしに来るのでしょう。その時に、相応の罰を与えることにしましょう。ええ、そうしましょう」
ラミアはようやく落ち着いたのか、晴れ晴れとした表情をヒルコに向ける。
「それでは、さっそくラビリュントスへ向かいましょう」
ヒルコの手を取って歩き出す。ゴルゴーン、アリアドネが続く。
「あれ? もしかして夷川君?」
ホテルを出て大通りを歩いていると、後から声をかけられた。
咄嗟に、ヒルコの身体が反応する。
目の前には黒髪黒目の少女が立っていた。
「うちのヒルコに何か用?」
警戒するような口調でラミアが少女に言う。
「ヒルコ?」
少女が小首を傾げた。
「ええ、そうよ。この子の名はヒルコ。私の奴隷」
「ふーん。そっか。知り合いに似ていたから声をかけちゃった」
「何よ。アンタも『使徒』なの?」
「違うよ。ボクはしがない冒険者さ。名前はウラシマ オトヒメ。オトヒメって呼んでほしいな」
「オトヒメねぇ」
ジロジロとラミアがオトヒメを観察する。
「君達はラビリュントスに向かっているのかい? 実はボクもラビリュントスに向かっているところなんだ。良かったら一緒に行かないかい?」
オトヒメが手を出した。
ラミアは「ふーん」と呟いた後、頷いた。
「良いわ。一緒に行きましょう。貴女、強そうだし」
そう言ってラミアは手を握った。




