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奴隷の少年ヒルコ

ある奴隷が、檻の隅で膝を抱えて座っていた。


奴隷の名はヒルコ。黒い髪に赤い瞳を持つ15歳くらいの華奢な少年だ。商品として檻に閉じ込められ、買い手を待つ日々を過ごしている。


「どうして売れないんだろう?」


檻の外、奴隷屋の従業員がヒルコを見下ろしながら、首を傾げた。従業員はマルコという名の男で、名前が似ているという理由でヒルコに頻繁に声をかけてくるようになった。


「貴方たちの営業が弱いからじゃないですか?」


ヒルコが答えた。


マルコは苦笑した。


「そこを突かれると痛いなぁ。でも、考えてみると、君は高額だからね。なかなか奴隷にそんなにお金をかけるお客さんを見つけるのが難しいんだ」


「俺は早く外に出たいんです。頑張ってください」


「やっぱり、君は変な奴隷だなぁ。普通の奴隷は、買われたくないって思うはずなのに」


確かに今の環境は悪くない。美味しいご飯が三食ついて、安心して寝る場所がある。そして、奴隷の主人がどんな奴になるかも分からない。だが、ヒルコは外に出てしなければならないことがあった。


「なぁ、それよりも面白い噂があるんだ」


マルコが檻に顔を近づけ、言った。


化身(アヴァターラ)がリビュア王国にやって来たらしい」


化身(アヴァターラ)が? どうして分かったんですか? 彼らは身を隠して世界を見守る存在のはずじゃ?」


ヒルコが疑問を呈した。化身(アヴァターラ)とは神の生まれ変わり。この世界のどこかでひっそりと人々を見守っていると噂されている。


「とある村で新しく、『神器』を授かった奴が出たからだ」


「あぁ、なるほど」


ヒルコは納得した。


化身(アヴァターラ)は世界を見守る存在ではあるが、ただ見ているだけではない。彼らのお眼鏡に適った者には、不思議な力を持つ『神器』を与えるのも役目だ。


「もしかしたら、まだ近くに化身(アヴァターラ)がいるかもしれない。ひょっとしたら俺も化身(アヴァターラ)に選ばれて『神器』をもらえるかもしれない」


興奮気味にマルコが喋る。ヒルコは苦笑しながら聞いていた。


二人が駄弁っていると、女と少女がやって来た。


女は奴隷屋の主人リリス。赤い髪が特徴的な20代半ばくらいの年齢だろう。リリスは奴隷の首輪と呼ばれる特殊な魔道具を作成する『神器』を所有していた。


もう一方の少女は客のようだった。銀色の長髪、青い瞳、この国では珍しい褐色の肌の美しい少女。年齢はヒルコと同じくらいだろう。


リリスが営業スマイルを張り付け、少女をヒルコの前まで案内した。


「この子はどうでしょうか?」


リリスがヒルコを紹介する。


「この子の名はヒルコ。会話ができ、読み書きもでき、腕が立ち、見栄えも悪くないと思うのですが」


少女はしげしげとヒルコを見つめた。


ヒルコは気まずそうな表情で少女を見つめ返した。


しばしの沈黙の後、少女は口を開いた。


「ねぇ、貴方は命を懸けて私を護ってくれるかしら?」


「ええ、まぁ、買ってくださるなら、頑張りますよ。俺は兎にも角にも早く外に出たい」


「そう。後悔しないでね」


少女はリリスへと視線を向け言った。


「ヒルコを買います」





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