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合わせ鏡

『呪うことしかできない僕は、呪いを誇り、呪いを畏れ、呪いを糧に生きてきた。誰かを呪って、誰かに呪われて、誰かを呪い返しての繰り返し。一族の呪いだけを背負っていたはずが、気付けば他の呪いも背負っている。他人から見れば呪いに振り回されただけの人生だろう。俯瞰的に見れば哀れな生き方だったんだろう。だけど、僕は満足しているよ。人を呪い殺した数は建国以来、一番だ。今後も僕以上の呪術師は人間の中では生まれないだろう。幼い頃から目標としていた日本一の呪術師になれたんだ。これは僕の自慢だ。でも、やっぱり』


時折、ヒルコが思い出す言葉。


遠い昔の曖昧模糊とした思い出。これはヒルコが『化身(アヴァターラ)』になる前の思い出。誰が言ったのか、どれだけ記憶を辿っても思い出せない。


『でもやっぱり、僕の呪いで誰かを救ったり、笑顔にしてみたかったなぁ。呪いにだって誰かを幸せにする力がある』


冗談めかしたような声が頭の中で響く。だけどそれは心の底から吐露したものだ。


そんな切実な想いを聞いても、ヒルコには何の感情も湧かない。その想いをヒルコは聞き流す。『邪な言葉を操る神』の言葉以外は、ヒルコに響かない。


『今度、生まれ変わったら僕の呪いで人を救いたい。僕の呪いを受け入れてくれる人を作りたい。それが僕の願いだ。この願いが叶うのなら、取引に応じよう。この身体も魂も好きに使ってよいよ。神の人形の材料が欲しいんだろ?』


頭の中で響く声を振り切って、ヒルコは神の『化身(アヴァターラ)』としての役割を果たすため、いつも通り『邪な言葉を操る神』の呪いに身を委ねる。


※※※※※※


邪な言葉が虚空に浮かび青い光を放つ。蛍のように舞う青い光の中で、瞳を赤く輝かせたヒルコの姿は神々しく、禍々しい。


化身(アヴァターラ)』の人知を超えた力を見ても、カスレフティスは臆せず吠える。


「人形風情が、俺様を見下した目でみるんじゃねぇ。確かに、俺様の『神器』は弱いさ。物理的な力は最弱。それでも、『魔鏡』の幻術はあらゆる『神器』の中でもトップクラスの力だ。コツコツと努力して築き上げて作った幻の力を見やがれ」


カスレフティスが言い放つと、騎士達が集まってきた。カスレスティスに洗脳された騎士達である。


「【心鏡】」とカスレスティスが言った。それは人の心を操り、暗示をかける術である。


「「「カスレフティスよ。カスレフティス。このっ国で一番強いのは誰だ?」」」


騎士達が声を揃える。全員が『魔鏡』と似通った手鏡を持っており、鏡が赤く光る。その手鏡はゴルゴーンが持っていた鏡と全く同じものだった。騎士達が狂化の赤い光を浴び、ヒルコに襲いかかる。


「邪な言葉よ。喰い尽くせ」


ヒルコは命じる。


邪な言葉が騎士を覆い、狂化の赤い光を喰らう。騎士達は洗脳を解かれると同時に、弱体化の呪いを受けた。多くの者は呪いに耐性が無く倒れ込んだ。


カスレフティスが何年もの時間を費やして植え付けた騎士達への洗脳が一瞬で解けていく。そして、カスレフティスが騎士達に渡した洗脳用の手鏡が一つ残らず割れていく。


カスレフティスは苦笑いを浮かべてから唐突に雑談でもするかのように訊ねた。


「なぁ、合わせ鏡をしたことがるか?」


ヒルコは答えない。


カスレフティスは鏡剣をいくつも作り、ヒルコへと射出した。『魔鏡』数少ない物理的攻撃手段。ヒルコは鏡剣に突進し、己の剣で鏡剣を叩き割る。


「二つの鏡を向かい合わせにすると、鏡を写す鏡の中にも鏡が写し返される。合わせ鏡によって鏡は無限に写し返され、鏡の中は途方もなく広がっていく。こんな風に」


ヒルコの間合いがカスレフティスを捉えたその時。


「【合わせ鏡】」


カスレフティスが術の名を唱える。四方八方に鏡が現れた。【合わせ鏡】は鏡の結界を周囲に造る術。肉薄していたヒルコは誘い込まれるように鏡の結界に閉じ込められた。


カスレスティスは再び鏡剣を射出する。鏡剣は向かい合う鏡にも写し出される。【合わせ鏡】の中で終わることなく鏡剣を映し返す。無限に増えた剣の鏡像。鏡剣が鏡から飛び出した。無限の剣がヒルコを襲う。鏡の結界内に逃げ場はない。


ヒルコが驚愕の表情を思わず浮かべる。


「これは俺の呪いじゃ防ぎきれない。本体の呪いじゃないと」


即座に覚悟を決め、最も力のある邪な言葉を使う。


【開】の意味を司る邪な言葉が虚空に舞い上がり、溶けるように消えた。


瞬間、空間に亀裂が入り、巨大な青い腕が飛び出した。封じられし邪神の腕である。


青い手は、ヒルコを掌で包んだ。無限の鏡剣が邪神の手へと降り掛かるも、傷一つ与えることなく衝突すると粉々に割れていく。


「【合わせ鏡】の中で、俺様は無敵のはずなんだがなぁ」


カスレフティスが呆れ気味に吐き捨てた。


「まぁ、良い。俺様の力を見せてやる。【鏡開き】」


【合わせ鏡】によって、無限に増えた鏡の中のカスレフティスの鏡像。その全てが赤い光となり、本体へと集う。赤い光はカスレフティスの上空に集い、赤い槌を造った。


『魔鏡』最大最強の術【鏡開き】。無限に映し出された己の鏡像を魔力に変換し、質量を伴った一つの虚像を造り出す。


「これは『神の王』が所有する武器『粉砕するもの』の虚像。『魔鏡』の中に残っていた『粉砕するもの』の記録をもとに俺様が無理やり造ったパチモンではあるが、人形を壊すくらいわけねぇだろ。叩き潰れちまいな」


カスレフティスは赤い槌を振り降ろす。


ヒルコを護る邪神の腕も動く。拳を握りしめて、砲弾のような勢いで打ち出される。


神話の中でも至高の武器と謳われる『粉砕するもの』の力を写し取った槌と、封印されていようと禍々しい呪いに満ちた『邪な言葉を操る神』の拳の衝突。


地が震え、大気が揺れた。


槌は赤い破片を散らしながら砕け散り、拳は青い光を撒き散らして霧散した。


「【心鏡】」


一瞬の隙を付き、カスレフティスが術を唱えた。


ヒルコの視線がカスレフティスの瞳に嵌め込まれた『魔鏡』に釘付けになった。邪な言葉の力を使いすぎて、『魔鏡』の幻術を振りほどく余裕がなかった。ヒルコの心の中にドロリと気持ち悪い何かが入り込んでくる。意識が遠のく。


「俺様の勝ちだ。あひゃひゃひゃ」


カスレフティスの哄笑が轟く。


『こんな呪いに負けてちゃ、誰も救えないよ。呪いで人を救う術を探すために、『蛭子』様と取引までして生まれ変わったってのにさ。このままじゃ僕と同じになっちゃうよ?』


薄れかける意識の中、揶揄うような声が聞こえた。





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