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プロローグ

夜は幼かった少女にとって幸せな時間だった。


使用人達の嫌がらせや、意地悪な視線を気にせずに母親と二人っきりで過ごせるからだ。少女は母親の膝の上に乗って「お話を聞かせて」とせがむ。


「ラミアは甘えんぼうねぇ」


母親は優しい笑みを浮かべて、ラミアと呼んだ少女を見つめる。


「そうねぇ。今日は『邪な言葉を操る神』様のお話をしようかしら」


ラミアの銀色に光る髪を撫でながら、母親が話し始めた。




それは異界の神の話だった。


とある神が異界から親に棄てられ、この世界に流れ着いた。異界の神は異界の知識と技術、そして自身の奇妙な能力を使い人々に貢献した。病気の人には薬を作り、狂暴な魔物が暴れていれば、危険を顧みず討伐に向かった。一生懸命働く異界の神は人々に慕われていく。


異界の神はいつしか、美しい女神とも結ばれた。女神が悪い魔物に襲われていたところに颯爽と駆け付け、助けたことが馴れ初めだった。


異界の神は幸せだった。


だが、他の神々は異国の神に嫉妬した。神々は異界の神を『邪な言葉を操る神』だと蔑み、危険な神だと主張した。


神々は協力して、彼の伴侶である美しい女神を奪い、異界の神を封印した。


異界の神は憤り、泣いて、叫んだ。もちろん誰にもその声は届かない。


『邪な言葉を操る神』は昔も今もこれからも、暗い闇の底から這いあがる道を探し続けている。


「可哀そうな神様だね」


一通り話を聞き、ラミアは悲しそうに呟いた。


母親は口元を吊り上げて、歪な笑みを浮かべた。


「ええ。そうね。でも、ラミアがそんな顔をする必要は無いわ。だって『邪な言葉を操る神』様はいつか封印を解いてこの世界に戻ってくるから」


「そうなの?」


「ええ。間違いないわ。どんな絶望の中でも諦めない神様だもの。それから『邪な言葉を操る神』様は心優しい神様なの。ラミアのこともきっと救ってくださるわ」


まるで『邪な言葉を操る神』を知っているかのように母親が言った。


それからも他愛無いことを母娘は話し、二人は眠りについた。


次の日、母親が亡くなった。


もともと身体が弱かったから仕方がないと使用人達に言われた。


誰も悲しむことなく、事務的に母親の遺体が片付けられ、お墓もできた。


夜になり、ラミアは一人っきりの部屋で母親が座っていた椅子に腰かけていた。


『奴隷の癖に身分をわきまえず、王様の寵愛を受けるから、罰が当たったんだわ』


頭の中で、使用人が小さな声で呟いていた言葉が蘇った。


ラミアの目が涙で滲む。


泣いて、叫びたかった。だが、そんなことをしても意味はなく、むしろ頭がおかしくなったと馬鹿にされるだけだ。


王と奴隷の忌み子であるラミア。


唯一味方であった母親はもう、いない。


『どんな絶望の中でも諦めない神様だもの。それから『邪な言葉を操る神』様は心優しい神様なの。ラミアのこともきっと救ってくださるわ』


母親の言葉を思い出す。きっと自身がいつ死んでもおかしくないと感じていたのだろう。だから、哀れな神様の話をして、哀れな神様が助けてくれると娘を安心させたかったのだろう。


「『邪な言葉を操る神』、か」


ぽつりとラミアは呟いた。





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