ここが拠点である理由
男との距離は、30mぐらい。
お互いに走れば、
あっという間に斬り合える距離だ。
しかし、斬り合う前に
確認しておきたいことがある。
「お前が、『窃盗団』のリーダーか!?」
大きな声で問う。
しかし・・・
「どこを見て判断しているんだ!?
よく見ろ! 俺は騎士だぞ!?
盗賊は貴様だろうが!!」
相手も大声で答えたが、
この期に及んでも、まだ騎士団のつもりでいる。
噴水前の広場には、野次馬こそいないが、
周りの家の中には村人たちがいて、
窓から、広場の様子を覗いている。
あくまでも、騎士団として
オレという盗賊を討伐するつもりらしい。
こんな茶番に付き合っていられない。
早く終わらせよう。
オレは腰の布袋から
クラテルの依頼書を出して、高く掲げた。
「あぁ!? なんだ、それは?」
「オレは、傭兵の佐藤健一だ!!
『レッサー王国』の騎士団、クラテル殿から
直々に、『窃盗団』の討伐を依頼された者だ!!
この依頼書には、
王様の捺印とクラテル殿のサインが入っているー!!」
わざと広場に響くぐらいの大きな声で、
名乗りながら、依頼書の説明をした。
家の中から様子を覗いている村人たちにも
はっきりと聞こえているだろう。
「・・・ちょっと、待て。」
男が、なぜか小声で言う。
オレは、聞こえなかったふりをして、
さらに大きな声で説明を続ける。
「聞いた情報によれば、『窃盗団』のリーダーは、
左腕に『ドラゴン』の入れ墨がある男で!
『元・黒い騎士団』の団長だった男であると
聞いている!!」
「待て待て! 待てって!!」
なぜか男が取り乱している?
まだ、騎士団じゃないことを
村人に知られたくないというのか?
往生際が悪い!
男がこちらに近づきそうだったので、
片手に持っている剣を構え、臨戦態勢になる。
すると、男の動きは止まった。
オレはそのまま、説明を続ける。
「この村には、情報が入ってきていないようだが、
その『窃盗団』は、次々に村を壊滅させ!
金品を根こそぎ奪い! 村人を皆殺しにしている!
女も子供も、みんなだ!!
お前が、その『窃盗団』のリーダーで間違いないか!?
・・・えーっと・・・。」
・・・そういえば、リーダーの名前、なんだっけ?
えーっと・・・グエイン? いや、クレソン?
いや、もっと長かった気がするな。
グレイズン? ライドオン? あれ?
オレは、チラリと依頼書を確認したが、
『サウラ窃盗団』という名前は書いてあるが、
肝心のリーダーの名前が、どこにも記載されていない。
オレは本当に、名前を覚えるのが苦手だ。
「その人の言ってることは、本当かい!? トライゾン!!」
「そうそう、トライゾン!・・・って・・・え?」
ふいに声がして、その方向を見ると
年老いた女性が家から出てきていた。
トライゾンと呼ばれた男が
あからさまに、うろたえている・・・?
「こ、これは、違うんだよ! 母ちゃん!」
「かあちゃん!?」
あの女性は、トライゾンの母親!?
・・・ということは、
あの女性が出てきている家が、
トライゾンの実家!?
「・・・ちょっと聞きたいのだが、
お前の実家は、そこか!?」
「あぁ!? そうだ! それがどうした!?」
「お前は、そこで生まれたのか!?」
「当たり前だろ!
バカなのか、お前は!」
オレの問いに、トライゾンは
正直に答えてくれた。
王都の宿屋で聞いた情報では、
こいつは、貴族か金持ちで
コネで騎士団に入ったと聞いていたのだが・・・
トライゾンの実家は、普通の民家だった。
オレを盗賊呼ばわりしたのは・・・
母親の手前、まだ『騎士団』であると
言いたいのだろうが・・・。
「そ、そう、こいつはホラ吹きだ!
その依頼書もニセモノだろ!?
俺は、『レッサー王国』の騎士団長だ!」
トライゾンは、うろたえながらも
自分こそが騎士団長だと言い張る・・・。
「俺こそが、この国最強の騎士団長!
ホラ吹きの盗賊めが!
そのニセモノの紙ごと、切り裂いてくれる!」
トライゾンが剣を構えだしたので、
こちらも、依頼書を素早く布袋に仕舞い、
剣を構えたが・・・
「・・・あ。」
ペチン!
トライゾンの母親が、ヨボヨボと歩いて
トライゾンの前まで行くと、
とても細い手で、トライゾンの左手を叩いた。
「・・・。」
トライゾンの母親が無言のまま泣いている。
涙をこぼしながら、
トライゾンの顔を見上げている。
「母ちゃん・・・。」
ガラララン・・・
トライゾンは、剣を地面に落とした。
呆然と突っ立って、母親に叩かれた左手を
右手で触っている。
痛くはないだろうが・・・精神的に痛いはずだ。
しばし、見つめ合っている母子・・・。
『サウラ窃盗団』のリーダー・トライゾンは、
『ソール王国』出身者ではなかった。
つまり、木下が探っている
『ソウル』ナントカとは無関係の人間だった。
やつが、どうして、
この村を壊滅させずに、拠点としていたのか・・・
その理由も、目の前の出来事で分かった。
やがて、母親がトライゾンから離れて、
オレにこう言った。
「傭兵のかた、
この盗賊を討ち取ってください!」
「!!」
「・・・母ちゃん!」
オレより身長が高い、大の男が、
泣きそうな表情を浮かべている。
もちろん、討伐しに来たわけだが・・・
オレも鬼ではない。
母親の目の前で、子供を殺すなど
出来るわけがない。
しかし・・・
「ふぅ・・・分かった!」
「!!」
オレは、そう返事した。
こいつが犯した罪は重く、大きい。
ほかの壊滅してきた村でも、
命乞いしてきた村人たちがいただろう。
母親も、父親も、息子も、娘も・・・
そこで平和に暮らしていた、
たくさんの家族を、こいつは虐殺してきたのだ。
到底、許されることではない。
オレも・・・
こいつにたどり着くまでに、
たくさんの命を奪ってきた。
こいつの仲間たちを・・・。
だから、このままでは終われない。
「ははっ・・・くっくっくっ・・・。」
「!?」
トライゾンが笑い出した。




