おっさん、死地へ向かう
結局、二人から打開策は出なかった。
腰の布袋から布切れを出し、
剣に付いた血を拭き取る。
剣に刃こぼれはない。
この剣は、あの剣技にも耐えれるのだな。
剣を鞘におさめ、オレはゆっくりと歩きだす。
木下とレーグルには、荷物を持たせて、
最初に隠れていた位置へ移動させた。
村の入り口から、こちらの動向を
見張られている可能性があるから、
とにかく丘や草木を利用して、
姿を隠しながら移動するように伝えた。
オレは単独で、村へ乗り込む。
それが失敗した時、きっと敵は
オレの仲間を探しにかかるだろう。
その時は、『火柱』が見えた場所から探すはず。
この惨劇が残っている場所で
身を隠していれば、見つかりやすい。とても危険だ。
だから、この場所から
離れた所で身を隠し、敵がこの場所を目指して
村から出てきたら、その時は・・・
オレが敗北したと察して
その場から逃げるように伝えた。
小高い丘に立った。
ここからは、『ボルカノ』の全貌がよく見える。
そんなに大きくない村だ。
「さて、ゆくか。」
さきほどは芝居のために走って
村まで行ったが、今回は
走る体力すらも温存しておきたい。
だから、ゆっくり歩いていく。
ザクッ ザクッ ザクッ
走らずとも、砂に足をとられる。
さきほどの戦いで、
『窃盗団』の騎士たちの動きが
鈍かったのは、オレたちが奇襲したから、
と、地面が砂地だったからだ。
きっと村の中は
砂地ではなく、土の地面だろうから、
敵の動きは、さきほどの騎士たちより
素早いと思った方がいいだろう。
村が近づいてきた。
ヒュイッ!
「!!」
独特の風切り音が、村の方から聞こえてきた!
矢だ!
オレは、上空から飛んできた
矢を確認して、サッと横へ避ける。
ザスッ!
矢は砂地に突き刺さった。
村からの距離は、まだ100m以上ある。
なかなか腕がいい弓使いがいるようだ。
ヒュン! ヒュン!
続けざまに独特の風切り音が村から聞こえた!
矢が増えている!
オレは上空から飛んでくる矢を確認して
また横へ避けた。
ザッ! ドスッ!
飛んできた矢が、的確に
オレがいた位置の砂地へ突き刺さる。
「ふぅぅ・・・
そう急かすなよ・・・。」
ゆっくり村へ行きたかったが、
このままでは、いい的だ。
まぁ、単体からの弓攻撃らしいから
避けるのは造作もないことだが・・・
ヒュイ! ヒュイ!
また村からの風切り音!
はっきり言って、うっとおしい!
ザス! ドッ!
矢を避けながら、
オレは歩く速度を速めた。
ヒュヒュン!
遠距離からの弓攻撃は、当たる確率が低い。
簡単に避けやすいからだ。
それゆえに、遠距離からならば
単体ではなく、集団での弓攻撃が有効だ。
要は「数撃ちゃ当たる」。戦場での定石だ。
正確さは関係なく、避ける場がないほどの
大量の弓攻撃をされれば、当たるのである。
しかし、敵はそれをしてこない。
つまり、集団で矢を射るほどの
人数が村に残っていない証拠だ。
ザッ! ドスッ!
矢を避けながら、前進する。
これで確信した。
敵は、オレの『キラウエア』の情報が
ウソだと見抜いたのだ。
あれだけの騎士の人数が討伐しにいったのに、
オレ一人だけがテクテクと歩いてきたら
誰でも分かることだな。
そして、敵は、もう騎士団を装うことをやめたのだ。
村人に『窃盗団』であることが
バレてもいいと開き直ったのだろう。
オレとしても、その方が戦いやすい。
・・・そう思って、
村の入り口から30mのところまで
近づいたのだが、
村の入り口で待っていた一人の騎士が
オレに向かって、こう言った。
「そこで止まれ! 盗賊め!」
「はぁ!?」
やつら・・・この期に及んで、
まだ騎士団を装うつもりなのか!?
オレを『窃盗団』に仕立てて殺すつもりか!?
「そうだ! 近づくな、盗賊め!」
入り口付近にいる村人が
騎士を味方に、意気込んでいる。
「正義は我にあり」と思い込んでいるようだ。
「ふざけるな! どっちが盗賊だ!」
腹立たしかったので、反論してみたが
「盗賊はお前に決まっているだろ!
やっちまってくれ、騎士様!」
「おうよ! 討伐してくれる!」
村人と騎士は意気投合しているようだ。
なんとも腹立たしく、戦いづらい。
ヒュイ!
「!!」
風切り音!
とっさに横に避ける!
村にある、家の屋根上に騎士がいて、
そこから弓攻撃をしているのが見えた。
ザスッ!
近距離からの弓攻撃は、
単体であっても、なかなか避けにくい。
あいつは早々に倒したいところだが・・・。
まずは、剣の届く位置の敵から!
ザッ!
オレは、村の入り口まで走り出した!
しかし!!
ボワッ!
村の入り口の手前に、
突然、炎の円が現れたので、すぐに横へ避けた!
「ファイヤーウォーーール!!」
ズッドォォォォーーー!!
5mほどの高さの爆炎が
目の前に、立ち昇る!
「あちっ!」
直撃は避けても、近距離の爆炎の熱は避けられない。
どうやら、姿が見えないが、
村の中に、魔法に長けた騎士がいるらしい。
魔力の高まりを感じる。
「どうせなら、水の魔法にしてくれ!」
オレは熱さで苛立って、
どうでもいいことに悪態をついた。
炎が消える直前に、
ヒュイヒュイ!
「またっ!!」
風切り音に反応して、横っ飛びで避ける。
ザッザッ!
矢を避けたが、村の入り口に
まだ近づけないでいる。
「はぁ・・・しんどい!」
早くも体力がなくなってくるのを感じる。
・・・歳だなぁ。
敵は、どうやら3人の騎士。
村の中へ入らねば、戦いにならない。




