表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
95/502

単騎、決戦へ




驚くことに、少し失われた体力が回復した気がする。

・・・たぶん、気のせいだと思うが。

薬を飲むと、それが効いている気がするものだ。

回復用の薬を飲んだら、体中の痛みがおさまったので

なおさら、薬の効果を実感している。


木下の左肩の傷も

なんとか治ったようだ。

完全に治ったわけではないが、

傷口が塞がって、痛みがなくなったらしい。


レーグルは、どこも怪我をしていないわけだが、

敵の第二陣を倒して、ホッと気が抜けたようだ。

青ざめていた顔が、すこし元の色に戻っていた。


「さて、死体の数を数えたわけではないが、

ざっと20人以上は倒したと思う。」


改めて、死体となった騎士たちを見て

オレはそう告げた。

死体は、バラバラになっている者もいるため、

正確な人数は数えられない。

木下たちは、死体を見ないようにしている。


「村に残っているのは、数人の騎士たちと

『窃盗団』のリーダーだ。

ほかの村の村人が『窃盗団』の仲間になっている

可能性もあるが、ほとんど戦力にはならないはずだ。」


戦闘の訓練を受けている木下やレーグルですら、

初陣は、この有り様だったのだ。

オレがいなければ、自分たちでは

とても敵と戦えなかったことだろう。

だから、最近『窃盗団』に加わった村人たちは

戦力外と思っていい。


「もう、さきほどまでのオレの芝居は通用しないだろう。

手練れの騎士たちが、これだけ倒されたのだから・・・

『魔物』のせいには出来んだろうな。」


副団長の男が「たかがキラウエア一匹」と言っていた。

最初に討伐を命じた騎士の人数は3人。

おそらく、その『キラウエア』という魔物は

魔法が使える騎士3人程度で倒せるはずだったのだろう。

これだけの人数がやられれば、もうウソは通用しない。

相手は、オレのことを敵として見るはず。


「さっきまで、やつらは、村人たちの手前、

『窃盗団』ではなく、騎士団として振る舞っていたが、

これだけの被害が出たとなれば、

相手は、なりふり構わず

オレたちを攻撃してくるかもしれない。」


ゴクリ・・・と、レーグルが息をのんだ。


「さて、どうするか・・・なにか策はあるか?」


状況を整理したうえで、

二人の意見を聞いてみたが・・・。


「そうっすねぇ・・・。」


「・・・。」


二人とも返事がない。

考え込んでいるようだが、

すぐには良策が思いつかないらしい。

学校で、オレよりもたくさん知識を学んでいるはずだが、

やはり、経験不足というところか。


「木下の『火柱』の魔法は、村からも見えていたらしい。

こうしている間にも、

敵がここへ攻めて来そうなものだが・・・。」


オレがそう言うと、

二人とも、ビクっとなって小高い丘のほうを見た。


「こちらには相手より『情報』を

多く持っているという利点がある。

まだ、今の時点では、敵は

こちらの規模が分かっていない。

だから、迂闊に村から出てきて

攻めてくることは無いと思われる。」


これだけの人数がやられたとなれば、

敵側は、自分たち以上の人数がいる・・・

と、思い込むのが普通だと思う。


「敵からは攻めてこない。

そうなれば、こちらから攻めるべきだが・・・

木下は、もう魔力が尽きているのだろう?」


「はい・・・魔力が尽きました。

もう初級の魔法ですら実行できません。」


木下が、少し疲れた顔をしている。

個人差はあるものの、誰もが持っていて当たり前の魔力。

その魔力が尽きると、少なからず

体がだるく感じるものだ。

一晩寝ないと回復しないだろう。


「魔力回復の薬も買っておくべきでした。」


「こんな状況になるとは思っていなかったから、

まぁ、今となっては仕方ないだろう。」


町や村の『アイテム屋』には、

回復用の薬とともに

魔力回復用の薬も売っているが、

回復用の薬よりも、高値で売られている。

だから、あまり買い溜めができないものだ。


「レーグルは、なにか策はないか?」


「お、俺っすか!?

すんません、全然、思いつかないっす・・・。

せめて援軍が来てくれたらって、

それぐらいしか・・・。」


本当に申し訳なさそうに言う。

援軍か・・・クラテルがいれば、

もう少し使える戦略があったかもしれないな。


「お二人が活躍されてるのに、

俺は何もできなくて・・・

この国の一大事なのに、何も・・・。」


暗い表情が、悔しそうな表情になる。

チャラチャラしている見た目と違い、

こいつはこいつなりに、この国を守る騎士としての

強い気持ちを持っているのだな。


「まぁ、そう自分を卑下するな。

実戦経験がないやつは、だいたい肝心な時に

動けなくなるものだが、お前はちゃんと行動できた。

さっきは強い騎士に、一太刀、浴びせたじゃないか。

あれは助かったぞ。

お前が動いてなかったら、この中の誰かが

こうして生きていなかったかもしれないからな。」


「そ、そうっすかね?

そうか・・・俺、やったんすね・・・。

うん、役に立てたんすね・・・。」


レーグルが、少し明るい顔になる。


しかし、二人から良策は出てこない。

そうなると、やはり

オレが動かねばならんのか・・・。


「ふぅ・・・。」


やはり気が重い。体力的にもキツイ。

しかし、ここまでやってしまったのだ。

『乗りかかった船』というやつだ。

やりきるしかないだろう。


現状と今後の展開を二人に説明する。


「これだけ『窃盗団』の人数が減ったのだから、

普通なら、壊滅状態なわけだが、

『窃盗団』と騎士団が繋がっているならば、

このまま放置しておけば、騎士団のほうから

人数を補充する可能性が高い。

今、仲間になっているほかの村の村人も、

時間が経てば訓練を積んで、

立派な『窃盗団』になってしまうだろう。」


「つまり、ここでリーダーを逃せば

いくらでも『窃盗団』は

再結成できてしまうわけですね。」


「そういうことだ。

オレたちは、旅の続きをしたいところだが、

リーダーを野放しにして、この国を出ることは出来ない。

オレたちが始めてしまった戦いは、

最後までやりきらねばならないだろう。」


「佐藤さん・・・ありがとうございます!」


レーグルにお礼を言われたが、

これはレーグルのためではない。


こちらとしては、まだ・・・木下の任務として、

『窃盗団』のリーダーが

『ソウル』ナントカと関係があるのか・・・

それを確認できていないうちは

このままでは終われない。

やはり、リーダーとの直接対決は避けられない。


「さて、現状で判断すると、

厳しいことを言うようだが、

ここから先は、二人とも戦力外だ。

木下は、魔法が使えないから

騎士たちとまともに戦えないだろう。

レーグルにしても、

ここから先は奇襲攻撃ができない。

手練れの騎士たちと正面からやりあえば、

勝てる確率は低いだろう。」


少し明るい表情になっていたレーグルが

また暗い顔に戻った。

ちょっと申し訳なく感じるが、事実だ。


「村へは、オレ一人で乗り込む。」


「えっ!」


「!!」


二人は驚いている。


「で、でも、佐藤さん!」


「村から敵は出てこない。

このまま時間が経てば、王都から

敵の増援が来るかもしれない。

敵の人数が減っている、この機を逃す手はない。

お前たちを連れて行けば・・・

オレはお前たちを守りながら戦うことになる。

それよりは、単独で乗り込んだ方が戦いやすい。

だから、オレ一人で乗り込む。」


「しかし、おじ様・・・。」


二人が反論しようとするが、

これ以上の策が出てこない。

まくしたてるように、オレの意見を述べた。


話し合い、とは言えないな。

オレの意見をただただ伝えているだけだ。

しかし、打開策が他にない。

敵と戦えるチカラを持つ者は、

この3人の中では、オレしかいない。


「ふぅ・・・。

これに代わる良案があれば

早く出してくれ。時間が惜しい。」


さっき飲んだ水の量よりも

汗の量が多い気がする。

体を動かしたせいだけじゃない。

この暑い中、どこにも影がない砂地にいるだけで

汗が吹き出し、体力が奪われていく。

回復用の薬で「体力も回復した」と

自分が錯覚している今のうちに、早く決着をつけたい。

敵の増援が来る前に・・・。


二人は無言のまま、

オレを心配そうな目で見ていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ