第一陣を突破
とりあえず、第一陣を乗り越えた。
木下たちの初陣は、勝利をおさめた。
しかし、木下たちはとても勝利した顔に見えない。
まるで絶望したかのような青ざめた顔をしている。
「二人とも、ショックなのは分かるが、
これが戦場だ。これが実戦なんだ。
実戦では、生きるか死ぬかが全てだ。」
少し冷たい口調で、オレはそう告げた。
「さ、佐藤さん・・・でも、こ、このバル先輩は・・・
もう戦えない状態で・・・。」
レーグルが、首がなくなった男の騎士を
指さしながら、オレにそう言う。
「その男は、あの状態から魔法を放とうとしていた。
魔力が高まっていたのを感じなかったのか?
オレがトドメを刺さなかったら、
お前がやられていた。」
「そんな・・・。」
ザス・・・
レーグルが、持っていた剣を落としてしまう。
顔見知りに自分が殺されかけたという事実が、
またショックなのだろう。
ガタガタ震えているようだ。
「お、おじ様は、大丈夫ですか?」
木下が青ざめながら、オレのことを気遣う。
自分のほうが大丈夫じゃないだろうに。
「あぁ、一瞬だけ炎の中を通過しただけだからな。
まぁ、ちょっと髪がこげたようだが・・・。」
自分の前髪が焦げ臭くなっていて、
ちょっと触ると、炭となった髪の毛がボロボロと落ちる。
・・・貴重な髪の毛がまた減ったか。
腰の布袋から布切れを出し、
自分の剣についた血を拭き取る。
騎士の鎧を貫通させたが、
剣に刃こぼれはないようだ。
・・・本当に、頑丈な剣だな。
こいつなら、なんとか
相手のリーダーとも戦えるかもしれない。
「初戦は、オレたちの勝ちだ。
しかし、まだ3人倒しただけだ。
敵の精鋭たちは、あと27人ぐらいだろう。
気を引き締めていこう。」
たぶん、混乱と恐怖で頭が回っていない
二人のために、状況説明と励ましの言葉を
言ってみたが・・・
「・・・。」
二人とも、返事がない。心、ここにあらず・・・。
しかし、早く次の行動に移らないと
オレの芝居が相手に通じなくなり、
次の第二陣をここへ連れてこれなくなる。
「ふぅぅ・・・。」
オレはわざと大きな深呼吸をする。
オレのほうもけっこうキツイ・・・体力的に。
しかし、ここで気を抜くわけにはいかない。
「もう一度、言っておくぞ。
お前たちは弱い!
この3人に勝てたのは、オレがトドメを刺したからだ!
生き残るために、全力でやれ!
自分が失敗したら、自分が殺されるだけじゃない!
ここにいるオレたちが殺されるんだ!」
ショックを受けている二人に対して、
かなりきつい言葉を投げつけている。
しかし・・・オレも初陣の時は、
こうして、先輩たちに叱咤激励されたものだ。
はっきり言って、オレも怖い。
実戦経験はあっても、慣れるほどの数はこなしていない。
そして、きっと慣れることはない。
人が人を殺すなど・・・正常ではないのだ。
剣を鞘におさめ、
騎士たちの死体を、離れた草木まで運び、隠す。
木下には荷が重すぎるから、やらせなかった。
レーグルは、顔を背けて、死体を見ないようにしながら
なんとか草木まで運んでいた。
死体をひきずった跡が、砂地に残っているので
そのへんを足跡だらけにして消す。
オレは、草木に隠しておいた自分の荷物から、
水筒を取り出して、それを飲む。
「ぷっはぁぁ・・・。」
少しの水分補給でも、生き返る気分だ。
失われた体力が戻るわけじゃないが・・・。
木下たちは、飲まないらしい。
いや、何もノドを通らない状態か。
「また、ひとっ走り、行ってくる。
お前たちは、さきほどと同じように隠れていてくれ。
木下、詠唱しながらも相手の動きに注意しててくれよ。
魔法を使えば、隠れている位置が見つかるから
オレが動くより先に、敵が木下に攻撃を仕掛けるかもしれない。
レーグルも、さっきは良くやった。
次も、その調子で思いっきり、ぶった斬れ。
できれば、トドメも刺せ。いいな?」
二人とも表情は優れないが、うなづいている。
こういうのは、もう考えるヒマを与えないほうがいい。
恐怖や緊張や後悔など、
考える時間があると、そればかり考えて
どんどん心が委縮してしまう。
オレは、二人の顔を確認してから
また『ボルカノ』へと走り出した。




