ボルカノ到着
オレたちは無事に『ボルカノ』へ辿り着いた。
幸いなのか、不幸なのか、
『ボルカノ』への道中で
魔獣に出会うことはなかった。
つまり・・・
『ボルカノ』周辺に魔獣が出ているという話は
ウソである・・・という可能性が高くなった。
そして、今、オレたちは、
『ボルカノ』から数百m離れた場所にいる。
ちょうど草木がある場所で、
ここからなら、騎士団に見つからない。
その騎士団たち・・・
『元・黒い騎士団』たちは村の外にはいない。
村の中を巡回しているようだった。
王都の入り口で検問していた、
あの黒い鎧の騎士と、
同じ鎧を着た騎士たちが、村の中を歩いている。
「魔獣には、オレたちがたまたま
出会わなかっただけという可能性もあるし、
魔獣討伐のための騎士たちが
村の中にいるのも、なんら不思議ではないが・・・。」
村人も数人、確認できた。
普通に畑の仕事をしている村人も見える。
つまり、村は壊滅していない。
平和そのものだ。
これだけで状況判断すると、
木下の仮説は、取り越し苦労だったことになる・・・
はずだったが・・・
「そうっすね・・・。
普通の『元・黒い騎士団』がいるだけなら、
なんの不思議もなかったんすけどね・・・。
はぁー、マジっすかー・・・はぁ・・・。」
「・・・私の仮説が
当たってしまったみたいですね。」
レーグルを連れてきておいて正解だった。
オレたちだけで状況判断していたら、
気づけなかっただろう。
しかし、レーグルは騎士団の顔を知っているのだ。
当然、騎士団を去って『窃盗団』となった
やつらの顔も知っている。
その知った顔が、村の中にいる騎士団たちだった。
「あ、あ、あいつら・・・
『元・黒い騎士団』っす!
脱退していった『元・黒い騎士団』の先輩たちっす!」
離れた位置から確認できる場所を探し、
そこから村を見て、レーグルが
最初に言った言葉に、オレたちは驚いた。
一番、驚いたのは、レーグルだっただろう。
陽が一番高い位置にある。
今は、もう昼時なのだろう。
気温が異常に高く、砂地にいるだけで
体力が奪われている気がする。
こうして身を潜めて
村の様子をうかがっているだけで汗が出る。
まだやつらは、オレたちの存在に気づいていない。
オレたちは声を潜めて話し合う。
「村のやつらは、
なんであんなにのんびりしているんだ?」
「私の仮説では、『窃盗団』が村を壊滅させて
占拠していると思っていましたが・・・、
たぶん、あの村には
『窃盗団』の情報が入っていないんだと思います。」
つまり、1ヵ月前に『窃盗団』の事件が
この国中に広まる前から、
『ボルカノ』を閉鎖していたということか。
「なるほど。村のやつらは、『騎士団』が
魔獣から村を守ってくれてると思い込んでるわけか。
事実上、占拠されてるのと変わらんな。」
いや、『騎士団』が味方だと思い込んでいるから
占拠されているより、タチが悪い。
「ここに物資を運びこんでいるのが、
王都にいる『元・黒い騎士団』の先輩たちだし、
それ以外の団員は管轄外だから近寄るなって
騎士団長が指示してたから・・・
ユンムさんの仮説どおり、うちの騎士団長も
グルってことっすよね・・・。
ユンムさんの仮説を疑ってたわけじゃないっすけど、
うわぁ、ショックっす・・・これは、ショックっす・・・。」
レーグルが青ざめている。
信頼していた者の裏切りを知った時の衝撃は、
かなり堪えるものがあるだろう。
「さて、どうする?」
オレは木下とレーグルに聞いてみた。
「ど、どうするって・・・。」
木下が困惑している。
自分の仮説が正しかったわけだが、
この先、どうしたらいいか分からなくなっているようだ。
「オレたちは、木下の仮説が
合っているかどうかを確認しに来ただけだ。
レーグルにとっては、『窃盗団』を探していたわけだから
やつらの拠点が、この『ボルカノ』だと分かって結果オーライだ。
このまま、そっと帰って、
レーグルが見たままをクラテルに伝えればいい。
オレたちがクラテルから請け負った依頼も、
情報収集に協力するだけだったはずだから、
このまま東へ向かって、
オレたちは旅を続けてもかまわないわけだ。」
「しかし・・・。」
木下が、ちらりとレーグルを見る。
まだレーグルは青ざめて、呆然と村を見ている。
「ふぅー・・・そうだよな。」
ここにレーグルがいるから話せないが、
木下には、確認しなければならないことがある。
『窃盗団』のリーダーが、
『ソール王国』出身者か、どうか・・・。
『ソウル』ナントカという組織の者か、どうか・・・。
それを確かめるには、そのリーダーに
直接会って、聞くしかないのだ。
「まぁ、この状況の村を放置して、
旅を続けるってわけにはいかんわなぁ。
『窃盗団』のリーダーは、この村にいるのかな?」
「ここからでは、なんとも・・・。」
村は小さいが、こんなに離れた場所からでは、
村の隅々までは見えない。
中のほうに入ってみないと、
リーダーがいるかどうかは分からない。
たぶん、いるんだろうけど。
「レーグル。」
「は、はいっす。」
「オレたちは、あの村に入ろうと思う。」
「そうっすか・・・えぇ!?」
「大声を出すな!」
ぼそぼそと会話していることを
忘れて、少し大きな声を出したレーグル。
「あそこにいるのは、もう騎士団じゃなくて
『窃盗団』っすよ!?
俺たちが近づいた時点でやられるじゃないっすか!」
小声で抗議してくるレーグル。
「騎士団を脱退していった先輩方は、
いずれも『黒い騎士団』の中でも
ツワモノと言われていた人たちばかりっす!」
「お前より強いやつらか?」
「当たり前じゃないっすか!
俺なんてボッコボコの瞬殺っすよ!
たしか脱退していった人たちは、30人ぐらいっすから
ツワモノが30人っすよ!?
無理っす!無理っす!」
レーグルが首を横にブンブン振る。
たしか『窃盗団』は、村を壊滅しながらも、
村人を数名、仲間に加えている可能性があるんだった。
だから、敵は30人以上ということになる。
「・・・だよな。」
はっきり言って、オレにも
この状況を打破する策が思いつかない。
敵の実力も分からないが、
分かっている敵の規模だけでも、こちらが不利だ。
「では、レーグル。
せめて、敵の特徴を知りたいんだが、
脱退していった騎士たちの特技とかクセとか、
なにか知っていることがあれば、教えてくれないか?」
「えぇー?
うーん、俺は『赤い騎士団』の団員っすから
あんまり『黒い騎士団』の先輩たちの
特技は分からないっすけど、ちょっとだけなら・・・。」
レーグルの情報によると、
剣技に優れた者が5人ほど。
いずれも体に入れ墨があるらしい。
ほかに、魔法を得意とする者も5人ほど。
こちらは、特徴的な三角の帽子を被っていたとか。
そのほかの者たちは、平均より高めの戦闘力だが、
可もなく不可もなく、剣も魔法も使えるそうだ。
気を付けなければならないのは、
その特徴がある10人のやつらということか。
そして、この国最強と言われていた
クラテルの親父さんを倒したというリーダー、か。
「レーグル、お前、実戦経験は?」
「ないっす・・・。
学生の頃に試合を何度かと
入団後に団員たちと試合を何度かやったことあるっすけど
あんまり勝てたことがないっす・・・。」
自信なさそうに言うレーグル。
まぁ、見た目通りの回答だったな。
ということは、こちらの戦力は・・・
老体のオレと、
実戦経験がないスパイ・木下と、
実戦経験がない騎士・レーグル・・・。
絶望的だな。
「・・・やはり応援を頼むしかないか。」
このまま引き返して、クラテルたちと合流してから
ここを攻めた方が勝率があがる気がする。
大人数で攻めていけば・・・。
「応援って言っても、
『窃盗団』と繋がっている今の騎士団には
応援を頼めないから・・・
今の騎士団長の命令に反して、
『窃盗団』を探しているクラテルさんたちの
数名しか応援がいない状態ですよね・・・。」
木下の言うとおりだった。
きっと、クラテルは、この事実を知らないから、
『窃盗団』の居場所を発見したら、
今の騎士団長に討伐を要請するつもりだっただろう。
しかし・・・『窃盗団』と今の騎士団長が
繋がっているのだから・・・
消されるのは、クラテルたちのほうだ。
「あまりにも味方が少ないな。
応援も頼めないとなると、いよいよ、
『万事休す』というやつだな。」
一瞬、『ヒトカリ』で他の傭兵を募ることも考えたが、
魔獣討伐の依頼を、騎士団に仕切られていたようだから
『ヒトカリ』自体に、国から圧力がかかっているとみて
間違いないだろう。
そうなると、おそらく『ヒトカリ』で
この情報を漏らせば、オレたちのほうが
その場で捕まって騎士団へ突き出されてしまう可能性が高い。
「実力も、人数も、圧倒的にこっちが不利・・・。
では、こっちが相手より有利なモノはなんだ?」
「・・・。」
レーグルは、もはや首振り人形と化して
青ざめた顔で、ずっと首を横に振り続けている。
「・・・こちらが有利なモノといえば、
『情報』でしょうか?」
「『情報』か・・・。」
相手よりは、こっちのほうが
敵の『情報』を知っている。
相手が知らない『情報』を利用すれば・・・。
「『どんなに有利だろうと不利だろうと
勝負というのは、いつも一か八か』なんだよなぁ。」
「それって誰の格言ですか?」
「オレの先輩だよ。」




