金髪の騎士はチャラい
レーグルは、まだ二十歳になったばかりの若造だった。
家のことまでは聞いていないが、
どことなく、貴族か金持ちの家で育った感じがプンプンする。
しかし、クラテルを尊敬しているのは本当のようで、
肝心なところでは、マジメな面もある。
レーグルの同伴で『ボルカノ』へ向かうことになったのは
オレたちの当初の予定とは違っているが、
騎士であるこいつを連れて行けば、
『ボルカノ』周辺にいる騎士団に見つかった場合、
余計な争いを避けることができるだろう。
もし、魔獣に遭ったとしても・・・
こいつの戦闘力がどれほどか分からないが、
一応、騎士ならば、ある程度の実力があるはず。
木下よりはマシかもしれない。
オレたちが生きて帰れなかったら・・・
という最悪の事態を想定して、
出発前に、レーグルに手紙を書かせた。
木下の仮説については、木下本人に書かせた。
それを王都の宿屋『モアーナ』宛てで
配送会社に依頼しておいた。
小さな村『フォッサ』に1箇所しかない
小さな配送会社だから、
配送は1日に1回しか行っていないらしく・・・。
おそらく、あの手紙が宿屋に届く前に、
オレたちのほうが『ボルカノ』に到着しているだろう。
「くそっ・・・汗がとまらんな・・・。はぁはぁ。」
『フォッサ』から歩いて、
3~4時間の距離に『ボルカノ』がある。
たぶん、まだ1時間くらいしか歩いていないが、
もう汗だくで、4時間ぐらい歩いている気分だ。
問題は、荷物だ。
オレは自分の荷物と、木下の荷物を持って歩いている。
主に、木下の荷物が重い。
ダイエット用に重りでも入っているんじゃないかと
感じるほどに重すぎる。
「しっかし、ユンムさんも
とんでもないこと、考えつくんすねー。
騎士団を疑うって発想、俺にはなかったっす。
さっすがっすねー!」
レーグルは、ずっとこんな調子だ。
木下に喋りかけ続けている。
当の木下は、作り笑顔のまま、
適当に受け流している。
「私が、他国の者だからでしょうね。
自分の国のことだったら、
たぶん、国の騎士団を疑うことはなかったでしょうから。」
レーグル自身の荷物は、肩掛けのカバン程度だった。
・・・やつに木下の荷物を運ばせればよかった。
今さらだが。
周りは砂地で、日陰になりそうなところがない。
『ボルカノ』までの道は、土がデコボコしているが
歩きにくいことはない。
ただただ・・・暑い・・・。
この国は、今日も快晴のようだ。
「ところで、レーグルさんは
立ち入り禁止になった『ボルカノ』へは
行かれたことがあるんですか?」
「立ち入り禁止になる前なら行ったことがあるっすよ。
立ち入り禁止になってからは行ってないっすね。
今は、主に『元・黒い騎士団』の先輩たちが
『ボルカノ』周辺の魔物を討伐するために
村で駐留中だって聞いてるっすけど。」
オレとしては、たまに若者の中で
語尾に「っす」をつけるやつが、どうにも好きになれない。
あれを語尾につければ、とりあえず敬語を
使っていると思っているらしいが、
全然、敬語になっていない上に馴れ馴れしく、
バカにされている感じがする。
だいたい、言葉として意味を成していない。
「です」「ます」とはっきり言ってほしいものだ。
「『元・黒い騎士団』だけが討伐にあたっているのって、
今の騎士団長さんが『元・黒い騎士団』だからですか?」
「さぁー、騎士団長の考えていることは
俺には分からないっす。」
『ボルカノ』周辺にいる魔獣討伐を
『元・黒い騎士団』だけで行っている・・・。
そして、例の『窃盗団』は『元・黒い騎士団』・・・。
ますます、木下の仮説が濃厚になっていく。
「はぁはぁ・・・。
なぜ『赤』と『黒』で鎧を分けているんだ?
騎士団は統一されたんじゃないのか?」
息切れしながら、
オレはオレで疑問に思っていることを
レーグルに聞いてみる。
「はぁ、それが、なんか、
新しい鎧が、まだ完成してないって聞いてるっす。
数が足りないとかで。
けっこう、うちらの騎士団、人数が多いっすから。」
騎士団が統一されたのは、1ヵ月前ぐらいか。
どれほどの数かは分からないが、
それから新しく作っていれば
生産が追い付かないのは当然か。
しかし、それだと・・・
『元・黒い騎士団』と『窃盗団』が
同じ鎧を着ていても、見分けがつかないことになる。
今の騎士団長が、本当に
『窃盗団』と繋がっているならば、
鎧の件も、計算どおりなのかもしれない。
「それよりも、『ボルカノ』って
すっげー小さい村で、なーんにも無いところなんすけど、
村の中央にある噴水は、すっげーキレイなんで、
よかったら、ユンムさんを案内したいっす!」
「あー・・・そうですねぇ。
村の安全が分かれば・・・。
でも、ほかの騎士団の方々が
村への出入りを禁止されてますから、
入れないかもしれませんねぇ。
私たちも、時間がありませんし・・・。」
木下が、やんわり断っている。
紳士的な男ならば、相手の態度や言葉の温度で
断られているのを察することができるが、
レーグルのような若者には通じない。
「あぁ、そこは、それ。
うまいこと俺が言って聞かせるっすよ。
先輩方って、けっこう俺のことを
かわいがってくれてるっすから。」
実際に、かわいがられている気がするな。
こういう軽そうなやつは、それなりに
場の空気を明るくしてくれる。
騎士としては、どうかと思うが、
集団において士気が落ちた時に
案外、こういうやつの空気が
士気をあげるキッカケになったりするものだ。
「はぁ・・・。」
木下が、すこし疲れ始めたようだ。
なにも荷物を持っていないくせに。
いや、作り笑顔のまま、
レーグルの相手をしていると気疲れするのだろう。
「あれ、ユンムさん、疲れちゃったっすか?
このへんで休みますか?
なんだったら、荷物、持つっすよ?」
木下は、なにも持ってないだろうが!と
思わず大声でつっこみそうになったが、
オレのほうも、そんな元気ではない。
「いえ、ちょっと疲れただけで。
休んでいる時間も惜しいくらい、
私たちには時間がないので・・・。」
「そんな遠慮しないで~。
このへん、風通しがいいし、
休むには、ちょうどいい感じっすよ?」
レーグルが木下との距離を詰めていく。
木下が、そーっと離れる。
そうして・・・木下がオレにくっついてくる。
「き、ユンム、暑いから離れてくれ。はぁはぁ。」
「えぇ、でも、こうしてると
厄除けになると言いますか・・・。」
オレをお守りみたいに言うな。
暑い。熱い。歩きにくい・・・。
「仲がいいんすね、二人とも。
俺とも仲良くしてほしいな~なんて!」
露骨に嫌がられているのに、
それに気づいていないのか。
それとも、気づいてて、その態度なのか。
だとしたら、なかなか精神が強いやつだな。
・・・いや、無神経なだけか。




