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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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多くの若者にある『成長する可能性』




木下の戦闘における能力は、

護身術という、一般人向けの体術と知識、

そして、一応、魔法は回復系以外の

攻撃魔法と補助魔法が使えるという程度。

そして、残念ながら、

それらを使った実戦経験がゼロということだった。


膨大な知識を覚えたり、

優れた技を身につけていても

実際に使ったことが無ければ、

それは経験にならない。

経験がない者は、実力があるとは言えない。

騎士の資格を持っていても、

たいした働きができない新卒者みたいなものだ。


しかし、それは悲観するものでもない。

未経験であるというだけで、

経験を積めば、どんな実力を身につけるか、

分からないものだ。

多くの若者にある『成長する可能性』というやつだ。


もう年老いてしまった自分にはない、

うらやましくて、まぶしい部分である。


特に、木下の場合は、

甘やかされて育ってきたという自覚があり

自分の意志で、それを改善したいと考えて

行動しているのだから、

成長していく可能性はじゅうぶんにある。


しかし、今は、オレが何を言っても

分からないだろう。

目の前に無いものを「あると思え」と言われても

誰もが、そう思えないものだ。




オレに、自分の任務のことや自国の一大事のことを

すべて話し切った木下は、

もう作り笑顔をしなくなっていた。


なんというか、普通に美人なのだから

わざわざ笑顔を作らなくても、きれいなままだ。

今、オレに気を許しているという証拠だろう。


オレも、もう木下に気を張っていない。

完全ではないけれど、気が緩んでいるのが

自分でも分かる。


・・・オレは甘い男だったのだな。

木下がウソの情報を話している可能性は

無いわけじゃないけれど、

オレの気持ちは、こいつを助けてやりたいと

思ってしまっている。




周りの景色は、相変わらず

砂地が多いが、王都から離れるにつれて

草木も、少しずつ目立ってきた。

陽がかなり傾き、夕暮れになった。

それでも、暑い気温はまだ変わらない。

ときおり吹く風が心地よいので、

もっと吹いてほしいところだが、

遠くの方で強い風が吹いていて、

砂が巻き上がっている。

あんな風に巻き込まれたら、

たまったものじゃないな。


オレたちが話し終えてから、ほどなくして

村が見えてきた。

目的地である村『ボルカノ』から

数km離れた村『フォッサ』。

遠くから見てると、かなり規模が小さい。

王都とは比べ物にならないくらい、

木造の建物が多く、茶色や黄土色が目立つ。

オレとしては、こういう街並みの方が見慣れた風景だ。


馬車は村の入り口を通って、

村の中央っぽい場所で停まった。

中央には、小さな山をかたどった

黄土色の建造物がある。

この村のシンボルなのだろうか?

ほとんど歩いている人を見かけないが、

どうやら、ここが馬車の停留場らしい。


「さぁ、着いたぞ。降りてくれ。」


御者にうながされて降り立つ。


「ん、ん~~~っ!んっ!」


恒例となった、背伸びを二人でする。

短い距離だったと思うが、

それでも1時間以上座りっぱなしは

体にくるものがある。


御者に運賃を払いながら、

この村の情報を聞いてみたが、

御者自身も、そんなに詳しくないようだった。

仕方なく、そのへんを歩いていた老人に聞いてみた。

しかし・・・


「あー・・・

本当に、なにも無いんだな、ここは。」


馬車に乗る前に御者が言っていた通り、

この村には、宿屋などの施設がなく、

大衆食堂が数軒ある程度だそうだ。


「き、ユンム、地図を出してくれるか?」


「おじ様、いちいち『木下』って

言いそうになるの、そろそろ止めてくれませんか?

おじ様、マイナス50点。」


「うっ・・・。」


そうは言っても、下の名前で呼ぶのは

どうにも慣れていない。

王国にいた時も、仕事仲間は

名字のほうで呼んでいた。

他国のやつらのように、名字がないのなら

そう呼ぶのに抵抗はないのだが、

名字があるやつを、下の名前で呼ぶのには抵抗がある。

というか、慣れていない。

だから、咄嗟に口から出てくるのは

名字のほうなのだ。


木下は、文句を言いながらも、

地図を取り出してくれた。


「今は、ここで・・・

『ボルカノ』が、ここで・・・。

馬車がないから、

歩いて3~4時間ってところでしょうか。」


木下が簡単に計算してくれた。

いますぐに向かえば、夜には『ボルカノ』に

到着できる計算か。

しかし、この国の騎士団が

『ボルカノ』周辺を見張っていて

そこへ行く道中で見つかる可能性がある。

もし、木下の仮説がハズれたら、

騎士団でも討伐できない魔獣と遭遇する可能性もある。

どちらにしても、

この先は危険が待ち構えているわけか。


「このまま向かっていくと、

夜になってしまうから、

『ボルカノ』へは明日の朝に向かうとしよう。」


暗い時間帯に、

敵に遭遇するのはとても危険だ。

調べるとしても真っ暗な中では

なにも収穫は得られない。


「では、今日は

このあと、どうするんですか?」


「まぁ、いつかは、

こういう日もあると思っていたが・・・。」


「どんな日ですか?」


「ユンム、今日は野宿だ。」


「えぇーーー!」


木下のやる気のない声が上がった。


「これくらいは想定内じゃないのか?」


「想定はしていましたが、

やはりイヤというか・・・。」


木下は落胆して、うなだれている。


「そうは言っても、ここには宿屋はないし。

それとも、このまま『ボルカノ』へ向かって

敵と遭ってみるか?

ユンムは、夜の戦闘のほうが得意なのか?」


「夜の戦闘って・・・おじ様、それってシモネタ?」


「ば、ばかもの!

そんなシモネタ、言うはずないだろ!」


全く、その気がなかったので

言ってしまったオレの顔が熱くなった。

クスクスと笑う木下。

こいつは・・・人が真面目に聞いているのに。

心が打ち解けすぎるのも考えものだな。


「冗談はさておきまして。

昼夜を問わず、私は戦闘に不向きですね。

夜ならば、なおのこと、お役に立てないと思います。

ただ、調査するなら、昼間より

夜の方が何かと動きやすい面もあります。」


「ほう。」


たしかに暗闇を味方にすれば、

敵に見つからず調べやすいのかもしれない。

ただし、見つかった時の危険度は高い。

木下が戦闘に長けているなら、

安心して夜でも進めるのだが・・・

戦闘ができない木下を守りながら

夜間の戦闘になるのは避けたいところだ。


「いや、やはり今夜は、この辺りで野宿だ。

幸い、この村に食堂はあるらしいから、

ここで食べれる分、食料の心配だけはない。

村に近いところで野宿すれば、

魔獣が出没する可能性も低いほうだろう。」


「それは、そうですけど・・・。」


確実に安全とまではいかないが、

それでも、普通の野宿よりはマシだろう。





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