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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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おっさんの思考回路は女の胸でショートする





数年前から、木下の故郷『ハージェス公国』が

『ソウル』ナントカという裏の組織に

乗っ取られていて・・・

そのナントカっていう組織は

『ソール王国』出身者の少数精鋭で構成されていて・・・

『ハージェス』だけじゃなく、

あちこちの数か国を乗っ取っており・・・

乗っ取った国から

少しずつ税金を吸い取って、軍事資金を集めていて・・・

おそらく世界規模の『戦争』を

引き起こそうとしている・・・。


にわかには信じがたい極秘情報だ。


『ソール王国』出身者ということは、

オレと同等、もしくは、それ以上の身体能力であり、

おそらく、どの国の騎士であっても

返り討ちにできなかった・・・ということだ。


「なるほど・・・。

っということは、ユンムが『ボルカノ』で

確認したいことというのは・・・

例の『窃盗団』のリーダーが、

その『ソウル』ナントカの一員か、どうか・・・

そういうことか?」


「その通りです。

私の仮説どおりならば、『ボルカノ』が

『窃盗団』のアジトになっているはず。

そして、この国で最強と言われていた

クラテルさんのお父さんを討ち負かすほどの

実力となれば・・・『窃盗団』のリーダーが、

『ソール王国』出身者である

可能性が高いと思われます。」


そう答えた木下の表情は硬い。

きっと仮説に自信があるのだろう。

オレとしては、ハズレていてほしいのだが。


・・・いや、こんな極秘情報を聞いてしまったのだ。

もう、たぶん・・・いや、間違いなく、

これは、すでに「我、関せず」というわけには

いかなくなっているパターンだ。


「・・・それで、きの、ユンム。

お前は、なにか策でもあるのか?」


「策、ですか?」


木下の表情が明らかに曇った。


「まさか、お前ほどの頭のいいヤツが

無策というわけじゃないだろうな?」


「あ、あ、ありますよ?」


今、完全に目が泳いでいた。

バタフライ泳法という豪快な泳ぎっぷりだった。

こいつ・・・!


「『スパイ』のくせに、ウソがバレバレだぞ?

・・・というか、こうして極秘情報を

オレに話したということは、なんとなく

察しがついているのだが・・・。」


オレがそう言うと、

木下が上目使いでオレを見てきた。

観念したかのような・・・

まるで、捨て犬のような目だ。


「・・・お察しの通りです。

おじ様は、私のことを頭のいい女として

見てくれているようですが、実際の私は・・・

お母様からの指示がないと、

自分で考えて行動ができない女なのです。

なんの得策も妙案も思いつかないまま、

ただただ、国に帰るつもりでいました。」


なんとも、悲しそうな表情で

木下はそう告げる。

これが『演技』ではない・・・と言い切れない。

こいつは『スパイ』なのだ。

オレのことを「甘い男」だと見抜いたうえで、

同情を誘っているのかもしれない。

もしかしたら、オレをそそのかして、

全てを解決させようとしているかもしれない。

利用するだけ利用して、

使えなくなったらポイっと捨てるのかもしれない。


・・・あの人事室の女が、

オレたちを『リストラ』したように・・・。


「でも、おじ様が『キラーウルフ』を

いとも簡単に討伐した姿を見て、

私の中で得策が閃いたのです!」


「それは、きっと得策ではない。

『ずさんな打算』というものだ。」


少し冷たく、突き放すような言葉を

あえて言ってみるが、オレの中でも分かっている。

これは、もうすでに「乗りかかった船」というやつだ。


ここで、木下がオレの手を掴んできた!

ドキっとした!

この場合、手を掴んだというより

握ってきたと言った方が正しいのだろう。

握った手を、そのまま自分の胸の位置まで持ってきた。

あ、当たる!


「お、おい!」


オレは手を引こうとしたが、

木下がギュっと両手で強く握り、

オレの手を離さない。

そのまま、オレの手を自分の胸に当てた!


「あ!わわっ!」


「私は、今、おじ様の甘い性格にすがろうとしています。

だから、おじ様の言う通り、これは良策ではなく

『ずさんな打算』なのかもしれません。

ですが、頭の悪い私には、

これぐらいしか思いつかないのです。

これは、お願いです。

私の国を救ってくれませんか?」


木下にとっては、必死のお願いのつもりだろうが、

オレの手が、完全に木下の胸の谷間に

強く埋め込まれていく!


「や、やめっ・・・!」


オレが本気で手を引けば、

簡単に引っ込められるのは分かっているが、

・・・男の本能というやつが、

オレの手にチカラを込めさせないように働いている。

それに、ここで騒ぎすぎると、

また御者に睨まれてしまう。


「めんどくさがりなくせに、

困っている人を放っておけない

面倒見がいい性格のおじ様なら、

きっと引き受けてくれると信じて、

私は、自分の任務のことや

国の極秘情報を、正直にお話ししました。」


照れているオレに対して、

わざとなのか、天然なのか、

木下は強く強く、オレの手を

自分の胸に押し当てている。


「国を救うと聞くと、なにか大ごとのように

感じられるかもしれませんが、すべてを

おじ様に背負わせるわけではなくて、

私の手助けをしていただきたいのです。

どうか、このとおりです!

私を助けると思って!」


木下は、必死だ。

オレの手をギュっと握りしめて、

頭を下げた。

大きな胸に押し当てられて、

少し舞い上がってしまっていたが、

よくよく手に意識を集中させると、

握りしめている木下の手が

微妙に震えているのが伝わってきた。


怖い・・・のだろうな。

オレに断られる恐怖・・・。

オレに断られたら・・・

国が、家族が、どうなるか分からない恐怖・・・。


見捨てられる恐怖・・・。


胸の谷間に埋もれたオレの手に、

木下の心臓の鼓動が伝わってくる。


これは、何の根拠もない、

『ずさんな打算』だが・・・

木下は、ウソをついていないと感じる。

本当に・・・困っているのだ。


そして、本当に・・・


『ソール王国』に捨てられたオレを、

必要としてくれているのだ・・・。


「すーーーっ・・・はぁ~・・・。」


オレは大きく息を吸って、吐いた。

溜め息まじりの深呼吸。

気持ちが落ち着いてくる。


「おじ様?」


木下が、今にも泣きそうな表情で顔をあげた。

その顔を見た瞬間に、オレの気持ちは決まった。


「そんな顔をするな。

分かった、分かったよ。

お前に協力する。

だから、そ、その、手を離してくれ・・・。」


オレは照れながら、木下の胸の谷間から

手を引き抜こうとしたが、


「おじ様!いえ、佐藤さま!

本当に、ありがとうございます!」


感極まった木下が

オレの手を、さらに強く握って

ぐいぐいと胸に押し当てている。


これは『役得』というやつなのだろうか?

しかし、こんな『得』ぐらいでは

割に合わないほどの『大役』を

オレは引き受けてしまった気がする・・・。


オレに、この子を救えるのだろうか?


そう思いながら、木下を見つめたが、

先ほどとは打って変わって、満面の笑みの木下。

作り笑顔ではない、本気の笑顔・・・。

きっと、恐怖を乗り越えたのだろう。


赤の他人に、助けを求めるのに、

どれほどの勇気が要ることか・・・。

臆病者のオレには、きっと想像もつかないほどの

勇気を出して、恐怖を乗り越えたのだ。


この笑顔のキッカケが、

オレの返事だったのならば・・・

オレは、この笑顔を

無かったことにしないためにも、

全力で、協力することにしよう。


そう固く心に誓った。






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