スパイになった理由
「私の仮説が正しければ、
『ボルカノ』周辺に魔獣はいません。
おそらく『窃盗団』の拠点が
『ボルカノ』なのだと思います。
『ボルカノ』は・・・
すでに壊滅されてる可能性があります。」
つまり、木下の仮説は、
『窃盗団』のリーダーと
今の騎士団長は繋がっており、
そのリーダーの命令で、騎士団長が
騎士団を動かしているということだ。
『ボルカノ』を拠点とし、
その間、騎士団たちに村を閉鎖させている。
というか、村を警護させている。
もしくは、『窃盗団』が『元・黒い騎士団』だから
その『窃盗団』が騎士団に成りすましている可能性もある。
「オレが甘い男であるのは分かった。
クラテルのために助けてやりたいとは思うが、
今のオレは、一国の命運に関わることまでは
しようと思っていない。
そして、木下の仮説が正しいかどうかは、さておいて、
『特命』や『ヒトカリ』に関係ないことに
首を突っ込もうとは思っていない。
それで? 木下は、どうしたいんだ?」
「・・・。」
ここまでスラスラと自分の仮説を
小声で喋っていた木下だったが、
ここで、また黙り込んでしまった。
元々、クラテルの依頼に
乗り気ではなかった木下だが・・・。
「今回の件、私には、確認すべきことが絡んでいます。」
「!」
木下が真剣な目つきになった。
「絡んでいる」ということは・・・
それが、木下の『スパイ』としての任務と
絡んでいるということなのだろうか?
「それは、昨夜、話してもらえなかった話か?」
「!・・・はい、それは、その・・・
昨夜は申し訳なかったです・・・。」
昨夜、自分が酔いつぶれてしまった失態を
思い出したのだろう。
木下の顔がみるみる赤くなった。
「ユンムが『スパイ』だとバレてしまった時、
すべてを話していないのは分かっていたし、
今後はそのことについて追及しないという
約束だったが・・・
それを話してくれるということだよな?」
「・・・はい。」
木下の顔は真剣そのものだ。
ウソ・・・ではないと信じたい。
「じゃぁ、行くとするか。」
オレは席を立ち、荷物を持ち始めた。
「え、どこへ?」
「『ボルカノ』だろ?
騎士団のところへ行ったって、
団長と『窃盗団』との繋がりは
証拠不十分で、オレたちが捕まるのは目に見えている。
それなら、『ボルカノ』で証拠を掴むしかない。
オレとしては、ユンムの仮説がはずれていてほしいが、
行ってみて確かめてみないとな。」
木下の顔が、パッと明るくなった。
「はい!」
自分の仮説を少なからず
肯定してもらえたと感じているのだろう。
嬉しそうだな。
「そうと決まれば、急いで行こう。
『ボルカノ』の近くまでは馬車で行けるかもしれないが、
『ボルカノ』までの道中は歩いて移動だからな。
到着するまでに、ユンムの仕事のことを聞かせてもらおうか。」
『特命』の任務としては、
時間の無駄になってしまうが、やむを得ない。
『ボルカノ』に、何もなければいいのだが・・・。
停留場で馬車を探すと、
ちょうど『ボルカノ』から
近い村『フォッサ』へ寄る馬車を見つけた。
「なにも無い村だぜぇ?
俺も、荷物の配達が無ければ寄らない村だよ。」
年老いた御者が、めんどくさそうに言う。
見たところ、護衛役の傭兵がいないようだったので、
オレたちが傭兵であることを明かし、
護衛役がてら乗せてほしいと頼んだら了解を得られた。
御者が、荷物を積み終えて、
間もなくして、馬車は動き始めた。
日差しはまだ強く、暑いことに変わりないが
徐々に陽が傾いてきている。
時間的には、村へ着いたら、そこで宿をとることになるな。
ガタガタガタ・・・
規則正しい馬車の音。
砂地ばかりの景色。
馬車内は風通しが良いが、熱風しか入ってこない。
鎧を脱ぎ捨てたい気分だ。
しばらく無言だったオレたちだったが、
木下が、重い口を開き始めた。
「私の仕事の内容を話す前に
我が国の真実をお話ししなければなりません。
・・・信じられないことですが、
『ハージェス公国』は、数年前に
『ある組織』に乗っ取られてしまいました。」
「えぇっ!?」
木下は、衝撃の事実から話し始めた。




