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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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木下のとんでもない仮説





王都の『ヒトカリ』を出てから、

オレは木下へ不満をこぼした。


「なぁ、やっぱり

『森のくまちゃん』はやめないか?」


「恥ずかしいんですか?」


「は、恥ずかしい・・・。」


オレはさきほどの恥ずかしさを思い出して

顔が熱くなるのを感じながら

素直に言ったのだが、


「でも、ほかのパーティー名は

思いつかないんですよね?」


「うっ・・・そうだな。」


木下は、オレの気持ちを汲み取ってくれない。

『代案を出せ』と要求してくる。

ちょっと考えてみたりするが、

やはり、すぐには良い名前は思いつかない。


「おじ様が思いつくまでは、

仕方ないんじゃないですかね?」


勝ち誇った顔で言う、木下。

・・・悔しいが、反論できない。


「はぁ・・・ほかのパーティーの情報も

今度、『ヒトカリ』で聞いてみるか・・・。」


参考になる名前が聞けたらいいが。

オレは気持ちを切り替えて・・・


「それと・・・さっきは、なにが臭うって?」


窓口の女性が戻ってくる前に

木下と話していた話題の続きをうながした。


「そうですね。その前に、

『ボルカノ』へ行く馬車がないか、

確認しましょうか。」




オレたちの依頼は『ヒトカリ』へ

荷物を預けた時点で達成されたので、

もうオレたちが『ボルカノ』へ行く必要はなくなったが、

本当に、だれも『ボルカノ』へ行けないように

規制されているのかを確認するために

オレたちは停留場へ向かった。


東方面へ向かう馬車を見つけて、

御者に聞いてみたが、

本当に、今は、

どの馬車も『ボルカノ』へは行かないようにと

騎士団から通達されているらしい。

また、『ボルカノ』からも

誰も出入りしている形跡がないそうだ。

つまり、『ボルカノ』は

完全に閉鎖されている状態で、

物資などは騎士団が運んでいるようだ。


その周辺の人々に、それとなく

木下は聞き込みしてみた。

『ボルカノ』へ行けないことは

みんな知っているようだが、

「どうして行けないのか」の理由は

みんな知らされていないようだった。


「『ヒトカリ』では、

魔獣が討伐されるまで近づくことも

許されないって聞いてるぜ。」


馬車の護衛役の傭兵たちは、

オレたちが『ヒトカリ』で聞いた情報と

同じ情報を知っていたようだ。

それにしても、どの男たちも

木下が相手だとホイホイと欲しい情報をくれる。

さすが木下だな。




「ここの騎士団でも倒し切れない魔獣か。」


オレは、独り言のようにつぶやいた。

木下が集めた情報は、結局、

『ヒトカリ』で聞いた情報と同じだった。


「・・・。」


一通りの情報収集が終わったオレたちは、

停留場のそばにある、日陰となる飲食店の中で

ひと休みしている。

木下は、集めた情報を整理しているらしく、

黙ってお茶を飲みながら、

考え込んでいるようだ。


そういえば、昨日、

木下の手首を強く握ってしまい、

アザをつけてしまったのを思い出した。

さりげなく、チラリと木下の右手首を確認したが、アザがない。

女性の体に一生残るような傷をつけてしまったかと

責任を感じていたが、アザが残らなくてよかった。

・・・これでオレが木下に脅迫されることもないだろう。


「おじ様、これは仮説なのですが・・・。」


周りにほかの客がいないことを確認して、

木下が重い口を開いた。

考えがまとまったのだろう。


「頭のいいお前が、なにか思うところが

あったのだろう。話してみろ。」


「私の仮説の結論から言うと、

今の騎士団と例の『窃盗団』は

繋がっていると思います。」


「え?」


木下は、突拍子もないことを言いだした。

頭のいいヤツは、頭の悪いオレの

予想をはるかに超えた考えをするものだが、

今回のも、本当に予想外だ。


「いきなり、すごい仮説だな。

それで、その根拠は?」


「まず、騎士団が1ヵ月もかけて

討伐できない魔獣が本当にいるならば、

もっと国中がその話題で持ち切りになるはずです。

しかし、被害の規模や魔獣のウワサが

ぜんぜん流れていません。」


「うーん・・・しかし、今は

その魔獣よりも『窃盗団』のほうに

警戒心が向いているからじゃないか?

村が次々に壊滅されて、

王様から厳戒令が出ているぐらいだし、

クラテルの親父さんをはじめ、騎士団にも

被害者が出ているわけだからなぁ。」


『窃盗団』の正体は、

王国の秘密になっているかもしれないが、

速報が流れているぐらいに、今は

国中が『窃盗団』の話題で持ち切りなのだ。

ひとつの村周辺に出没している魔獣に

騒いでいる場合ではないだろう。


「『ボルカノ』が立ち入り禁止になったのが

ちょうど1ヵ月前。

例の『窃盗団』が出現した時期と重なります。」


たしかに、情報を照らし合わせると

そうなるかもしれないが・・・。


「魔獣が出没したタイミングが

ちょうど重なっただけで、

騎士団と『窃盗団』を繋げるのは

どうかなぁ・・・。」


オレの中では、なにひとつとして

繋がりがないと感じてしまうのだが、

木下の中では、繋がっているのだろう。


「現在の騎士団の団長が

『元・黒い騎士団』の副団長だった男だと

クラテルさんが言ってました。

『窃盗団』のリーダーも、

『元・黒い騎士団』の団長だった男・・・。

それが繋がっているのではないかと予想します。」


『窃盗団』の正体の話をしているので、

木下は小声だ。

オレも小声で反論する。


「おいおい、むちゃくちゃな予想だな。

『元・黒い騎士団』という共通点しかないぞ、それ。

団長と副団長が繋がっているならば、

その二人ともいっしょに国を出ていくのが

普通じゃないか?

副団長だけ残っても・・・。」


「副団長は騎士団に残りました。

そして、クラテルさんのお父さんが『窃盗団』に討たれ、

その残った副団長が、今の騎士団長になった・・・。」


「それは・・・結果論だろ。

クラテルの親父さんが敗れる確証は・・・。」


「クラテルのお父さんは、

一度、その『窃盗団』のリーダーに

決闘で敗北しているのです。

王様の目の前で。

つまり、クラテルのお父さんを討つ

確証があったわけです。」


たしかに・・・そうかもしれないが、

何度やっても勝てる確証なんて・・・。

しかし、木下の予想も一理はある、か。


「でも、副団長が、団長に選ばれるかどうかは、

分からないのではないか?

二つの騎士団が合併したってことは・・・

その、黒じゃない方の騎士団にも

副団長がいるわけだろ?」


「そこは・・・賭けですね。」


「賭けかよ!」


どこまでが本気の仮説なのか

分からなくなる言葉を言う木下だが、


「でも、重要なのは、そこじゃないんだと思います。

その『赤い騎士団』のほうの副団長が

団長として選ばれたとしても。

『元・黒い騎士団』の副団長が

その騎士団の中に残ることが重要なんです。」


「・・・残った副団長が

騎士団を思い通りに操るのが目的か?」


「そのとおりです。」



「・・・。」


話の筋書きは通っている気がする。

しかし、自分自身が王国に仕えていた騎士なので、

同じ立場の騎士を疑うという考え方が

どうにもオレの中で消化できずにいた。


「同じ騎士としては、

王様を裏切る考え方や行為自体が、有り得ないんだがな。」


「その王様への忠誠心は、

クラテルのお父さんとの決闘の勝敗を

無かったものにされた時点で、失われた可能性があります。」


「・・・!」


そういえば、そういう話だったな。

王様が決闘の勝敗結果を捻じ曲げてしまった結果が、

その『窃盗団』を生んでしまった原因なのだ。

おそらく、騎士団の中でも

多くの騎士たちの忠誠心が揺らいでしまったことだろう。


「反逆する動機が、騎士たちにはあるということか。

もし、木下の仮説が確かなら、いよいよもって

オレたちの出る幕ではないということだな。

一国の命運に関わることだ。

『特命』の任務とは無関係だし、『ヒトカリ』の依頼でもない。

クラテルを助けてやりたいのは確かだが・・・

話が大きすぎる。」


オレとしては、ほんのちょっとでも

クラテルの助けになれればと思っていた。

『窃盗団』のリーダーの手がかりだけでも

掴めればと・・・。

そんな、一国の命運を左右するような

大きな事件をオレたちで防ごうとは思っていなかった。


「はぁ・・・やはり、おじ様は

その場の空気に流されてしまうタイプですね。

ここにクラテルさんがいて、助けてほしいって

熱心にお願いされたら、『特命』も『ヒトカリ』も

関係なく、助けようとするでしょうね。」


「それは・・・!」


溜め息まじりの責め言葉を

木下から言われて、すぐに反論したかったが、

言葉が出てこなかった。

・・・図星だったからだ。

たしかに、この場に困り顔のクラテルがいたら、

おそらくオレは、関係ないとは

思えなかったことだろう。


「うぅ・・・そうだな。

き、ユンムの言う通り、オレは甘い男だな。」


「まぁ、今に始まったことじゃないですし、

そのおじ様の性格のおかげで、私も助かったわけですから

いいんですけど。」


なんでもお見通しって感じで

イヤな気分にさせられるが

今さら自分の性格を変えられるわけでもない。

自分は甘い男なのだと自覚していくしかないか。




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