3人の二日酔い
・・・ひどい寝起きだ。
「うぅ~・・・昨夜は、ごめんなさいね?」
「うっ・・・いえいえ、私が確認せずに
飲んじゃったのが悪いんです・・・。
ごめんなさい・・・うぅ・・・。」
オレより少し早く起きた
木下とモアナがお互いに謝っている。
オレは、床で寝ていたから、背中と首が痛い・・・。
そして、
「あ、頭が痛いぃぃぃ~・・・。」
3人とも、頭を抱えて悶えている。
昨夜は、あれから、酔いつぶれたモアナを放っておけず、
宿屋のどこが店主の部屋なのか分からなかったため、
とりあえず、モアナを背負って、
自分たちの部屋へと運んだのだった。
・・・背中に感じた柔らかい感触は『運賃』として受け取った。
それから、オレが寝るはずだったベッドへモアナを放り込み・・・
オレはベッドとベッドの間の
床で眠ったのだった。
床であぐらをかいているオレに、
ベッドの上から、木下とモアナが謝ってくる。
「本当に、ごめんなさい・・・。」
頭上から謝られたのは初めての経験だな。
「まさか、女将が酒に弱いとはな・・・はぁ。」
「そこまで弱いわけじゃないけれど、
すぐに寝てしまうのよ・・・。
だから、今までは絶対に男性客の前では
飲まないようにしていたのに・・・うぅ・・・。」
「私も、もう飲まないと心に誓っていたのに、
こんなにあっさりと飲んでしまうなんて・・・うー。」
「それは、あたしが間違っちゃったから・・・。」
「いえいえ、私が・・・。」
また、お互いに謝っている。
頭痛がひどいから、まだ頭がよく回っていない。
たぶん、二人はすぐに酔いつぶれたから
飲酒量は、たいしたことはないはずだ。
むしろ、オレのほうがたっぷり飲んでしまった感じがする。
顔を洗って、すっきりしたい・・・。
そう思って立ち上がってみたら、フラフラする。
足元がおぼつかない。
「元はと言えば、おじ様が
酒を頼んでしまったから・・・。」
「あんたがクラテルの知り合いって言いだして、
すっかり安心しちゃったんだよねぇ・・・。
それに、なんか雰囲気が
クラテルのお父さんに似てるんだよ・・・。」
クラテルにも同じことを言われていたな。
「そうそう、おじ様って、
なんか気を許してしまう雰囲気があるんですよ。」
「そうだ、あんたが悪い。」
「そうそう、おじ様が悪い。」
・・・さっきまで謝っていた相手を捕まえて、
今度は悪者扱いするか、普通?
「・・・うむ、すまん。
顔を洗ってくる・・・。」
理不尽な言いがかりだと感じているが、
今は、どうでもいいというか・・・
頭が痛くて、思考が停止している。
たぶん、二人も、まともな思考ではないだろうから
今の言いがかりは聞かなかったことにしてやろう。
30分後・・・
三人とも顔を洗い、
意識がすっきりしたところで
三人で朝食をとることにして、階下へ移動した。
テーブルが昨夜のままだったので、
モアナの片づけを、オレたちも手伝ってやった。
幸い、二日酔いの頭痛は、すぐに治った。
寝にくい床での就寝だったが、
一応、体力が回復したのだろう。
朝食を食べながら、木下には
モアナとの昨夜の話をして、
モアナには、クラテルから依頼を
受けていることを正直に話した。
「なんだ、そうだったのかい。
言ってくれれば・・・って思うけど、
それだけ口が堅いってことだね。
クラテルにしては、目の付け所がよかったみたいだね。」
モアナは納得していた。
もちろん、クラテルの馬車内での
失態は言わなかった。
「佐藤さん、あたしからも頼むよ。
クラテルのお父さんの無念を、あたしも晴らしたくてね。
あたしは宿屋だけど、お客さんから情報収集して
少しでも手がかりが掴めないかって思って。」
「無念を晴らすのはオレではない。
クラテル殿なら、きっと果たすだろう。
オレたちは、その手伝いを、ほんのちょっとでも
してやれたらって思っているよ。」
「私たちも、旅をしながら
情報を集めてみますから。」
「ありがとう、二人とも。」
そんなことを話している間に、
宿泊していた客たちも、一人一人、降りてきた。
モアナの仕事が始まった。
さっさと自分の食器を片付けて、
「二人は、ゆっくり食べてってね。」
そう言って、店の奥へ行った。
「美人で、性格もよくて、いい人ですね。」
木下が言う。
「あぁ、応援してやりたくなるというか、
手助けしてやりたいって思ってしまうだろ?」
またお節介だと言われるかと思ったが
「・・・おじ様の気持ち、少し分かります。
でも、モアナさんに惚れちゃだめですよ?」
逆に、変な、忠告を受ける。
「ばかもん。それこそ要らぬお節介だ。
モアナには想い人がいるからな。」
「え? おじ様、そんなことまで聞いたんですか?
それで? それって誰ですか?」
木下が食いついてきた。
若い女は、恋の話に目がないのだな。
「女将が言っていただろ。オレは口が堅いんだぞ?」
もちろん他人の秘密を言うつもりはないが、
「ほほぅ・・・
では、今後、おじ様には禁酒していただきます。」
「うぐっ・・・なんと卑怯な・・・。」
木下相手に、口を割らない自信がない。




