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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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モアナとの一夜




お互いに名乗りあった。

女将の名前は、モアナという。

店名の『モアーナ』は、

先代の親父さんが娘の名前に

ちなんでつけた名前だそうだ。

その先代が数年前に亡くなってしまい、

モアナは宿屋を継ぐために、潔く騎士団を辞めたらしい。


「クラテルは、お父さんを殺したヤツを

ずっと探し続けてるんだよ。

今の団長の指示を無視してね・・・。」


オレはモアナに、クラテルの事情を

話さなかったが、モアナのほうが

クラテルの事情を知っていた。

聞けば、クラテルは、たまにこの宿屋を訪れて

モアナにいろいろ話しているらしい。


「クラテルのお父さんには

小さい頃から世話になったし、

騎士団に入った時も世話になったからね。

あたしも、クラテルと同じ気持ちだよ。」


オレと話し込んでいるうちに、

自分で酒を持ってきて、飲み始めたモアナ。

気分が悪い話も、酒があれば語れるものだ。

オレも、勘定が終わってしまっているが、

付き合えと言われて、いっしょに飲み始めてしまった。

これは・・・明日に響くかもしれない。


「女将は、犯人を知っているのか?」


「あー・・・。」


モアナが一瞬、言い淀んだが


「佐藤さんなら、話してもいいかもね。

逆に、協力してくれそうだし。」


と、クラテルと似たような考えに至ったらしく、


「『サウラ窃盗団』のリーダーは、トライゾンって名前でね。

『元・黒い騎士団』の団長だったやつさ。

元々、この国には、二つの騎士団があったんだけどね・・・。」


クラテルと同じ説明を受けた。

今さら、「それは知っている」とは言えず、

初めて知ったかのように、黙って聞いた。


「クラテル殿の親父さんも、相当な強さだと聞いたが、

そのトライゾンってやつは、もっと強いってことか。

やっかいだなぁ。」


オレは、どこか他人事のように言った。

実際、他人事だし、

おそらく、この短期間で

犯人に会うことは無い気がしているからだ。

居場所の情報ぐらいは掴んでやりたいところだが。


「最初は、そんなに強くなかったんだよ。」


モアナがそんなことを言う。


「それは、鍛錬して強くなったということか?

それとも・・・明らかにおかしな強さか?」


「なにが原因かは分からないけれど、

間違いなく、鍛錬じゃないね。

親が貴族かお金持ちか知らないけれど、

コネで入団したからって、

ろくに集団訓練に参加しなかったからね。

鍛えてるところを見たことがなかったよ。」


そんなヤツが、よく退団させられずに・・・

そうか、コネのせいか。


「ということは、魔法を使ったか、

魔導具の武器を使っているか、かな?」


魔法は、三種類に大きく分けられる。

『攻撃の魔法』、『回復の魔法』、『補助の魔法』。


直接相手にダメージを与える『攻撃の魔法』。

主に、戦いに用いられる。


傷を癒したり、病気を治す『回復の魔法』。

戦いでも用いられるが、病院で重宝されている。


そして、『補助の魔法』には

様々な効果があり、用途もそれぞれ多種多様で、

いろんな職種で使われている魔法だ。

その一部に、『筋力増強』の効果がある魔法がある。

戦いに使われるだけじゃなく、

力仕事にも使われているものだ。

トライゾンの強さは、コレかもしれない。


もうひとつの可能性は『魔導具』。

これは魔法を使えないものでも、

魔法の効果を発揮するアイテムを使えば、

魔法と同様のことができるというもの。

いきなり強くなったのであれば、

こういうアイテムを入手した可能性もある。


ただ・・・


「しかし、クラテル殿の親父さんと

決闘したということは・・・

そんな決闘なんかで、魔法やアイテムを使えば

すぐにインチキがバレるだろう?」


魔法の効果には、持続時間に制限がある。

決闘の直前に使わなければ、意味がない。

でも直前に使えば、当然、

使った瞬間に相手は魔力を感知するだろう。

『魔導具』にしても、あからさまに

魔力を発揮するものを持っていれば、

それも相手に感づかれてしまう。


「もちろん、みんなが観戦し、

王様や騎士団が見守る中で行われた決闘で、

そんなものが使用されれば、

当然、決闘は無効になるはずだよ。

でも、決闘にインチキはなかったみたいなんだ。」


「・・・強さの謎か。

それが解けないと負けるかもしれないな。」


クラテルの親父さんが、国内で最強だったなら、

その最強に勝った男を討ち取るのは容易ではない。

数で押し切るか、その強さの謎が分かってないと

対処できないまま負けるかもしれない。


「元々、妙な剣術の使い手だったんだよ。

でも、最初はその技が完成してなかったみたい。

それが決闘前に完成したらしいんだ。」


「妙な剣術?」


「あたしは直接見てないけど、

見た人たちが言うには、変幻自在の剣らしいよ。

剣がクネクネ曲がるんだってさ。」


「おいおい、その剣こそ『魔導具』じゃないのか?」


「剣は国が支給した普通の剣だよ。

トライゾンだけが特別な剣を持ってたわけじゃないからね。」


「それもそうか。

だとすると、ますます謎が深まったな。

クネクネする剣か・・・。」


ヘビみたいな動きかな?

ヘビは、たまに山奥で見たことがあるが

クネクネ動いていたはず。


「・・・戦いにくそうだな。

戦いたくない相手だなぁ。」


そう言いながら、酒を飲む。


「なにさ、ビビってんのかい?

あんたほどの男が。」


モアナが、あおってくるような言い方をしてくる。

どうやら酔い始めたらしい。


「女将が、オレのことを

高く評価してくれるのは嬉しいが、

見た通りの老兵だ。

一日中、馬車に乗っていただけで

腰が痛くなるような老体だからな。」


そう言って、腰をトントン叩いてみせる。


「ん~、そうかねぇ?

あたしには、とんでもないモノを

内に秘めてるような肉体に見えるんだけどねぇ?」


酔っぱらっていても、元・騎士だからか。

対峙した時に感じるものがあるのだろう。

オレも『なんちゃって騎士』だが、

戦う相手と対峙した時の

肌で感じる『感覚』を知っている。

しかし、このまま突っ込んで聞かれると

オレが『ソール王国』出身者だとバレる気がするので、

うまく話を反らさねば・・・。


「む、昔から傭兵をやっているから、

そう感じるのかもしれないが。

もう老体だから

女将の、その筋力には負けるよ。」


「まーた、間違った誉め言葉を使ったねぇ。

それは女性に対しての誉め言葉じゃないってば!」


モアナが声を荒げ始めた。

こりゃいかん。

本気で、イヤな言葉だったらしい。


「これは、すまなかった!」


素直に謝る。


「オレは、どうやら一言多いらしいのだ。

よく女房にも怒られたもんだ。ははは・・・。」


笑って許してもらおうとしたが、


「なんとなく奥さんがいるだろうとは思ったけど、

本当だよ、まったく。その余計なことを言う口を

なんとかしないと、奥さんがかわいそうだよ!」


ドン!と、モアナが空になったコップを

テーブルに置く。

まだ怒り足りていないらしい。


「そ、そうだな。反省している・・・。」


「だったら、あたしの機嫌が直るような

誉め言葉を言ってごらん!」


「な、なに!?」


なんだか、話がおかしな方向へ

流れ始めている気がする。

深酒してしまったのが、さらにまずかった。

ぜんぜん、話を反らす打開策が思いつかない。


「あー・・・えーっと・・・。」


「ほれ、どうした?

まさか、あんた・・・

あたしには誉めるところが無いって言うのかい?」


そう言って、テーブルに上半身を乗り出し

怖い顔を近づけてくるモアナ。

怖いというか、目が座っている。

これは完全に酔っぱらっているな。

客相手にするような顔じゃない。

そんな量を飲んでいただろうか?

案外、酒に弱いのかもしれない。


「い、いや、そんなことはないぞ!

むしろ、いっぱいありすぎて、

どれから言ったらいいか迷っているところだ!」


しどろもどろになって言い訳する。

オレも酔っぱらっているから、頭が回転していない。


「本当かい!?

男なら、言いたいことを

はっきり言ったらどうだい!

あんたは、いっつも、そうだ!」


いつも!?

誰かと間違っているのでは?

だいたい、言いたいことを、はっきり言ったから

こういう状況になっているんじゃないか。


モアナが顔をどんどん近づけてくる・・・。

というか、本当に、顔が近い!

こんなに酒に弱いのに、

今までよく無事に店を経営できていたな。

オレが悪い男なら、

逆に襲われても仕方ない状況だぞ。


「お、お前は・・・。」


息がかかるほどモアナの顔が近づき・・・


「キレイだ・・・。」


やっと出てきたオレからの誉め言葉に、


「ふふっ」


と、笑ったモアナの唇が触れそうになって・・・


「ありがとう・・・クラテル・・・。」


そう言い残して、モアナの顔は

テーブルに沈んだ。




挿絵(By みてみん)



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