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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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王都、到着




「蒸し暑いな・・・。」


オレは手をパタパタと振り、首に風を送る。

首筋あたりから鎧の中へ少しだけ風が通る。

鎧を脱ぎたいところだが、

脱いだら、鎧は荷物になる。

周りを見てみたが、オレだけが汗をかいている。

木下は少し暑そうだが、ずっと作り笑顔だ。

忍耐力の差だろうか。


同じく鎧を着ている護衛役の男を見たが、

ぜんぜん暑そうにしていない。

この気温に慣れているということか。

汗ひとつ、かいていない様子だ。


風景は、砂地ばかりになってきている。

馬車内を吹き抜ける風も

いつのまにか熱気を帯びている。

馬車が走る街道だけが、土で固められていて、

道端には緑色の雑草が生えているが、

あの雑草は、いったいどこから水を得ているのか。


陽が遠くの砂山に沈みそうになっている。

もう夕暮れだ。

それでも、この気温ということは

昼間はどれだけの暑さなのか。


馬車内を観察していて、ひとつ分かったことがある。

男女ともに、肌の露出が少ない服装なのだ。

こんなに暑い土地なら、もっと軽装備のほうが

涼しい気がするのだが・・・これは文化の違いか。

そして、木下をチラリと見ると・・・

明らかに肌の露出が多い。

この国の男どもが群がってしまうのも無理はない。

こいつは、この国の服装に

着替えさせねばならないな・・・。


「見えてきましたね。」


木下が外を指さした。

砂地の中に、とつぜん、ドーンと現れた巨大な街。

白い外壁が、周りの砂地と似たような色で

近づくまで気づきにくかった。

今は、夕日に照らされて、

砂地とともに、オレンジ色に染まっている。


「あれが王都か。」


街の規模が大きいのは、外壁の大きさで

ひと目で分かる。

王都に近づくにつれ、なにやら音楽が聞こえてくる。

ガヤガヤと人々の話し声も聞こえてくる。


馬車は、大きな門の前で停車した。

門の前にいた騎士が一人、馬車内に乗り込んでくる。

『レッサー王国』の騎士だ。

クラテルと違って、鎧の色が黒っぽいが

『レッサー王国』の紋章が胸に刻印されている。


「身分の証となるものを提示してもらう。」


そう言って、乗客一人一人の

身分を証明するものを確認し始めた。

この場合は、やはり『ソール王国』の出国許可証を

見せねばならないか。

身分がバレてしまうが、そのほうが無難だろう。

そう思っていたが、木下は

バッグから、あの『ヒトカリ』でもらった

会員証を取り出した。

それ、身分の証明になるのか?

オレも同じものを出してみる。


「2人とも傭兵か。」


「はい、依頼を請け負っています。」


そう言うと木下は、配達の依頼書も見せた。


「うむ、たしかに。次!」


騎士は依頼書を確認すると、そのまま

ほかの乗客の確認へ行く。

傭兵ということが証明されただけで

身分が証明されたわけではない気がするが・・・

この国のチェックが甘いのだろうか?

とにかく、余計なことが

バレなかったので良しとしておこう。


乗客全員の身分の証明が確認できたらしく、

騎士が降りていく。

ふたたび、馬車が動き出す。


外壁の中は、白塗りの壁の建物で統一されており、

パッと見ても、家なのか店なのか分からない。

店前には、やはり赤い食べ物が多く、

漂っている空気が辛い気がする。

建物と建物の間に、たくさんの衣類?が干されていて、

それが旗のようにパタパタと風になびいている。

通りは人々であふれかえり、

こんな人々で埋めつくされた道を、

よく馬車が通れるなと思うくらいだ。


「どうやら、まだ厳戒令の時間じゃないらしいね。」


オレの隣りに座っている女性の乗客たちが

そんなことを喋っている。

厳戒令? なんのことだろう?


多くの馬車が停まっている広い場所で

馬車が停まる。ここが停留場なのだな。

乗客たちが次々に降りていく。

オレたちも降りて、御者に運賃を払う。


「んっん~~~っ!」


馬車から降りたら、

2人とも、これをやらずにはいられない。

どんなに快適な座り心地でも、

数時間、座りっぱなしだった体が悲鳴を上げている。

2人で思いっきり背伸びする。

しかし、またオレと木下は失念していた。


ざわわっ!!!


「あ、しまった!」


周りにいた大勢の男どもが、

木下の露出した肌や、

思い切り突き出された胸に注目して騒ぎ始めた。


「木下、走るぞ!」


「えっ? えっ?」


オレは二人分の荷物を片手で持ち、

木下の手を引っ張って走り出した。


「あ、待ってくれ!そこの人!」


ざわざわざわざわっ!!!


男どもが静止を呼び掛けてくるが、

立ち止まれば、ひとたまりもないだろう。

あっという間に、男どもの人波が押し寄せてくる。


「ちょっ!ちょっと、どこへ行くんですか!おじ様!」


目指すは、王宮の方向だが、

どれが王宮かは分かっていない。

停留場から見える一番大きな建物へ続く道へ駆ける。


「痛い!痛い!痛い!」


木下が痛がっているが、それどころではない。

人ごみをかき分けて走る。

道の両脇に並んでいる建物の看板に注意しながら

走っていると、左側に『宿屋・モアーナ』の文字が見えた。

クラテルが教えてくれた宿屋だ。

慌てて、店の中へ入った。


カララン♪ カランカラン♪


ドアに取り付けてあるベルが

豪快に鳴っている。


「はぁーはぁーはぁー・・・。」


さすがにオレも息切れしている・・・。

一気に汗が全身から噴き出してくる。

このまま倒れ込みたいほど疲れた・・・。

やはり体が衰えているなぁ。


「ぜぇぜぇぜぇ・・・。」


「はぁーはぁーはぁー・・・。」


木下も、その場にへたり込んで、息切れしている。

汗だくになって、だらけた表情になって・・・

美人が台無しだ。


あまりにも慌てて入店したものだから、

店内が、すこしざわざわしている。

宿屋『モアーナ』。

昨日、宿泊した宿屋と同じく、

1階は広い食堂になっており、

すでに夕食時なので大勢の客でごったがえしている。


「ヒュー!たまんねぇーな、おい!」


一人の男が、そう言いながら

席を立ち、こちらへ近づいてくる。

その男を筆頭に、次々に席を立ち始める数人の男たち。

視線は、完全に木下へ集中している。


「はぁ、はぁ、ここも安全地帯ではなかったか・・・

はぁ、はぁ・・・。」


一難去って、なんとやら。

かなり疲れたが、

まだひと踏ん張りしなければならないようだ。

老体には、こたえるなぁ・・・。




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